黄金色の太陽に恋焦がれ(後編)
カオリに戦いを挑むコマチ。
彼女は赤い模様が描かれた紙札と小型の火縄銃のようなものを持っている。
カオリは腰を落とし、拳を構える。
コマチは火縄銃の銃口をカオリに向け引き金を引く。
その瞬間を捉えたカオリは避けるように斜め前方へ素早く移動した。
だが、カオリはその直後不可解なことに気づいた。
コマチが引き金を引いてから、銃声が鳴っていない。
それに、弾がどこかを貫いた音もしなかった。
コマチはニヤリと笑みを浮かべている。
再びコマチはカオリに銃口を向けて引き金を引く。
カオリは不可解な現象にも狼狽えずコマチに近づくように弾を避けようと素早く移動する。
しかし、今度は銃声と共にカオリの頬を銃弾が掠めた。
またしても不可解な現象にカオリは戸惑いを隠せなかった。
そんなカオリを見てコマチは得意げに笑う。
「不思議やろ?うちは鬼じゃないからこの妖具のカラクリぐらいスッと言えるんやけど…」
言葉を被せるようにカオリが言う。
「それはアンフェアね。」
コマチはニッと笑い
「わかっとるやん!」
と言って火縄銃の引き金を2回素早く引く。
それを見たカオリは銃口の向きから避けられる方向を推測し、即座にその方向へ動いた。
先ほどと同じく、2回目に引き金を引いた時に銃声がした。
しかし、銃弾が物を貫く音がしなかった。
銃口が向けられていた方向を振り返ると、そこにはゆっくり飛んでいる銃弾の姿があった。
カオリは目を丸くしていると、コマチがカオリの元へ走りカオリの腹部めがけて拳を突き出した。
カオリは表情を変えることなく左手で受け止めた。
そのままカオリは右手を開き、コマチの腹部に当てる。
その直後、コマチは軽く吹き飛び背後の壁に衝突した。
「なかなか容赦ないなぁ」
コマチの苦しい表情を見てカオリは微笑み応える。
「ほな、これやったらどうや?」
コマチは紙札を宙にばら撒き、紙札に向かって発砲した。
銃弾はハエと同じ速度で飛び、紙札に触れた。しかし、神札は銃弾に貫かれることなくなびくだけだった。
数枚の紙札が踊るように宙を舞っているなかから銃弾がカオリに向かって飛び込んできた。
目視出来るほどの速さだったため、カオリは銃弾を右手で受け、強く握りしめた。
予想外だったのかコマチはキョトンとしている。
「腐っても銃弾やで…素手で止めるなんて出来るかいな…」
カオリはゆっくり右手を開くと、握りつぶされた銃弾が地面で弾けた。
コマチは紙札を大量に持ち、宙に撒き散らした。
その中には赤い模様の他、青い模様の紙札もあった。
「コマチちゃんと踊ろうや。」
いつしかコマチは引き締まった表情をしていた。
コマチは引き金を一回引き、地面に落ちている紙札を一つ踏む。
途端にコマチはカオリの背後へ回り込み、カオリに向かって引き金を引く。そして、落ちている紙札を踏み、引き金を引く。紙札を踏み、カオリへ銃口を向ける。
カオリは瞬時に紙札の仕組みを理解した。
紙札には青い模様と赤い模様の2種類あり、青い紙札に触れた物が赤い模様の紙札へ瞬時に移動する。
瞬間移動の妖具。
原理がわかれば避けることなら可能。
銃弾を踊るように避けるカオリ。
発砲のリズムをやめないコマチ。
防戦一方に見えたこの戦い。終わりを迎えるのは早かった。
「しもた!」
コマチの放った銃弾は青い模様の紙札にあたり、カオリの近くの赤い模様の紙札から放たれた。
カオリとは逆方向に。
カオリとコマチの戦いを見ている群衆の活気ある歓声が悲鳴に変わりだした。
カオリは一目散に銃弾へ向かう。
「償いなさい。」
カオリは銃弾に左手を伸ばし、右手を思いっきり開き背後の空気を押した。
カオリは銃弾を追い抜き、左手で銃弾を受け止めた。
コマチは目の前の矛盾に動けずにいた。
カオリが銃弾に追いついたことでも、背後の空気を押したことでもない。
左手からの痛み。
コマチは自分の左手を見ると銃弾に貫かれたかのように鋭い痛みと共に血が溢れていた。
そんなコマチを気にも留めず、カオリはコマチの元へ行く。
コマチは瞬く間に火縄銃を強く掴握られ、左手首を優しく掴まれた。
「…降参や。」
カオリは両手をそっと離した。
悲鳴もあげていた観衆も再び歓声を上げた。
「カオリちゃん。次からそう呼んでええか?」
コマチはそう言って火縄銃を仕舞い、右手で握手を求める。
「えぇ、貴女とは仲良く出来そうだわ。」
カオリは握手に応じたが手はしっかり握ることはなかった。
コマチはカオリの右手を見て微笑む。
「優しいな、カオリちゃんは。その右手、なかなかの怪力やろ?」
以外にも自分の妖具を見抜かれていたことで驚きを隠せなかったカオリ。
「気付いていたのね。」
コマチは笑みを浮かべた後、悩むように首を傾げる。
「やけど、もう一つの妖具がわからん。怪力の小手と…」
コマチは自分の左手の風穴を見る。
カオリは微笑み返し
「怪力は右手だけよ」
コマチは全てを理解したように目を見開いた。
「ホンマや!全部右手や!てことはこいつは左手の仕業か!」
…
今までの一連を見ていたランマルは圧巻と疑問で呼吸すらも忘れていた。
カオリはランマルに手招きした。
ランマルはそれに気づきカオリの方へ行く。
コマチはカオリの目を見て元気よく話す。
「ようこそ、コガネ村へ!ほな早速、ウチのカミサマのもとへ行こか!」
山の向こうへ落ちようとする太陽は最後の輝きを見せ、村全体を明るく暖かい黄金色に染め上げた。
〈次回予告と作者の感想〉
ほとんどがカオリとコマチの戦いになりました。
本当はもっと色々書きたかったんですが、長くなりそうでやめました。
カオリの妖具とコマチの妖具、2人とも2つしか使ってませんがまだその能力は全て明らかになっていません。
次回ある程度は明らかになります。
長らくカオリの妖具を隠していました。お待たせしました。ここまで長くなってしまったのには理由があります。「思ってたより長かった」これに尽きます。
次回は2人の妖具、3体目のカミサマ、そして…満を持して来ます。(やっと次回予告っぽくなった)