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妖の庭  作者: 神橋くない
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飲み込むことは認めることだろうか(後編)

揺れる大地、崩壊する家々、オボロの発した「ノム様が」と言う言葉。

全てが繋がってしまった。

以前サトリは話していた。

『カミサマが消えたり壊れたりすると村が崩壊する』

何者かがカミサマを壊した。

オボロの息は激しく荒れていた。

そこにカオリが2人めがけ走ってくる。

「避難!救助!」

ランマルはカオリの言葉で今自分がすべきことに気づく。

カオリはいつも冷静で先導してくれる。

カオリは2人をそのまま通り過ぎていった。

ランマルもカオリとは別の方向へ走った。

ランマルもカオリも振り返ることはなかった。




声が枯れるほど叫んだ。

叫びに応えるのは崩壊の音と燃え盛る炎の音だけだった。

瞬く間に家々は炎に飲まれていく。

月が頭上を通り越し、西に傾いている。燃え盛る火の灯りによって星は見えない。


カオリとランマルは寺院の山門の前に集まった。

遅れてオボロも来た。立ち直るには時間が必要だったろうに、ランマル達の後に救助に行っていたようだ。

「村人たちは…?」

ランマルが2人に問いかける。

2人は頷くことはなかった。

ランマルは悲しい悔しいと言った感情より、怒りが強かった。

何も救えなかった、何も出来なかった自分に。

「どこかの分岐点を間違えたんだ!どこかで違う選択をしていれば!……いや、俺が弱いからだ…」

「ランマルさんは全力を尽くしていたと思います。」

オボロの言葉でランマルは涙を流した。

ランマルの涙が落ち着いた頃、カオリが口を開く。

「戻ろう。サトリ村へ。ランマルがノム村の守人でもあるなら、オボロもサトリ村の守人でしょ?」

ランマルはカオリの方を見ると瞳の向こうに悔しさが見えた。

ランマルは涙を拭い。カオリに話す。

「カオリ、俺に喝を入れてくれないか?」

カオリは驚きの表情をした。

「俺は今の気持ちを忘れたくない。失う悔しさと怒りを…だから!俺に喝を入れてくれ!…カオリならきっといい1発をくれると信じている。」

そう言ってカオリに背中を向けた。

カオリの口角が少し上がり、カオリは右手を思い切り開いた。

「いくよ。」

カオリの平手がランマルの背中に衝突した。

その後、衝撃と共にランマルは10歩先まで飛んだ。

カオリとオボロはランマルの元まで行ったが、ランマルはむくりと起き上がって言った。

「ありがとう。カオリ。いいのもらった。」

その場は炎と共に打ち解け合い、暖かい空気になっていた。




3人はサトリ村へ足を運ぶ。

ランマルは道中話すことはなかった。自分自身もそうだが、オボロも自分と向き合いたい時間だと思い、邪魔はしたくなかった。

日が天を朱く染める頃。3人はサトリ村へ到着した。

まだ村人は活動を始めていないようで、すぐにサトリのいる寺院まで辿り着いた。

山門の隣にある扉を開くと中でヒカリが掃除をしていた。

ヒカリがこちらを見ると目を丸くした。

ヒカリに事情を説明する。

「わかりました。カミサマにも伝えましょう。」

と言って4人はサトリの元へ行く。



『まさか、ノムがやられるとは。』

「私がいながらもノム様を守ることができず、申し訳ありません。」

オボロは俯きながら謝罪する。

『こうなってしまったことは仕方がない。私の守人となりなさい。』

オボロはお世話になります。と言って一礼した。


ランマルは違和感を覚えた。


オボロは礼儀正しい。そのため感謝をする時も一礼を忘れない。しかし、妙だ。オボロの一礼の姿勢を観察する。背は曲げず骨盤を軸に30度前傾。両手は体の前で重ねている。足は右足を半歩後ろへ引いている。

なぜ、足をひいている?まるでこれから一歩前に踏み出すのではないかと思わせる。


ランマルはハッと気づき、咄嗟にサトリの元へ駆け寄ろうとする。

しかし、それでは遅かった。ランマルが動いた瞬間にはオボロがサトリに向かって刀を振っていた。

金属が強くぶつかり合う音が鳴り響いた。

オボロの刀をヒカリの大楯が守っている音だった。

「どういうつもりですか?」

ヒカリがオボロに聞く。

「やはり、誰も斬っていない妖刀ではあなたの盾に傷一つつけることもできないのですね。ですが、あなたは守ることしかできない。」

ヒカリの言葉を聞かずにオボロはヒカリに斬りかかる。

だが、それも容易く大楯により受け止められてしまった。

「だからこそ私がいるの。」

カオリが隙を伺いオボロの腹部に右手で掌底打ちをした。カオリの右手がオボロの腹部に触れた瞬間、オボロは背後の壁まで強く吹き飛ぶ。

オボロが立ち上がろうとしているとカオリがオボロに向かって飛びかかり、右手で殴ろうとする。オボロは咄嗟に避け、カオリの右手は床を突き刺した。

「相変わらずの馬鹿力ですね。」

そういうオボロをカオリが睨む。

カオリの左手はオボロの反撃に備えて構えている。

「流石に3対1は分が悪すぎましたね。また会いましょう。」

オボロはどこからか毛皮を取り出して肩にかけた。その直後、毛皮から白い煙が舞い上がり、オボロの姿が跡形もなく消える。

煙が消えかかってきた頃にはオボロの姿はなかった。

「オボロさん…どうして…」

ヒカリは大楯を強く握り悲しさを露わにする。

カオリは突き刺さって右手を引き抜き、八つ当たりをするように壁を殴る。その衝撃で壁に大きなヒビが入った。

『カオリ。やめなさい。』

「カミサマは何も思わないのですか?」

カオリはサトリを睨む。

『私たちは常に妖刀に狙われています。ノムがやられてしまうことは避けられない事。避けられるとしたら…それは私の死を意味します。』

「詳しく説明してください。」

カオリが問いただす。

『私たち…君たちの言うカミサマは妖刀や妖具を引き合わせる。まるで私たちから引力が発生してるかのように。そして、妖刀は私たちカミサマを壊す物。壊されたカミサマは妖刀に飲み込まれる。』

