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6,水を放つ異能

 今は四月中旬。教域の中学に入学したわけだが、僕の青春はやはり灰色だ。小学校では喋りすぎたと思ったので口数を減らした。そしたら見事にクラスで一人を除いて話す人ができなかった。


 だがいじめられることはなかった。髪の色と目の色は教域では目立ちにくい。異能の影響で髪の色や目の色は変わることがある。つまり僕より目立つ髪の人も多い。


 異能は役に立つのが手に入るかもと期待したが六級だった。日本では超常因子が体に定着している量。簡単に言うと持っている異能の出力によって階級がある。


 怪物のような力を持つ一級から、ほぼ一般人と同じ六級まで幅広い。僕は最底辺である。まあ約五割は六級なので普通だ。『呪い』をつかまされなかっただけマシといえる。


 そう割り切ることは難しい。でも割り切らなければならない。目の前にいる同級生は『呪い』をつかんでしまっているのだから。


 「どうしたの?鈴木君。難しい顔して。」


 佐々木 美鋭みえい。130センチメートルくらいの短く少しぽっちゃりした体に、真っ白い肌、目元の濃い隈、大きく丸い死んだような漆黒の瞳、黒く長い癖のある少しとげのある髪を下ろしている。新型コロナウイルス防止のためにマスクもしている。


 闇の深そうな見た目をしているが。何より異質なのは右目に装着された四角い頭の後ろで留める立体的な眼帯だ。黒い眼帯はマスクの邪魔にならないようにするためか目の付近のみを覆っている。


 マスクで隠れている部分もあるから顔のロシュツはかなり少ない。佐々木は右目が見えなくなる『呪い』を背負っている。『呪い』のせいで目がちょっと変だから隠しているらしい。


 「鈴木君。大丈夫?聞こえてる?」


 「ああ大丈夫。少し暗いこと考えてた。そういえば佐々木さんはマスクしてるんだね。最近してない人多いのに珍しいね。」


 暗いことの内容は言いたくないので話を逸らす。ちなみに僕もマスクをしている。新型コロナが流行ってからは喧嘩など運動の時以外はつけている。病気になったら体力が落ちる。戦闘においてそれは致命的だ。


 「感染症にかかったらお金かかるでしょ。これ以上親に負担かけたくないから。」


 佐々木の回答に彼女のおかれた厳しい環境がうっすらにじみ出ている気がする。こんなこと聞くんじゃなかった。話をさらにずらすか。


 「わかる。僕も戦闘力が落ちるからコロナにかかるのは嫌だね。」


 「え・・・・・・。」


 佐々木が無言になった。中学生になっても僕のコミュニケーション能力には問題があるままだった。とりあえず適当に言い訳して会話を切り上げて教室を出た。


 昼休みにもやることがない。遊ぶ友達はいないし、とりあえず学校で敵を作った時のために校内の探索でもするかな。


 逃走経路の確認は大事だ。今まではそれをしていなかった。クラスで話しかけられそうな人を見つけようとしていたからだ。結局、佐々木しか見つからなかったけど。


 ふむ。しばらく歩いていると極真空手部の部員募集ポスターを発見。僕は中学でも空手をやろうと考えていたので空手着は持ってきている。


 今度見学に行こう。ボクシング部のポスターや剣道部のポスターもあるが空手のほうがいいな。


 その少し後に人気のない廊下に行き当たった。小学校ではこういうところで僕もいじめられたもんだな。


 体育館裏は本人を引きずって連れて行くわけにはいかないから意外といじめに使いにくいのかな?だから廊下?もっとも僕は人目のある教室でも殴られてたけどね。


 ろくでもない思い出だ。おっと、五人の男子が壁際にズボンをはいた女子を追い詰めているぞ。うちの学校の制服は茶色のブレザーで女子はズボンかスカート好きなほうを選べる。


 ズボンをはいている女子は少ないが、あの子が男子であるはずはない。ウサギのヘアピンつけてるし、顔も可愛い。女子だろうな。


 さて僕はどうすればいいのだろう。助けに行くとしたら殴り合いになる可能性が高い。たとえならなくてもガラの悪い不良共に目をつけられると思う。


 行きたくない。でもそうしたら見捨てたことになる。僕は自分と似たような境遇の人を助けなかったということではないのか?


