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結城弘子と相川智也 再び

「あなたも暇人ね。絵でも描いたら?」


 夏休みの美術室にいつもいる結城弘子。

 相川智也はそれを分かってて美術室に来たに違いない。狙いは結城弘子なのか、井上華の絵なのか、単純に話し相手が欲しかったのか。

 そして結城弘子以外の部員はほぼ居ない。相川智也はとある幽霊部員の知り合いということでたまにくる。


「結城さんって、美術室に結構遅くまでいるよね。怖くない?」

「そうね、あなたが一番危険ね。私、か弱い美人だから」

「いや、違うから・・」

「なに、私は美人よ」

「そうじゃなくて、俺のこと」

「あら、安心安全な紳士なの?つまらない男ね」

「結城さんって変だよね。破滅願望でもあるの?」

「ない・・と思う」


 結城弘子は愛用のボールペンを置いた。

 そしてさっきまで線をひき続けたスケッチブック代わりのノートに描いた絵を相川智也に向けた。

 それは高校生が描いてはよい絵ではなかった。

 一人の女子が3人の男に押さえつけられていいようにされているシーン。そしてこの4人に服はない。背景も床も描かれていないが、相川智也はこれは床の上だと直感した。そしていつものように顔が描かれていない。だが、頭の部分部分に足された線や影で表情が見えるようだ。女子の顔の下、つまり口は男の手で塞がれている。手では塞ぎきれない女子の悲痛な叫びが聞こえそうなほど生々しい絵。


「これのことが言いたいの?」

「え、いや、結城さんなんで?」

「まあ、本当はもっと服着てるんだけど概要はこんなもんね」


 相川智也は狼狽えた。

 分かっている。これは5年前に隣の美術準備室で起きた事件。当時3年生だった女子が複数人の男に乱暴された後、殺害された。司法解剖の末、採取された体液から犯人は二人とされたが、あまりにも被害女性の身体がひどい状態で、犯人はもっと多いのでは?と言われている。あるいは常軌を逸したレベルの異常者。

 学校や学区ではかなり騒がれたが、TVでは殆ど触れられなかったし、全国ニュースではたいした話題にならなかった。一部の週刊誌で被害女性の写真が申し訳程度の目線消しで掲載され問題になった。小さな写真でも明らかに小動物のような清楚系美人とわかり、「佐々木あずさ」という名前が出ると更にエスカレートして生前の写真が大量に表に出た。彼女が超美人でなければここまで盛り上がりはしなかった。


 相川智也が怖くない?と言ったのはこれのことだ。

 ここは事件現場の隣の部屋。事件後、床や壁を全交換はされたがそこは隣の部屋。ここを皆気味悪がっている。かつては何人も美術部員がここで創作したり談笑していたのだが、事件後、誰も来なくなった。今や結城弘子がひとり絵を描いているだけだ。美術室は事件3年後から使用されるようになったが、美術準備室は今だに閉められたまま。


「相川くん、幽霊を信じるタイプ?」

「俺は・・どうかな・・結城さんは幽霊なんて居ないと思うんだね。だから平気なんでしょ」

「そうね。もっとも、一番怖いのは実体持った生きてる人間だし。その子を怖がるなんて筋違いよ。被害者なんだし」


 相川智也も理屈では分かっている。幽霊がいないことを。居たとしても人殺しはできないであろうことも。人を殺すのは人だ。


「聞きたいんだけど、3人の男描いてるけど3人だとどこで知ったの?まだ未解決なんだよね?」

「4人よ」

「・・・・え?」

「ここに居なかった男が命令したの。少し前にその男がこの子を襲った。思い悩んだこの子は警察に行くと犯人に訴えた。犯人は手下の3人に襲わせ、さんざん強姦傷を作らせ、自分の与えた痕跡を隠したの」


 相川智也はただただ聞いてるしかなかった。次々と出てくる情報は知らないことばかり。結城弘子の推理、あるいは考察が途切れないように静かに聞いた。もしかして最大の謎が解けるかもしれない。


「酷い」

「犯人はその男。その少し後、最後に口封じでとどめを刺した。未成年相手の捜査は難航。隠蔽もあっていまだに未解決。絵の3人は去る時はまさか女子が死ぬとは思ってなかったので、今も警察に怯えてる。そして真の犯人」


 ここから先が重要だ。

 だが。


「言えるのはここまで」

「知ってるの?教えて!」

「相川智也君。あなたは私に特別な力があって全てを見通してると思って近づいた。そうね。それで合ってる。だから当然君のことも知っている。やめときなさい。今のあなたでは振り回されるだけで何も出来ない。相手が悪すぎる。ただ相手も永遠に無敵じゃない。今は大人しくしなさい。佐々木(・・・)智也君」


「なんでそれを!」

「言ったでしょ。見れば解るのよ佐々木くん。今は大人しく待つのよ。動かないで。何もしないで」

「じゃあ、名前だけでも!」

「聞けば貴方は止まらないでしょう。諦めなさい」

「だって!」

「終わり!10秒以内に帰りなさい!さあ、10・9・・」


「頼まねえよ!」


 相川智也が捨て台詞を吐き勢いよく出ていく。

 ようやく静かな美術室に戻る。

 結城弘子は知ってって言わなかった。それが最善だから。

 そしてつかつかと歩き壁の前に立つ。その壁の向こうは美術準備室。


 そして・・・

 結城弘子はがんっ!と壁を蹴って忠告した。


「黙りなさい!弟を巻き込む気?」




登場人物

・佐々木あずさ・

佐々木智也の死んだ姉 井上華よりも可愛くて魅力的だった 「相川」は母方の姓


・犯人・

TV局の偉い人の子供


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― 新着の感想 ―
悲惨な話だわ…… この学校ヤバイな
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