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第5話 吹奏楽部

 放課後を迎えるまで気が抜けなかった。


 清白エリカは授業中だろうが休み時間だろうがお構いなしに私のスカートのすそをめくり上げてきた。彼女に逆らわず、それでいて下着を穿いていないことをみんなに隠すためにはスカートを抑え込みながら逃げ回ることしかできなかった。特に男子には絶対に見られたくなかった。


 私は授業終了のチャイムと同時に席を立った。

 

 下着を返してもらうことはすでにあきらめている。からかわれた挙句あげく、返してもらえない可能性だってある。いや、むしろその可能性が高い。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 下駄箱の前で呼び止められた。清白エリカでなく桂子に。


「部活は? 今日はパート練習がメインなんだからあなたがいないと進まないわよ」


 どうやら私は桂子と同じ部活らしい。


「ほらっ。行くよ」


 桂子に腕を引っ張られるようなかたちで、私たちは本館から離れた場所にある別棟3階に移動した。

 

 部屋のドアには『吹奏楽部』と刻まれたプレートがおしゃれに飾られていた。中に入るとロッカーが壁際に並び、その奥にたくさんの楽器が整理され置かれている。まだ他の生徒たちの姿はない。


「前にも言ったけど、私はあなたのこと好きでいじめてるわけじゃないからね。単に清白さんの前では逆らえないだけ」


 そう言って、小さく丸まった白い布が手渡された――私の下着。


「清白さんからは適当な男子に渡すよう言われてたんだけど、あなたに返すわ」

「ありがとう」

「勘違いしないでよ」

「う、うん」

「でも……今日のあなた、いつもと雰囲気が違うのよね。仮にだけど、現状を変えたいと思ってるなら今日みたいな中途半端な対応は逆効果よ。それに、清白さんのご両親はこの学園のPTA会長で多額の寄付もして……」

「あの~」

「なに? 話の途中なんだけど」

「私、どうやら記憶喪失になっちゃったみたいで……」

「ちょっと、なに面倒ごとを私なんかに打ち明けてくれてるわけ!」

「ごめんなさい」


 頭を抱え床に座り込む桂子だった。


 それでも、彼女にこのことを打ち明けたのは正解だった。部活内での私の立ち位置をしっかりと教えてくれたからだ。私は地味だけれど音楽だけは才能があるらしく、吹奏楽部ではサックスのパートリーダーに昇格し、後輩の指導もちゃんとできているそうだ。顧問は体育教師の灰谷修はいたにおさむ、29歳独身。熱心な指導に加え、ここ数年で私立篠峯学園吹奏学部を全国クラスにまで成長させた功績を持つ。


 ガタン!


 廊下のほうから物音が聞こえ、足音だけが遠ざかっていった。


「今の会話……聞かれてたかも……」


 親指の爪をみ不安そうな表情を見せる桂子。

 私はこのとき、それほど気にするようなことだとは思わなかったのだが、桂子が抱いた不安はこのあと的中することになる。それよりも、今の私はまったく別の不安にられていた。

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