結城弘子と宮部クオラ
結城弘子は困っていた。
「神よ、なぜ私にあのような仕打ちを。確かに生まれ変わってもまたあの男と一緒に居たいと言ったのは私です。あの時はそう思ってました。でも間違いでした。私はなんて悍ましい男に全てを捧げてしまったのか。なぜ神はあの男を私たちの世界に送ってきたのですか?罠ですか?」
夏休みの美術室。
幽霊部員の代わりに提出作品を描いていた結城弘子。気の乗らない創作でうんざりしていたところに、更にうんざりする奴がやってきて、「神よ」なんて結城弘子に跪き、勝手になんか語り出した。
中年エロ漫画家の言うことが正しいならば自身は前世は神みたいな存在だったらしい。だが、記憶はなく何をしたかなんて全く覚えがない。勇者召喚したのかなあ?記憶にございません。
このめんどくさい奴の名は宮部クオラ。
金髪の白人だが日本人夫婦の養子で、この高校の1年である。女子バレー部だったが、1年ながらレギュラー大抜擢を言い渡された時に「ではやめます」といって退部した変わり者。泣く泣くレギュラーを外された北川みそらからすれば顔も見たくない相手である。
宮部クオラはその後野球部マネージャーになったが、タチの悪い部員に冗談でバッターボックスに立たされたが、全打球ファーストライナーで打ち込むという事件を起こす。なにせストライクどころかボールまでファーストに叩き込み、ファーストを再起不能にした。当然、そのファーストは宮部クオラをからかいバッターにした奴である。以後、誰も宮部クオラに逆らわなくなる。
自滅ファースト曰く
「打球は速すぎて見えなかった」
そうである。
「私は神じゃないったら」
「いえ、貴方です」
「・・・」
「あの勇者、何が天才料理人ですか!全部パクリじゃないですか。この世界のオリジナル食べたら全然足元にも及ばないレベル!あんなのを有り難がっていた私が馬鹿みたいじゃないですか!インチキマヨネーズで食中毒起こして小隊一つ潰した時も変な言い訳してたけど、完全に勇者のせいじゃないの!何が敵の工作員の仕業よ!」
宮部みそらは結城弘子に対して懺悔室の子羊ポーズで喋っているが、言ってる内容は懺悔とは程遠い怒りの洪水である。肯定も否定も出来ない結城弘子はますます困った顔である。
「だいたい味音痴のくせして」
ああ、異世界転移か転生で知識チートしたのかと結城弘子は察した。あるあるである。
「ラーメンのライス無料サービスやめたら「この店味が落ちたな」って何よ!味は変わってないわよ!そんなにライス百円が嫌なのかよ!」
あー確かに居るよなこんな奴、と思いながら聴き、それでも筆を動かす。言葉に反応するのが怖い。宮部クオラはラーメン屋でバイトでもしていたのか、かなり怒っている様子。
「私をオナホ代わりにしただけじゃ飽き足らず、✖️✖️したり✖️✖️✖️突っ込んだり、✖️✖️の相手させられたり、✖️のまま✖️✖️✖️✖️行かされたり。AV見過ぎのキモオタは最低よ。勇者への当然の奉仕だと思ってた私が馬鹿だったわ」
結城弘子は慌てて周りを見渡した。大丈夫、誰もいない。こんなの他の人には聞かせられない。学校内で十代女子の言っていい言葉ではない。ていうかそんなことさせられてたのか。酷い男もいたものだ。結城弘子は昔はどうかは知らないが、現在はこの世界の住人である。この世界を代表して謝るべきだろうかと考え始めていた。この世界のキモオタが迷惑かけてすみませんと。
「完全にトチ狂っていたとはいえ、生まれ変わっても勇者と一緒に居たいと言ったのは確かに私。この世界に生まれて16年。偶然にも発見した勇者の野郎。ただの無能キモオタじゃねーか」
宮部クオラ。どんどん口調が壊れていく。ちなみに日本語が上手。というか、実は日本語しか喋れない。
「ですが、勇者召喚前のアイツに会えたのは幸運でした。生前勇者から聞いていた日時、今日の夕方5時半。奴は異世界に送られます。でも大丈夫。今度は私が行きます。絶対に行かせません。私が生前の私を救うのです。勇者の肉便器慰安婦兼肉の盾にはさせません」
つまりは、この宮部クオラはこっちの世界に転生して16年。勇者召喚前の勇者に出会えたと。そして自分に起きる境遇を変えるのだと。それはいい。さっき聞いた肉便器としての仕打ちは女性として許せない。助けに行くべきだと思う。勇者の代わりに異世界に行けば勇者はこっちに取り残され歴史は変わる。そう言うことだろう。宮部クオラはとんでもない身体能力の持ち主だ。あれは普通ではない。鍛えている。きっと勇者召喚に備えていたのだろう。
「歴史が変わって今の私は消えるかもしれない。でもいいのです。あのキモオタとするくらいならゴブリン1ダースとやった方がマシです」
ああ、消えるかもなあ。と結城弘子は思った。
しかもゴブリン1ダース?それも構わないくらい嫌いな男なのか、プレイだったのか。それを容認してたのは勇者の魅了の能力とかかなあ。と想像した。
「そして愛するあの人と一緒になる。今度こそ間違わない。一生愛し続ける!勇者のヤロウが行かなければ私は助かる!」
あ、なんとか自己完結してくれてホッとした結城弘子。
そして黒板上の時計を見る。
PM5:28
結城弘子がもう一度視線を戻すと宮部クオラは居なかった。
今開いているのは窓だけ!その窓から外を見ると、下を走る宮部クオラ。部室棟を横切り、外道路へ。
そして、道路を歩いていた男子生徒を背中から蹴り倒し、追加で頭を踏んづけてから走行中の大型トラックに全力ダイブ!
トラック急ブレーキ。止まったトラックの運転手が降りてきて周囲を捜索と確認。だが、飛び込んできたはずの女子の体がない。倒された男子も自分を蹴り飛ばした誰かを探しているが、その誰かが居ない。暫く二人は何かを探したが、何も見つけられず、そのまま何も無かった事になった。彼らにとっては怪奇現象、幽霊に遭遇したようなものだろう。
トラックは走り去り、男子はまた歩き出す。
そして窓際で結城弘子は絶望した。
あの異世界に行き損ねた男子が遠藤智和だったから。
「え・・私、✖️✖️したり✖️✖️✖️突っ込んだり、✖️✖️の相手させられたり、✖️のまま✖️✖️✖️✖️行かされたり・・・・するの?!」
結城弘子は窓辺で膝から崩れ落ちた。
宮部クオラに男子の名前聞いておけばよかった・・・・
全力で止めたのに。
登場人物
・宮部クオラ
前世は勇者パーティー兼ハーレムの一員。戦力であり、性奴隷。当時は洗脳状態なのかそれでも勇者を愛していた。この世界に生まれて以前の能力を復活させ鍛え有事に備えていた。若き日の勇者(遠藤智和)を見て正気に戻った。そして彼女は勇者となり、生前の自分を守り、世界を守り・・・・消えた。そしてこちらの世界でもあちらの世界でも人々の記憶から消える。覚えているのは結城弘子のみ。