 待てよ。僕もいじめられてたんだ。だとするとなんで僕は助けてもらえなかったのに助ける必要がある?いじめは嫌だったけど、人生ではいじめられることもあるだろう。


 いじめなんて当たり前だ。僕は自分にそう言い聞かせた。ただ踏ん切りがつかなくて、いじめの現場を一度よく観察してしまう。


 次の瞬間、僕は驚愕した。見知った顔がいる。火上だ。火上がいる。教域にいないことを願っていたが、願いはかなわなかったらしい。


 僕は火上に腹が立った。僕に散々殴られたのにまだいじめを続けている。何も変わっていない。


 僕は怒りが抑えられない。明らかにやるべきでないことをやろうとしている。


 でも僕は決意した。叩きのめしてやると。僕は足音を消して、いじめっ子共の中で一番近くにいた奴の後ろに忍び寄る。


 背後から両肩をつかんで、引張ると同時に右膝を勢いよく引き上げる。背中に膝蹴りが入る。背中の攻撃はダメージが大きいので極真空手などで禁止されている。


 だが僕は相手の身の安全などあまり考慮していない。いじめっ子は悲鳴を上げて地面に倒れ伏した。残りは4人。いじめっ子共は何が起きたのかまだ把握しきれていない。


 僕は右の掌底で次の敵の顎に攻撃を加える。続けて腹に左フック、左腕を引き戻してその勢いを利用して右ストレートをみぞおちに入れる。


 攻撃の個所を変えて注意を逸らす連撃だったが、そんなに気を使う必要はなかったかもな。雑魚だから。残り3人。次だ。僕は奇声を上げた。


 「キエエエエエエエエエエエエ!」


 そろそろいじめっ子共も襲われていることに気付く。なので大声で相手を驚かせて反撃の機会を奪い、撃破する。


 硬直した敵に向かってすり足で接近して右の掌底をくらわす。そうするつもりだった。だが火上が僕と硬直した敵との間に割って入った。


 そして僕のみぞおちに左ストレートを打ち込んできた。一歩踏み出した瞬間にしっかり体重をのせた左ストレートだった。まだまだ拙いが前より良くなっている。


 そういえばさっき壁際に女子を追い込んでいた時の姿勢は前より綺麗になっていた。前みたいに猫背ではなかった。


 日本人の9割は猫背や反り腰などで姿勢が悪いといわれている。あいつは姿勢が正常な1割に入ったということだ。


 姿勢は大事だ。日常生活はもちろん格闘技などにもいい影響を与える。あいつの戦闘力は上がったといえる。面倒くせえ。


 僕はすぐさま反撃しようと腰を回転させた。右の掌底で顎を打ち抜く。そう決めた。直後あいつの左手から勢いよく水が噴出する。


 顔に水がかかる。理解が追いつかない。僕は混乱した。そして僕の腹に衝撃が加わる。顎にも何かがぶつかる。


 とりあえず一旦、後ろに何回か跳んで距離をとった。火上は殺意のこもった視線をこちらに向ける。そして仲間たちに指示を出す。


 「こいつを倒す。まとめてかかるぞ!」


 仲間たちは一瞬固まったが、うなずいた。ふむ。指示に対する反応が悪い。連携はあまりとれていなそうだな。


 顔にかかった水のせいで攻撃を食らったが、これなら勝てる。そう考えた僕はすり足で接近する。仲間の一人が後ろに弓引くように拳を引く。


 小学校時代に戦ったやつらより動きがチセツだ。数で押せば楽勝な敵ばかりでインターネットで構えを調べようとも思わなかったのか?


 僕は左の掌底で顎を軽く打ち、怯んだところで右の掌底で頭を揺らす。隙ができたので腹に左フック、とどめにみぞおちへの右ストレート。


 敵はあっさり地面に膝をついた。残り二人だ。火上がまたしても左手から水を放出する。首をひねって水を回避。制服は濡れたが、今はそんなこと気にしていられない。


 火上は左ストレートでみぞおちに衝撃を与えてくる。水に注意を向けたので拳打をよけられなかった。火上の仲間も僕の顔を大ぶりの拳で殴った。


 しかし仲間は拳を痛めたらしく、右拳を左手で抑えて動きを止める。痛みが飛ぶほどには興奮していないのだろう。


 そんなんで痛がるくらいなら地に沈めてやるよ。僕は右の掌底を打ち込み仲間の頭を揺らす。そのすぐ後に火上が右拳を僕のみぞおちを狙ってまっすぐ突き出す。


 火上の右ストレートを左の前腕を使って逸らす。少し身体のバランスを崩した火上の前足に左足でのローキックを食らわせる。


 足に攻撃を加えたことで火上の姿勢はさらに崩れる。僕は左足を引き戻して軸足を変えて、右足で前蹴りを火上の腹部にぶち込む。


 もっと殴ろうかと考えたところで火上の仲間が飛び出してきて拳を後ろに引く。そんな雑な攻撃しかできないなら引っ込んでな。


 相手の拳が届く前に右の掌底で顎に攻撃。火上の仲間はそれだけで腕を動かすことをやめる。追撃しようとしたところで目に水が入る。


 視界が悪くなった。そのすぐ後に頭が揺れる。もう一度揺れる。さらに揺れる。だが火上が腕を引き戻す前に腕をつかむことに成功。


 自分で言うのもなんだが、今の僕は空手の組手の時より強い。負けられないので反応がいつもより良くなっている。僕は腕をつかんだ後、首を振って水を払い、火上の腕を引っ張る。


 そして手を放して、火上の頭を引き寄せて膝を抱え込む。そして火上の横顔に膝をめり込ませる。頭に強い衝撃が加わったせいで火上は何もできない。


 とどめを刺そうと思ったが火上の仲間が近寄ってきていたのでやめた。奥足での前蹴りを腹部に命中させて戦闘不能にする。火上に気をとられているから隙があるとでも思ったのか?


 まだ倒れていない火上の足に奥足での強烈なローキック。バランスを崩して転倒した火上の上に馬乗りになって握りこぶしの小指側、つまり鉄槌を振り上げた。


 「だ、駄目です!」


 いじめられていた女子が僕の眼前に立っていた。邪魔だな。僕は目をかっぴらいて女子の顔を下からにらみつけた。


 


 


 


 

 


 


 


 


 

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