結城弘子と召喚士
5月は忙しすぎる
「地震?」
ガタガタと揺れる美術室。縦揺れとか横揺れとかじゃなく微細振動のような地震。地震というよりは何かの機械が出してる振動のよう。北川みそらは呟いたあとに周りを見渡すと結城弘子が中年エロ漫画家を見つめて一言。
「全く・・しーらない」
結城弘子は北川みそらと西野光輝にこっちおいでと手招きする。理屈抜きで手招きに従う西野光輝に倣って移動する北川みそら。そしてまた抱きつくチャンスとばかりに西野光輝に抱きつきぎゅうぎゅうとJカップを押し付ける。西野光輝は目で助けを求めるが飼い主は放置した。
美術室のドア寄りのスペースには中年エロ漫画家がぽつんと立っている。その足元が何か変。
「あーこれ、みちゃダメなやつね」
「え?なに?」
結城弘子の言葉に興味を持った北川みそらが反応した。
そして貧乏漫画家の足元にいかにも魔法陣と言う感じの円形魔法陣が現れる。目を見開く北川みそら。自分の画材一式を載せてある机をひいて窓際に避難させる結城弘子。この隙に北川みそらの密着を解こうとする西野光輝。だが腕が外れない。
そしてまたあの機能が動き出す。
「あんしんセキュリティ機能を実行しました」
「あんしんセキュリティ機能を実行しました」
北川みそらと西野光輝が突如丸いなにかに包まれる。
丸くて白い卵のようなものが二人をふわりと包み込む。そしてその卵の上から紐のようなものが伸びていて、それが勝手に結城弘子の手首に巻き付いた。中年が施したあんしんセキュリティ機能が卵の管理を結城弘子に丸投げしたのである。
「はいはい。持ってればいいんでしょ」
二人をこの卵で包めば安全である。そして状況に応じた管理を結城弘子がすれば完璧であると言うことだろう。
中で北川みそらが外が見えないと不満そうに愚痴って殻を叩いているが、これから起こることは見ないほうがいい。そして地震はまだ続いている。
「まったく、アマチュアが人数ばかり増やしおって」
「どっち?」
「反教団派だ。つまり反戦活動家のほうだ」
「あらまあ、じゃ、若いのね」
「だいたいクーデターは若造がやり、戦争は老人が始める。どちらも自分のゴリ押しに変わりはない」
普通の広さのはずの美術室に直径20メートルはあろうかという召喚魔法陣が広がる。既に空間が狂っている。結城弘子と卵はその外だ。
「オレがいるタイミングで仕掛けるのはアマチュアもいいとこだ。そ〜れ」
最強の魔女は喝!と書かれた板でぱしんと魔法陣を叩く。それを持ち上げると魔法陣の叩かれた部分がガチャガチャに割れ、中から暗黒の太い柱が持ち上がってきた。そしてそれは下からどんどん伸びて来る・・・・いや、引きずり上げられている。どんどん上がって来る暗黒の柱。それが全て最強魔女の持つ小さな板に轟音を立てながら吸い込まれて行く。この音は巨大破砕機の音だ。召喚魔法を圧倒的な力で引き摺り出し圧縮破壊する。そしてブラックホールのように飲み込む。
「えげつない」
結城弘子の目の前に暗黒の柱の最後の部分が吊り上げられる。それは召喚魔法を実行していた魔法使い4人と依頼主か命令者と思われる3人が居る「召喚の間」。それが丸ごと破壊され破壊音と断末魔と共に板の喝!の文字に飲まれていく。
そして美術室に静寂が戻ると地震もおさまっていた。
そして残された魔法陣の残骸に無慈悲な魔女はケリをいれる。蹴られた魔法陣は壊れた船が沈むように下に消え去った。
「何があったの?」
卵が消え去ると北川みそらがあちこちを見回し「何か」の痕跡を必死に探している。何かが起きたのは間違いない。魔法陣を見た、謎の物体に包まれた、謎の地震、見えないけど聞こえた恐ろしい轟音と数人の悲鳴。過去のこと。知りたいことは山ほどある。
そしてなによりこの二人。
だが。
「結城って!」
「北川。何も見なかったことにしなさい。そうしたら今晩西野をあなたの部屋に向かわせるわ。窓の鍵は開けておきなさい」
「おっけー!」
北川みそらは世界の秘密より西野光輝を選んだ。
・登場人物・
召喚の間の皆様 前世で結城弘子を神と崇めてた教団の若手の過激派閥 老人達を出し抜いて神を召喚しようとした
・根性精神注入棒・ 今回は魔法の杖として使っているが、魔法に杖が必要なわけじゃなく、嫌いなものに素手で触りたくないので使っただけ