「なぜ、そもそも妖刀と言うものがあるのですか?」

ヒカリが俯きながらサトリに話しかける。

『…』

「ランマルが言っていた5年前と関係があるんじゃないの?」

カオリの一言でヒカリとランマルはカオリの顔を見た。

「5年前?」

ヒカリがカオリに聞く。

「ランマルは5年前にこの場所にビルや車などがあったと言っていた。その後私も思い返してみたが記憶が穴だらけだった。」

『…』

「カミサマ。知っていることを教えてください。」

『私が言えること…いや、私が知っていることはもうない。私が知らないことを他のモノが知っていると考えている。』

「だから、矛となる守人に他の村へ進めさせカミサマを壊してその情報を得る。」

何かを納得したようにカオリは視線をランマルに向ける。

「ランマル。キミも5年前、それ以前の記憶を取り戻したい。違う?」

ランマルもカオリの視線に合わせる。

「その通りだ。」

カオリはランマルに微笑み、再びサトリの方へ視線を向ける。

「私もランマルに同行します。いいですよね?」

ランマルもヒカリもサトリさえも驚きを隠せなかった。

「ランマルはまだ卵から帰った雛鳥です。そんな彼が1人で旅立ち、情報を得て帰ってくることは難しいと考えます。それは私にとって振り出しに戻るのと同じことです。ならば、私が彼を守ります。」

カオリの言葉にヒカリは優しい笑みを浮かべる。

「この村は私が守る、ランマル君はカオリが守る。いいと思うよ!」

ヒカリはランマルにも微笑みかける。

『いいでしょう。私としても矛を失うわけにはいかない。身を守る盾があるなら矛を守る盾があっても良いはずです。』

「ありがとうございます。」

カオリはサトリに向かって一礼し、ランマルを見た。

「そうと決まれば、明日出発するよ。次の村へ。」




その晩、ランマルは月を見上げていた。

あの後、泥のように寝てしまい気づけば夜になっていた。今思い返せば、あそこでヒカリとカオリが動いていなければ今頃この村もノム村同様崩壊していただろう。自分はまた何も出来なかった。カオリに導かれてしまった。

全身の筋肉が悲鳴をあげているが、休息なんてしていられない。カオリに守ると言われたが安心してはならない。逆に言えば、1人で旅立ち生きて帰る信頼をされていない。

ランマルは妖刀を握り外へ出る。




翌日。

ランマルは出発の前に一度寄りたいところがあった。

吹雪若丸が暮らしていた家。

ここには数日前まで若丸が生活していたが、もうその姿はなく懐かしい匂いと音で溢れていた。

昔の情景に更けていると男が近寄ってきた。

「こんにちは。守人様。」

ランマルはチラリと見るとそこにはハシダが立っていた。

「ここに住んでいた男は災難だったな。濡れ衣を着せられ翌日処刑だなんて。」

ハシダは若丸の家を見ながら続ける。

「守人様。俺は若丸(あいつ)が悪い奴だとは思わない。俺もあれが神木だと知らなかったにしろ、そうさせた1人でもある。だから、俺は地獄に堕ちたっていい。だが若丸(あいつ)は行っちゃいけねぇ。」

ランマルも若丸の家を見ながら応える。

「若丸は飛び立ったんです。殻を破り、巣から飛び立って自分の道を進んでいます。鳥のように一度飛び立つと巣に戻ることはないかもしれませんが、彼方の大空で翼を広げていると信じてあげてもいいのではないでしょうか。」

ハシダは守人(ランマル)の言葉を心に刻み、腕を組みながら深く頷く。

「ありがとうございます。守人様。お体にお気をつけください。」

と言って去っていった。

ランマルもカオリの元へ進み始めた。



カオリの元へ行き、詫びを入れた後。2人は村を出ようとした。

その途中、地べたに見たこともない野菜や衣類、飾りなどを置いている商人がいた。

ランマルは目が釘付けになっているとその商人が話しかけてきた。

「おっ、にぃちゃん。気になるかい?ここじゃ見たこともねぇもんばっかだろ?今なら安くしとくよ〜。」

ランマルはハッとして断りを入れようとした途端

「こんなものより、こういうのが欲しかったりするかい?」

と商人はニタリと笑いながら懐を見せた。

そこには怪しげな小刀や鉄球、小型の銃まであった。全てが手入れされていない状態を見るに朽ちた妖具だとわかった。

ランマルとカオリが目を疑っていると

「俺はツナガワ。各地の名産物を集め、移動しながら売っている商人。にぃちゃんら、取り引きしようや。」




【補足】

妖刀は使用者が亡くなってもそのまま形を変えず残ります。

〈次回予告と作者の感想〉

怒涛の展開が多すぎて手に負えません。

オボロの裏切りにランマルの飛び立ちにカオリの覚悟、そして謎の商人ツナガワ。

どこかで区切っても良かったかなと思います。

次回、ツナガワの取り引きの内容とは?ランマルたちは旅に出ることができるのか?

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