第4話 清白エリカという人物
周囲の視線に耐えきれなくなった私は、全力で教室まで走った。そして、ドアに手をかけたところで思いとどまる。どうしよう――自分の席がわからない。
「ちょっと! 出入口で突っ立ってないでくれる。邪魔なんだけど」
またしても背後から声をかけられた。しかもこの声は聞き覚えがある。
「さっきはよくも……」
私は登校時に丸めた張り紙をポケットから取り出すと、彼女に勢いよく投げつけた。
「わたしに逆らうなんていい根性してるじゃない! 香、桂子、こっちきて~」
彼女はいっさい表情を変えることなく教室のドアを開け、仲間を呼んだのだった。
仲間ふたりは躊躇することなく私の両腕をそれぞれつかむと、そのまま女子トイレに連行された。
「今日のあんたさ~ いつもと違って反抗的よね~」
「エリカ、こいつになにかされたの~」
「え~ 清白さんかわいそう~」
白々しい――だが、これで確信した。私はいじめられる側の人間だったのだ。そして、この記憶喪失も現実逃避したいと願った結果の表れだったのかもしれない。それでも――今の私はそれを受け入れることができなかった。
「なに? その反抗的な目は。気に入らないわね~」
「本当~」
清白エリカに続き、香、桂子はまるで息を合わせたかのように声が被った。
「いいこと思いついちゃった~ ふたりともちゃんと抑えておいてね~」
嫌な笑みを浮かべながら、清白エリカはおもむろに私のスカートの中に手を入れてきた。抵抗しようにもふたりにがっちり体を抑えられていて動けない。
――穿いていた下着を強く引っ張られ、ついに足元まで下げられてしまった。
「はい次! 足上げて~」
すでに抵抗する気力は失っていた。3対1では勝ち目はない。ただこの時間が早く過ぎるのを願うだけとなっていた。
「黒瀬は今日1日ノーパンで過ごすこと~ もしわたしに逆らったら、このパンティ~ 男子にあげちゃうからね~」
「童貞オタクの田中なんか喜びそう。匂いとか嗅いじゃったりして〜」
「キモッ!」
私から奪った下着をヒラヒラと左右に煽って盛り上がる3人。
そんなの絶対に嫌っ――でもそんなことを言ったら彼女たちはもっと喜ぶだろう。だから私はできるだけ表情を殺し、なにも言わなかった。
1限目開始のチャイムが鳴ると、3人は「ヤバッ」と言って教室へと走った。
女子トイレにひとり取り残された私――ヒンヤリとした空気が身を覆い、次いで悔しさの感情がやってきた。自然と涙が溢れ出し、しばらくその場を動くことができなかった。