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3,異能の都市へ

 学校では相変わらずみんなから避けられている。少し近づいただけでみんな僕を怖がる。火上も絡んでこなくなった。あと火上は前より真剣な表情をするようになった。


 何かあいつの中で変化があったのだろうか?わからない。そもそも昔からあいつのことはよくわからない。僕をいじめていた理由もはっきりしない。


 いじめがなくなったのに全く幸せではない。そう思いながら僕はとりあえず今まで通りの生活を続けていた。道場に通うのも柔軟運動をするのも今までと変わらない。


 そんな代わり映えのない日々がしばらく続いた。これからどうなるのか考えると不安で仕方なかった。常に恐怖を感じていた。そしてある土曜日の夜、寝る前の柔軟運動をしていると母に呼ばれた。


 僕は母に促されるままキッチンにある机に座った。隣には父もいる。何か深刻な話だろうか?母はまっすぐ僕を見て口を開いた。


 「このまま地元の中学に行きたい?」


 「行きたくない。」


 即答だ。このまま中学に行っても僕が火上をタコ殴りにしたことを知っている連中と一緒だ。またクラスで孤立する。それは嫌なのだ。


 となりにいる父はやっぱりそうかというふうに頷いた。父と僕の様子を交互に見た母は優しい声色で僕に提案してきた。


 「寮に入ることになるけど東京教域にいかない?」


 そこから学校の勉強を家でしていない僕には少し難しい話が続いた。わからない単語もいっぱいあった。話をまとめると以下のとおりである。


 東京教域とは東京先端教育区域の略である。東京教域は全国8か所に設置された超常能力教育区域のひとつ。


 先端教育区域、略して教域は5年前に全国8か所の主要都市の近くの比較的人が少ないところに作られた。教域は政府が超常能力所有者、俗称は異能者を育てるために作られた。


 異能者自体は昔からみんなが存在に気がつかないぐらい少数だったらしいが存在した。異能者の人口が急激に増えたのはつい最近だ。そのきっかけは2012年に中国が人体実験の末に異能者を人工的に作りだす方法を見つけたという情報が全世界に伝わったことだ。


 中国が行った研究で分かったことだが異能者は異能者がもつ特有の物質を脳で操って異能を使うらしい。その物質は超常因子と名付けられた。


 中国は超常因子を人工的に作る方法を見つけて、人に打ち込んでみた。するとその人は異能を使えるようになったのだという。


 中国はその実験をヒトクしていたが、その情報が洩れて世界中で異能者に対する研究と生産が進んだ。日本は研究でも生産でも出遅れた。


 他の国が異能者をどんどん増やしているのに、日本は異能者を増やす有効な政策をとることができなかった。父がどれだけ日本の政治が悪いのかという話を熱心にしていた。だからチョウキセイケンはだめだとか研究に対する予算が少なすぎるとか文句を言っていた。


 難しい話だから日本の政治の話をあんまり覚えてない。僕はだめだな。頭が悪すぎる。まあ難しい話は置いといて異能者が増えない中困った政府はある政策を実行。それが先端教育計画だ。


 結論から言うと異能者を生み出すための場所を作って学生に異能を与える。そういうものらしい。なんでそんな突飛な案になったのか?父曰く保護者の教育に対する情熱を利用するためだという。


 近年、日本では国民の年収の格差が深刻化している。貧しいと十分な勉強をさせてやることができない。それでも我が子にいい教育をさせてあげたい。


 そんな親の願望を政府がかなえた。一クラス20人以下、整備された寮、多様な部活動、実力の高い教師など様々な魅力的な要素を備えた環境を無料で提供することにしたのだ。もちろんいいことばかりではない。


 一つ条件がある。それは親が我が子に超常因子を打ち込むことを許可するということだ。簡単に言えばまだよくわからない物質を打ち込む代わりに良い教育を受けさせてやる。まるで悪魔と取引をしているかのようだ。


 余談だが、新しくたくさんの学校を作ることになったので政治家共は自分と仲のいい建築会社に仕事を任せるなどオショクを大量発生させたらしい。父が憎々しげに語っていた。


 話を戻そう。悪魔の取引のような政策だったがそれでも一定のジュヨウはあった。教育熱心な家庭の子供だけでなく、地元で過ごしにくくなった子供や子供を育てるのが厳しくなった親にとっても悪い話ではなかった。


 というわけで僕も教域に行かないかというわけである。僕は話が終わった後に両親のほうを見る。どちらも渋い顔をしていた。僕に教域にいくことを提案してきたが複雑な気持ちらしい。


 やはり親としては超常因子とかいう胡散臭いものを息子に打ち込むのは不安らしい。色々副作用もあるし。でも僕の答えは決まっていた。息を吸って、目をかっぴらいて答える。


 「僕は東京教域に行くよ。このままここにいても多分僕は幸せにはなれない。それに能力とかいいの出るかもしれないし。」


 母は涙を流した。父は天井を見上げた。僕は駄目な人間だけどそれでも愛してくれる人がいる。二人が真剣に悩んでくれるのがうれしかった。


 でも自分で決めといてなんだけど東京教域という新しい環境でやっていけるか考えると怖くなってきた。良い異能が手に入るといいな。


 


 


 


 


 


 




 


 


 

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