最終話、空気の重い待ち合わせ
夏休み明け。うだるような暑さの中、サーちゃんと公園に向かっていた。
「なあ、サーちゃん。本当に奴らを集めて良かったのか?そもそもさ。僕たちにその活動は荷が重くないか?」
僕の隣を歩くサーちゃんは緑色の髪をツインテールにしている。だいぶ髪伸ばしたな。それでもまだ肩にはかからないが。
服装は半袖ブラウスに膝が隠れるくらいのフレアスカートと言った女の子のような格好だ。
「大丈夫ですよ。秀太は心配症ですね。」
廃ビルでの戦闘以降、僕たちは名字で呼び合うのをやめた。今では山田と呼ぶ方が違和感がある。
サーちゃんという愛称は本人の希望だ。サーちゃんの下の名前は和正というらしいのだが、可愛くないからその名前は使いたくないと言うのだ。
それから一通り喋っていたら公園に着いた。日焼けしたような浅黒い肌に黒髪に血で染まったような赤色の瞳、少し長い顔の男がスマートフォンをいじっていた。サーちゃんが手を振ってあいさつする。
「今着きました。佐藤さん。早いですね。」
佐藤だ。まだ待ち合わせまで10分くらい時間があるのに『加虐の決闘者』とか呼ばれているのにそういうところはまともなんだな。
「ああ!俺たちは親友だろ。親友の時間を無駄にすることはしない。」
「・・・・・・。」
いつから僕たちは佐藤の親友になっただろうか?知り合い、よくて友達ではないだろうか。そしてセリフが重い。佐藤が打ち出す拳よりも重く感じる。
佐藤は僕たちの表情に気づいて頭を下げた。顔は見えないが、地面に水てきが垂れるのを見るとないているのは丸わかりだ。
佐藤、空気を少し読めるようになったんだな。そしてそのせいで今苦しんでるんだな。
エライ!成長したよ。いっぱいナけ。ナミダがお前を強くする。
僕がやさしい目でチンモクした佐藤をみていると森田がやってきた。
「森田先輩!来てくれましたか。」
今度は僕が明るく声をかけた。気まずいふんいきなので助かった。ただ様子がおかしい。足をガクガクさせている。
「森田先輩、大丈夫ですか?」
素早く相手をきづかったのはサーちゃんだ。僕は何を言えばいいのか分からなかった。
「へへ大丈夫さ。『超凡』を探して供給を止めるんだろう。お前らだけにそんな危険なことはさせないさ。大丈夫だ。俺は大丈夫だ。大丈夫。」
全然大丈夫じゃなさそうだ。森田は腰が抜けて膝からゆっくり崩れ落ちて、息をすったりはいたり。
・・・・・・しばらく放っておこう。まあ危険にビンカンな森田なら今回の作戦は怖いのだろう。
それでも来てくれたのはありがたい。これ使い物になるかな?あと空気が重い。重すぎて膝が壊れそうだ。
後ろから足音がする。僕は振り向いた。清助がうつむきながら無言で歩いてくる。僕たちから少し離れたところで急停止。
あたりは一気に静かになった。・・・・・・もう帰っていいか。空気は悪くなるばかり、悪い空気の吸いすぎで口から血が出て死にそうである。
「よ、よう、鈴木君。」
「あ、ああ、寺岡君。」
よそよそしい。前までは下の名前で呼び合う関係だったのに。清助、そんなに気まずいなら裏切らなければ良かったじゃないか。そう思うが口には出せない。
「・・・・・・裏切らなきゃよかったじゃないか。」
やべえ。口に出た。清助はさらに下を向いた。そして一言つぶやく。
「・・・・・・ごめん。」
そう言って清助はしゃべらなくなった。他のみんなも全くしゃべらない。
しゃべれよ。自分のことをたなに上げて強く心の中でさけんだ。それから数分、誰も口を開かない。
いや僕たちがそう感じているだけかもしれない。実際は数十秒くらいしか経ってないのかもしれない。
時間の流れについて考え始めたとき僕たちの方に誰かが近づいてくる音がした。みんなの視線が足音の主にいっせいに集まる。
足音の主は火上だった。遅い!みんなはこんなに早く来てつらい思いをしてるっていうのによ!
