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妖の庭  作者: 神橋くない
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黄金色の太陽に恋焦がれ(前編)

サトリ村から旅立つ直前、ランマルとカオリは謎の商人ツナガワと出会う。ツナガワは村を淡々として各地の名産物を売り回るその裏で、守人に向けて妖具も取り扱っている。そのツナガワから取り引きを提案された。


「俺が次の村へ案内してやる。その代わり護衛してくれ。」

身構えていたランマルたちはあまりに安い提案に驚きを隠せない。

「俺は見ての通り足が悪くてな。こういうのも取り扱ってると変な噂が広がって怯えながら移動してんだ。」

そう言ってツナガワは杖を使って器用に立ち上がる。

ツナガワの左足は一見自然に見えるが、どこかぎこちない。おそらく麻痺のような状態になっているのだろう。

「どうだ?」

ツナガワは2人を交互に見る。

ランマルはツナガワを観察しながら考え、カオリはツナガワを睨んでいる。

「信じられない。あなたが無事に案内する保証はどこにあるの?仲間のところへ連れ込んで殺すことだってできるじゃない。」

カオリから冷静な反論が出た。

「そもそも、なんで私たちが他の村へ行くことがわかるの?」

確かに、ランマルたちは寺を出てから他の村へ行くことは話していない。

「1つ、無事に案内する保証。2つ、何故他の村へ行くことがわかったのか。」

ツナガワは指を数えて話す。

「どちらの答えも、俺が商人だから。1つは大事な商売道具を汚すわけにゃいかねぇ。それに俺は商売で食っていってる。商品を別の村へ届けて売ることが俺の仕事だ。そして2つ、お前たちの身なりを見りゃわかる。この村の守人が普段持たない荷物を持ってりゃ誰でもわかる。」

カオリはすぐさま反論する。

「2つ目には納得した。だが1つ目には確信がない。あなたが本当の商人だとしても、私たちにはその真偽がわからない。」

ツナガワはやれやれという顔をして、地べたにおいている箱を取った。

「次の村へ着くまでこれをお前たちに渡す。」

その箱には今まで商売で得たであろう硬貨や紙幣が入っていた。

あまりの大金にカオリですら目を疑った。

「俺にとって金ってのは命だ。俺は金しか信じねぇ。お前たちがこれを受け取らずに行ったっていい。お前らがいなけりゃいつも通りだ。」

ツナガワの真っ直ぐした視線がカオリとランマルを貫く。

「あんたの言ってることが本当なら、あんたは俺たちに命を預けているということ。見ず知らずの人に容易にこんな大金を渡せない。あんたも覚悟してるってことか。」

ランマルはツナガワの視線に応える。

「わかってくれたか?」

ランマルは小さく頷き、カオリを見る。

カオリはため息をつき

「わかったわよ。でも、警戒は続けるわ。」

と左手につけている小手の紐を硬く結んだ。

ランマルはカオリが小手をつけていることに気づいた。

「その小手、ずっとつけていたか?」

ランマルはカオリの小手を指差す。

「えぇ、あなたと出会う前からからずっと。」

おそらくあれがカオリの妖具だ。ランマルはそう確信した。

「よし、店終いも終わった。さぁて、行くとしよう。」

ツナガワはいつの間にか地べたに置いていた商品を片付けていた。

ランマル、カオリはツナガワが進む方へ共に足を運んだ。



サトリ村を少し出たところ、杖をつきながら荷物を運んでいるツナガワをランマルは不思議そうに見ている。

「そういえばツナガワさん。あなたは妖具を扱っているんだよな。移動が楽になる妖具はないのか?」

ツナガワは歩きながら答える。

「そりゃぁあるよ。でも、使っちゃだめだろぅ。足も悪い、妖具を使っている。それは格好の的じゃないか?」

ツナガワが歩いて移動していることにも納得がいく。だけど、今は違う。

「今は俺たちが護衛してるんだよな?なら敵が来たところで助けることはできるぜ。」

ツナガワの目線がランマルに向く。

「そうだった。俺はお前たちに命より大事なもんを預けていた。それも通りだな。」

と言ってツナガワは荷物の中から巻物のようなものを取り出した。それを広げると、大きな蛇の皮だった。

ツナガワは蛇の皮に水をかける。するとみるみる膨れていき、大蛇となった。

「乗り心地は悪いが歩くよりは早い。そら乗った乗った。」

ツナガワは荷物を大蛇に乗せ、大蛇に跨った。

ランマルとカオリは目を疑いつつも大蛇に跨る。

最初は横への揺れに慣れずよろめいていたが、次第に慣れて村に着くまで雑談をする余裕ができた。

「今から行く村はなんていう村なんだ?」

ランマルがツナガワに問う。

「コガレ村ってんだ。情に溢れていて活気のある村でな、1番商売がしやすい村なんだ。」

ランマルはツナガワなら他の村の情報を知っているかもしれないと思い、続けて問う。

「今まで行ったとこある村について軽く教えてくれないか?」

ツナガワは待ってましたと言わんばかりの表情をした。

「いいぜ、俺はフーラ、メグミ、トキ、セオー。この四つの村に行ったことがある。フーラ村は飯や酒に溢れ、メグミ村は薬や医療技術に溢れている。この2つはとても過ごしやすい。だが、トキ村は常に誰かの喧嘩が絶えず血を流した客がよく薬を買いに来る。そして、セオー村は…」

