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2,その日僕は化け物になった

今日も学校に行く。昨日までは憂鬱だったが今日からは違う。昨日僕はとうとう喧嘩に勝った。相手は揃えられる限界まで数をそろえたのに負けた。やっぱり異能なんてなくても大丈夫だったな。


 これであいつらもあきらめて僕をいじめることをやめるだろう。これからは今までとは全く違う生活になるだろう。今までの苦労が頭によみがえってくる。


 僕が小学一年生で入学式が終わって一か月経ったころだった。発達障害だった僕はクラスで浮いていた。早口だったし、少し貧乏ゆすりもしていた。それに両親は黒髪なのに金髪碧眼だった。


 成績もよくはないし、運動は発達障害のせいでかなり苦手だった。顔も鏡で見るとなんか間抜けそうな感じがする。正直言って少し不細工だ。


 ざっくり言えばいいところのない悪目立ちする落ち着きのない奴だった。そんな僕に火上は目をつけた。火上は勉強も運動もできて、きりっとした綺麗な顔をしたクラスの人気者だった。火上は名前は変だし、赤毛で目立つ容姿だったがクラスで浮くことはなかった。


 僕は火上にある日突然殴られたのだ。なんで殴られたのかわからない。びっくりしてその場から動けなかった。さらに殴られた。


 理由を聞いたり、謝ったりしたがそれで解決する問題ではなかった。たまらず先生に何とかしてほしいと頼んだ。火上は先生に怒られた。


 それでも火上は僕を殴り続けた。親にもそのことを打ち上げた。母が怒って学校に相談しに行き、火上の母と僕の母は校長室に呼ばれた。


 僕の父もたまに学校に呼ばれたが火上の父は来なかった。火上に父がいないのか、それとも仕事が忙しいのかはわからない。はっきり言ってどうでもよかった。


 火上の母は面倒くさそうに対応していた。火上の母親の態度は僕にはどこか他人事のようにとらえているように感じた。もうどうすればいいのだろう?


 そう考えて出た結論は火上に殴られる前に逃げることだった。しかしそううまくは逃げられない。火上はクラスの仲間を動員してきた。


 追手がたくさんいるので逃げ切るのが大変だった。それでも捕まればひどい目に合う。全力で逃げ続けた。失敗、失敗、失敗、成功、失敗、失敗、成功、成功、失敗、成功、成功、成功。


 僕は逃走技術を磨き捕まらないようになった。だが火上は僕が休み時間が終わる少し前に教室に帰ってきたところで取り囲み、僕を殴ってくる。


 小学一年生の七月、もうこれは戦闘力を上げたほうがいいのでないか?そう思った。それから極真空手を習った。道場が開いてる日は必ず稽古に出た。


 道場が開いてない日は持久力をつけるために町を走り続けた。家にいる時間は柔軟運動をした。学校でも逃げることをやめてインターネットでみた武術の技を敵と戦うときに使ってみたりした。このように勉強もせず、遊びもせず戦闘力のみを鍛え続けた。


 そこからどんどん強くなっていった。苦手だった体育の授業は空手で体の扱いを覚えることで得意になった。毎日、運動してたくさん食べてたっぷり寝たせいか身長は高くなり、160センチメートルだ。


 今ならそこそこ強力な戦闘向きの異能を持ってるやつにも勝てるような気がする。・・・・・・そこそこ強力な異能を持ってるやつのほうが格闘技を全力でやってるやつより少ないらしいけど。


 同年代男子の平均身長は150センチメートルなのでまあまあでかい。もちろん強くなる途中で起こったいいことばかりではない。むしろ悪いことが多い。


 長期にわたるいじめのせいでうつ病と不安障害を患い、向精神薬が欠かせなくなった。道場に一人天才がいてこいつならもっと上手く戦うだろう人と比べて落ち込んだこともあった。それでも僕は戦い続けた。


 そして小学六年生の夏休み明け、つまり昨日ようやく4人を相手に勝利した。これまでも人数が少ないときは勝ったこともあった。でもそれじゃ足りない。


 数をそろえれば勝てると思っている限り相手は強気のままだ。でももうあいつらは強気にはなれない。あいつらが揃えられる人数はあれが限界だ。


 そうやって自分に言い聞かせる。そうじゃないと不安で押しつぶされそうだからだ。おっと、そろそろ教室だな。


 さあて今日から居心地がよくなるぞ。僕は元気よく扉を開けた。その瞬間、信じられないものを見た。あの汚い机は何だ?・・・・・・僕のだ。


 僕の机は落書きだらけになっていた。教室を見渡すと火上が口を押さえてにやけていた。僕はいつもの構えをとって火上に近づく。火上は構えをなぜかとっていない。いつもならすぐ構えをとるはずだ。


 なんでだろう?そんな疑問を持つ僕に火上は少し笑って尋ねてきた。どうでもいいわ。殴ろう。火上が笑った瞬間にそう決意した。


 「どうした?なにが、」


 そこで言葉は途切れた、僕は奥のほうにある右足を上げて、腰を回転させてから一気に右足を伸ばした。火上の右の太ももに僕のローキックが炸裂する。ただの素人ならローキック一発で足がダメになって立つことができなくなる


 だが火上は昨日、ただの素人なら立っていられないほどの攻撃を受けてもあきらめなかった。もっと攻撃を加える必要がある。

 

 僕は足を引き戻して、ローキックを終えた足を地面に戻す。今度は逆の足を軸足にして腰をひねり体重をしっかりと左足に乗せる。


 そして膝から左足を引き上げ、火上の腹の側面に蹴りを入れる。ミドルキックである。すぐに足を引いて元の構えにもどす。火上は何とか攻撃を耐えている。それから痛みをこらえてしゃべり始めた。


 「なあ、なにがあっ。」


 僕はこいつの話を聞くつもりは全くない。すぐに一歩すり足で距離を詰めて、火上の頭を抱え込み、踏み込んだ勢いで膝を上げ、火上の顔に膝をぶち込んだ。上段膝蹴りだ。


 火上はさすがに耐えきれなくなって地面に倒れる。僕は火上に馬乗りになった。掌底を連続で打ち込んでやる。


 そこで肩に手が置かれた。なんだ?僕は振り返った。クラスの男子だ。僕がいじめられるのをただ見てた奴だ。そいつは震える声で言った。

  

 「だ、駄目だよ。火上君が、死んじゃうよ。」


 僕がいじめられているときは見てただけなのに火上のことをかばうのか?腹が立つ、僕はそいつのことをにらめつけて怒鳴った。


 「黙れ!お前もこうなりたいのか!」


 クラスの男子は目に涙を浮かべながら急いで後ずさりする。そういえば他のやつらは僕に文句を言うわないのか?見渡すとクラスのみんなも化け物でも見ているかのような表情を浮かべている。


 これはひょっとしてやってしまったか?これから僕は近づいてはいけない怪物のような扱いを受けるのか?


 待て。火上はなぜ無抵抗なんだ?僕が馬乗りになっているのに身動き一つしない。火上のほうを僕は見た。火上はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。


 こいつまさか僕にわざと殴らせてみんなに話の通じない野蛮人という印象を植え付けさせたのか?僕の残り僅かな学校生活は決していいものにはならない。みんなの僕に対する視線がそれを物語っていた。


 

 

 


 


 


 


 

 


 

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