「遅えぞ!火上ええ!」
「時間通りだわ!鈴木!言っとくがな俺はこの作戦はやりたくねえぞ。なのに来てやったんだぞ!」
「んだとこの野郎!薬使ってた悪党が償いもしないなんて図々しいな!」
「お前も薬に手を出そうとしてたじゃねえか!そもそも殴り倒して薬を奪おうとしてたやつが謝罪もせず、協力を求めてくる方が図々しいぞ!全然償ってないじゃねえか!」
「うっ、僕はな。これから償うんだよ。」
「じゃあ俺もこの作戦で償わず別のことで償うよ。」
・・・・・・もう反論が思いつかない。殴って言うことを聞かせようか。僕は腰を落とし一気にキョリを詰める。火上はバックステップし水球を一個生成し発射。
腹を狙ったその一撃を半身になってかわす。火上、それじゃ僕は倒せねえよ。しかしサーちゃんは僕を倒せるのだ。背中に強い衝撃が響く。
「秀太!いけません。」
僕は理性を取りもどして振り返った。サーちゃんが左目に光をまとわせて僕をにらみ、風の球が数個浮かぶ。
「サーちゃん。でもね・・・・・・。」
「ダメ!」
僕は首を縦に振って黙った。それを見て火上がげらげら笑いながら指をさして僕をののしる。
「鈴木ぃ。お前、山田に逆らえねえんだな。すっかり尻に敷かれてやがる。しかも女じゃなく男のなあ。なあ?嬉しいか・・・・・・。」
火上の胴体で風の球が爆散。火上は腹をさすってだまった。それを見て僕は考えた。やはり例の薬の副作用はなかなかおそろしいかもしれない。
以前のあいつならサーちゃんが怒って風の球を発射する前に悪口を言うのをやめていた。感情のコントロールが少し悪くなっているかもしれない。
代わりに異能は薬を飲んでいた時と比べて下がっているとはいえ四級。薬を飲み始める前は五級。つまりワンランクアップだ。
そう思うと僕も飲みたくなってくる。だ、だがガマンだ。サーちゃんと飲まないって約束した。
そしてサーちゃんと約束したことはもう一つある。それは『超凡』のソウドウを解決すること。そしてここに人を集めた理由は・・・・・・。
「皆さんに集まってもらったのは『超凡』の供給を止めるためです。危険だと思うので腕に覚えのある方のみ呼んでいます。」
「危険だと思うなら俺たちを呼ぶんじゃねえよ!」
火上が吠える。ずいぶんとハンコウテキな犬だ。保健所に連れてってもらいたいものだ。佐藤も吠える。
「この臆病モンが!どのみちおめえは薬に手を出した。急に能力が上がったのは薬のせいだという噂を流されたくなけりゃあ大人しく従いな!」
こちらは頼もしい犬だ。番犬に欲しいくらいだな。そして番犬とキョウケンはお互いににらみ合う。それからそれぞれ構えをとった。
直後にらみ合う二人の間を風の球が通り過ぎていった。二人は構えるのをやめた。
「私は皆さんのことを信じています。それにこの街に危ない薬はいりません。」
サーちゃんのセリフを聞いたみんなの反応はそれぞれだ。佐藤は拳を作り、肩を揺らす。森田は自分の胸を叩き、深呼吸をくりかえす。
清助は目をかっぴらき笑顔を作る。なぜ笑う?どんな敵が出るか楽しみなのか?火上は頭をかきながらも作戦から手を引くつもりはなさそうだ。
まあ薬の件で脅してあるし、薬のコウイショウを治す方法も知りたいのだから当然と言える。さっきのはついハンコウテキになっただけだろう。
クセの強い人間の集まりである僕らは街へと向かって早足で歩き始めた。