ランマルとカオリは息を飲む

「国だ。カミサマというより王、守人というより貴族。村人というより平民。あそこの村人たちはそれが普通だと思ってるが側から見りゃ異常だ。」

ツナガワがチラリと進行方向を向くと村が見えてきた。

「おっ、そろそろ着くぞ。金と情の村。」

コガレ村は遠くから見ても煌びやかで活気に触れていることがわかる。それに村の奥には立派な城が佇んでいるのが見える。生で城を見るのはいつぶりになるだろうか。



コガレ村に到着し、ツナガワが大蛇を片付ける。

「よし、じゃあ道案内終了〜。俺はここらで店開くからあんたらは好きにしな。」

と言って手で追い払う仕草をした。

「ありがとう。これを返すよ。」

ランマルは大金が入っていた箱をツナガワに返す。

ランマルたちはツナガワに背を向け村を進む。

ツナガワが金と情の村と言っていただけあって、確かに店を出している人の熱量が高く、店主も客もサトリ村より活気に溢れている。

やっと2人きりになったことで、カオリに聞きたかったことを話す。

「カオリ、オボロのことだが。あいつが持っていたのって妖刀だよな?」

「…キミのを見る限りそうね。」

「俺たちがサトリ村へ戻る時には持ってなかったよな?」

「なんなら、ヒカリと会ってからも持っていなかった。斬りかかる直前まで持っているとは分からなかったわ。」

ランマルは首を傾げていたが、カオリはすでにわかっているようだ。

「「妖具」」


カオリの声とカオリより高い陽気な声が重なって聞こえた。

カオリは後ろを振り向く。

すぐ後ろに女性が立っていた。女性というより少し背の高い女の子のようにも見える。

「あんたら、守人やな?」

先ほどの言葉を重ねた人物だとわかった。

周囲の人と比べて高貴な衣服を着ている。おそらくこの村の守人なのだろう。

「よそもんが、うちの村に何のようや?」

質問の圧が強い。おそらく話し方が独特なせいだ。

この話し方、この世界に来る前に聞いたことがある。

…関西弁。大阪や京都などで育った人の独特な語尾にイントネーション。

5年前、あの雲を見たところはそこではない。そう確信はしているが、詳細にどこだったかは分からず頭痛を誘発させる。

「俺たちはサトリ村から来たランマル。こっちはカオリ。過去を知りたくてここに来た。」

「過去を知る?適当な嘘いっとらんと、ウチのカミサマ殺しに来たって素直に言わんかい。」

やはり関西弁には圧がある。疑いの目がギラギラとしている。

「お前も覚えていないか?5年前、発展していた街で今より豊かに生活していた頃、突然変な雲が現れてから気がついたらこの村に来ていた事を!それに、その関西弁は大阪か?京都か?滋賀か?」

ランマルは強く問いかける。

その問いかけに対し関西弁の女は頭を抱える。

「急に強くしゃべんなや…頭痛なるやんか。」

ランマルたちはとにかく敵意がないことを伝えるため思考を巡らす。

()()()()()や」

関西弁の女は突然ささやいた。

「え?」

ランマルは聞き返した。

「やから、アンフェアやって言ってんねん。あんたらが名前晒して何でうちが晒してないねん。」

突然のことにランマルたちは少し引いている。

「コマチ!ウチの名前や!」

突然の自己紹介。ランマルたちは何が起こっているか分からず混乱している。

「ほんで。アンタらは過去の話をウチのカミサマに聞きたいって?」

急に話が進んだ。ランマルは我に帰る。

「そうだ、タダとは言わない、何かそれ相応のこと。俺たちに敵意がないことを証明させてくれ。」

コマチ少し考えて口を開く。

「ほな、決闘しよか。守人同士、1対1の決闘、参ったと言った方が負け、殺しは無し。これでどうや?」

「なぜ戦う必要があるの?こっちは襲うつもりがないと言ってるのに。」

カオリが鋭く反論する。

「ほんまに敵意ないんやったら、ウチのことは殺さん。それに、戦ったらそっちの手札は1部分かるやん?別に手札くらい公開しても困る事ないやろ?」

コマチは試すような顔をしてこちらを見ている。

「わかった。その決闘受けてたとう。」

コマチは和かになり

「よっしゃ!そうと決まれば早速やろか!ランマル言うたな?アンタのそれ、妖刀やろ。」

コマチに携えているよう等を指差される。コマチの表情はどこか冷たく感じる。

「それはアンフェアやな。カオリのねぇちゃん。どうや?」

カオリはえぇ。と言ってコマチと距離を置く。

ランマルはカオリ、コマチから離れて2人の戦いを見ることにした。

「ところで、カオリのねぇちゃんは妖具何個持ってんの?」

カオリは鋭い目をして答える。

「2つ。」

コマチはニコッと笑い

「ほな、うちも2つ使うわ。これでフェアやな。」

気がつけばランマルの後ろには群衆が集まっていた。

群衆はざわつきをやめない。ざわつきの中からヤジも飛び交っている。

「ほな、始めよか。」

コマチはそう言って右手に小型の火縄銃、左手に紙札を持ち、カオリを見つめる。



〈次回予告と作者の感想〉

3つ目の村、コガレ村へ来ましたね。

案内してくれたツナガワ、コガレ村で出会ったコマチは特に強いこだわりを意識しています。

ツナガワは金、コマチは公平です。

そして次回、カオリとコマチの熱い戦いが繰り広げられます。この戦いは今後の作中でも個人的に一二を争うほど好きな戦いになります。

カオリとコマチの熱い戦いにそれぞれの妖具がどんなものか楽しみですね。

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