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0歳 1日目 生家

──「アヴェルフェン王国」ブランシャード家


「元気な女の子ですよ!」


 臍の緒を切られたとき、私は意識を取り戻した。


 でも持ち越した記憶と知識が産まれたばかりの脳を圧迫し、すぐに死んでしまいそうだった。


 だから私は魔法で思考に必要な最低限の知性だけを残して他は頭の外へと追いやった。


 私はミラシェルのことだけ覚えていればいい。


 その晩、何人もの乳母や使用人が入れ替わりで見守っていた部屋の中に子どもの人影が現れた。


 部屋の中にいた人間はすべて眠りこけている。


(いや~、産まれた瞬間に記憶を忘れ去って脳を守るとは流石だよぉ)


 子どもの声が直接脳内に響く。


(だれ)


(僕だよ僕、神様だよっ)


(しらない)


(じゃあ僕が思い出させてあげよう)


 そう言って妙な子どもが私の額に指をかざすと一気に脳内がクリアになり、すべての記憶が呼び戻された。


(どうして今の私に記憶が戻っても平気でいられるの?)


(それは神様の力で君の脳を最適化したからだよ)


(神様って便利ね)


(そうそう、神様って便利な存在なのさ)

(君のことを都合良く生き返らせてあげられるくらいにね)


(そしたら私の体を死んだときまで都合良く成長させられる?)


(君はすごいこと聞いてくるね)

(そんなこと聞かれたのは初めてだよぉ)


(できるの? できないの?)


(できるよ)


(じゃあやって)


(えぇ……でもそれだと情緒ってものが……)


(早くやれ)


(わかったよぉ)


 神様が私の体に手をかざすと次の瞬間には私の体は死ぬ直前まで戻っていた。


「神様って趣味が悪そうだから」

「願いの意味を曲解して私が首を跳ね飛ばされたときに戻すのかと思った」


「くすくすくす、そういう遊びもたまにはやるけどね」

「君相手にやっても意味がなさそうだし、やらないよぉ」


「じゃあ私はこれで」

「早く産まれるときのミラシェルを見に行かなくちゃ」


「お、おおぅ……」

「すごいね、君は……」

「って、いやいやいや君さ」

「なにか聞きたいこととかないの?」


「ないよ」


「せっかくだから聞いといたほうがいいよ」


 そう言いながら神様は私の前に立ちはだかる。


「いらない」


「せっかくだから聞いときなよ」


「いい」


「なんで?」


「興味ないから」


「せっかくだし興味持ってよ」


「やだ」


「お願い」


 神様は私に向かって両手を合わせた。


 普通、神様が人々に手を合わせられるのじゃないかな。


「ほらほら」

「なんで君が禁呪で魂を焼き尽くしたのに」

「僕が生きてるのかと気にならない?」


「ならない」


「はは~ん、さては分からないから強がってるんだ」


「神様が私にかけた呪いで時間が巻き戻ったからでしょ」

「単純にこの時間には元々神様が普通にいただけ」


 私は逆にそれで本当に時間そのものが巻き戻ったことを理解している。


 神様の魂の消滅すらも巻き戻せるほどの時間逆行が発生したんだ。


「そもそも私が分かっていることくらい神様なら"分かる"でしょ?」


「なんでもかんでも分かってればいいってもんじゃないんだってば」

「ほら、コミュニケーションって大事じゃない?」

「せっかく口があるんだから言葉に出してお互いの気持ちを分かり合わないと……」


 それには私も同意する。


 でもその相手はミラシェルだけでいい。


「まったく、どうして僕がこんなに人間味のあることを言わなくちゃいけないんだか」

「ほら、あとは僕がどうして君に【人生やり直しチート】をあげたかとか」

「気にならない?」


「ならない」


 でもこの返答だけだと、まだ神様が満足しそうになかったので私は説明してあげることにした。


「理由は神様の保険でしょ?」

「時間が戻る仕掛けをあちこちに付けておけば」

「私みたいな人間に魂を消滅させられても問題ないから」

「どうせ他の人間にも同じようなことをしてるんだよね?」


「御名答~」

「さっすがサラさん」


「他に何人くらいいるの?」


「さあね~」

「それは今後のお楽しみにしておいてよ」


 ようやくコミュニケーションが成立したせいか、神様はうれしそうだった。


「ねえねえ」

「神様だと親近感わかないよねぇ」

「もっとこうニックネームとか必要なんじゃないかな?」


 ボリュームのあるおかっぱ髪を揺らしながら神様はどうでもいい提案をしてきた。


「じゃあ神様だから」

「カミサって呼ぶね」


「あっ、はい」

「まあそれはそれでシンプルでいいかなぁ」


 これくらい喋れば神様も、もう満足だろう。


 そろそろ家を出ないとミラシェルの分娩に間に合わなくなってしまう。


 私は過去に、いや未来に?ミラシェルの産まれたときの様子を徹底的に調べ尽くしたことがあるから産まれた日時もしっかりと覚えているのだ。


「それじゃ行くね」


「今度は景色が良いところでゆっくりディナーでも取りながら、お喋りしようよぉ」


「神様って暇なんだね」


「そこそこね、そこそこ」

「他の子たちはもっと構ってくれるのになぁ」


「なら他の子たちで暇潰ししてればいいじゃない」


「いや~、面白い子を見つけるのも大変なんだよぉ」


 どうやら私は神様に面白がられているようだった。


「じゃあディナーの約束、してあげる」

「だから私に首都の家と身分を用意して」

「あとブランシャード家に代わりの子どもを用意して」


「神様相手にそんなにドシドシ要求できるとは君は本当に面白いねぇ」

「家族はどうでもいいの?」


「私はいっしょにいたいとは思わないけど」

「ミラシェルと会うために私を産んでくれたことに」

「私が産まれるまでの歴史を紡いでくれたことに感謝しているの」

「だから幸せにしてあげて」


「ふうん、りょ~か~い」

「じゃあ君が暇そうになったら」

「また声をかけるから、ばいばい」


 そんな暇なんてあるわけない。


 ミラシェルが大人になるまで危ない目に合わないように私が常に見守ってあげないといけないのだから。


「あ、ところで君、服は着なくていいのかな?」




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