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第6話 灰谷修という人物

 屋上に移動し、各パートに分かれて練習する予定だった――。


 結論――私はサックスをかなでることができなかった。そう、私の駆られていた不安はみごとに的中したのだった。


 私は頭のケガを理由に、しばらくの期間、演奏を控え後輩たちの指導に専念することを部員たちに伝えた。事前に桂子からそう言うように言われていた。先輩として、パートリーダーとしての威厳いげんを保つためらしい。


 しばらくすると、顧問の灰谷先生が屋上に姿を現した。


 灰谷先生は私が演奏をしていないことに気付くと、ゆっくりと近づき理由をたずねてきた。私が理由を説明すると、先生の部屋で体を温め休憩するように言われた。


 先生が個室として利用している部屋は別棟1階の奥にあった。私を先に部屋に招き入れ、後から入ってきた先生は後ろ手でかぎをかけた――えっ鍵?


 部屋には額縁がくぶちに収められた賞状やトロフィーの数々が所狭しと並べられていた。まるで、指導者としての彼の功績を強調するかのように。


「黒瀬、この前の約束はちゃんと覚えてるよなっ、なっ」


 なにを言っているのか意味がわからなかった。ただ、少なくとも音楽の話や私の体調を心配するような話ではないことはわかる。それに、嫌な予感がする。


「忘れたなんてのはなしだぞ。でなきゃお前みたいな地味なやつが花形であるサックスのパートリーダーになんてなれると思うか?」


 血走った目が大きく見開かれ左右別々に動いていた。その姿はまるで人間でない別の生き物のように感じた。

 

「先生は本気で黒瀬を愛してるんだ。だから早く脱いでおくれ」


「そんなの絶対に嫌っ!」


「そんなこと言っていいのか? せっかく与えられたチャンスなんだぞ」


 これはおどしだ。でも、ここは私が主役になれる唯一ゆいいつの場所。決して手放したくはなかった。

 

「し、下着姿までなら……」


「いいぞ。いいぞ。その恥じらいの表情。先生はじらされるのが嫌いじゃない。いや違うなぁ、むしろ大好物だ」


 桂子は私に音楽の才能があると言ってくれた。でも現実は違った――スマホがこちらに向けられ「ピッ」という音がした。

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