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妖の庭  作者: 神橋くない
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飲み込むことは随意か不随意か

処刑が終わり、俺はランマルとなった。

「お疲れ様、ランマルくん。」

ランマルになって初めて聞く言葉がヒカリの労いの言葉で良かった。生まれたての赤子も初めて聞く言葉が母親の声だとさぞ嬉しいだろうと思う。

ヒカリからは常に暖かいオーラが発している。

多分この人の近くにいると冬を越すには容易だろう。

そう思っていると、背後から凍えるような空気を感じた。

振り返るとカオリが立っていた。

「早く準備をして。」

俺の役目は他の村のカミサマに会い、こちらのカミサマが待っていると伝えること。そのついでに村人達に5年前の話を聞く。行動は早い方がいい。

だが、こう急かされると少しやりにくい。

準備といっても衣類や金、あとは妖刀。

準備が終わり、カミサマのもとへ行く。

『では気をつけて行ってきなさい。私はここで見送るが、彼女達は村の外まで一緒に行ってくれる。』

少し安心した。ここで、はい行ってらっしゃいは説明不足だ。おそらく村の外に出たときにどの方向に向かってどのくらい移動すれば良いか教えてくれるだろう。

「では、いってきます。」

カミサマに別れの挨拶をし、村の外まで守人3人横並びで歩いて行った。

途中、左右の温度差に風邪を引きそうだった。


村の外へ出ると、

「ランマルくん!気をつけてね!」

と、ヒカリが笑みを浮かべて見送りの言葉を発した。

その後の言葉を待っているとヒカリは不思議そうな顔をしていた。

カオリから説明があるのかとヒカリの隣を見るがカオリの姿がない。

その代わり、先ほどまで感じていた冷気がまだ俺の側方に残っている。なんなら、暖かかった反対側の空気を侵食している。

恐る恐る冷気が感じられる方を向くと、カオリが立っていた。しかもヒカリを見ている。

理解したくないと脳が拒絶している。おそらく俺はどこか分岐点を間違えたのであろう。

「道はカオリが教えてくれるから安心してね!カオリ、あなたも気をつけてね!」

どうやら俺はカオリと村を出るらしい。

「待って!…」

カオリも来るのか?と言いたかったが、その言葉が遺言になりそうで言わなかった。

横から大きいため息が聞こえた。

「私は君の道案内とそこのカミサマに挨拶をするのよ。大体、君1人だけで行ったら刺客だと思われて返り討ちにされるけど、それでいいの?」

いいの?と言われてもそういうものじゃないのか?と思った。何を今更、刺客だと思われることを避けようとしているのかがわからない。

「それはそうなんじゃないか?」

カオリが再びため息をつく。

「今から行く村はノム村と言って、カミサマ同士手を組んでいるのよ。お互い妖刀を持つ守人が生まれた時は報告して両村の守人となるってね。」

俺は共有財産だった。そしてそれを報告しに行く。それならカオリが来る通りもわかる。確かに刺客と思われると不都合だ。

しかし、疑問符は残る。

「カオリがいなくなったらこの村に他の守人が来た時どうするんだよ。」

カオリからため息こそ出なかったが、無表情から怒りの感情が漏れていることがわかる。

「…君、ヒカリのこと舐めない方がいいよ。」

失言だったらしい。

ヒカリは微笑みながら口を開く。

「カオリは私に勝てたことないもんね?とりあえず、この村は任せて。」

と言って、ランマルとカオリの肩を持ち無理やり向きを変える。

その一瞬でランマルは察した。ヒカリの力量を。抗ってはいけない存在と。

「じゃあバイバ〜イ!カオリにご飯持たせてるから、お腹空いたら食べてねー!カオリー!ランマル君いじめちゃだめよー!」

まるでお母さんだ。


5年前、いやそれ以前。俺にも母がいたはずだ。

その記憶がない。今まで忘れていたかのように母という物を思う時がなかった。

それに今気づいた。

携帯や車があれば移動も楽じゃないか。地図もないなんてまるで江戸時代以前じゃないか。

何故俺たちは元々いたはずの家族の存在や、携帯や車など便利な物がないことに気が付かなかったんだ。

まるで今この暮らしが当たり前かのような。



やめよう、これ以上わからないことを思い出しても気を失ってしまうだけだ。そうなると俺は最悪カオリに助けてもらえず野垂れ死ぬかもしれない。

カミサマ。あの時みんな均等に信じていると言ったが、訂正させて欲しい。カオリは信じない。


小一時間ほど歩いただろうか。考えるのをやめてから、木がなびく音、小鳥のさえずり、2人の不規則な足音だけを聞いていた。


これをずっと続けるのか?後どれくらいで着くとかも知らないのに…

不安になった。とりあえず、話そう。なんでもいいから話を広げよう。

「そういえば今から行く村って後どれくらいかかるんだ?」

カオリはランマルに見向きもせず口を開いた。

「3時間くらい」

地獄だった。

さっき嫌いになった沈黙の音がした。

少しでもこの音が聞こえないように頭の中で話題を探す。

「ヒカリとカオリっていつから守人になったんだ?」

少し間をおいてカオリは話す。

「詳しくは覚えていないけど、あなたよりずっと前よ。先にヒカリがいて、私が後に入った。」

「カオリも妖具を見つけたのか?」

「ええ、君と同じように、気がついたら目の前にあった。」

出会いは同じのようだ。だが、違和感を覚えた。

俺はヒカリとカオリの()()()()()()()()

「その時、俺みたいに処刑されたのか?」

「私たちはされなかった。」

なぜ?と考えている俺の顔を見て言った。

「君と違って、誰とも接してなかったから。じゃないかしら?」

まさかの返答に狼狽えたが、沈黙の音が聞こえないよう質問を続けた。

「守人になる前、厳密には5年以上前のことを覚えているか?こんな田舎じゃなくて、ビルとか車とか..」

「知らない。」

言葉をかき消された。全てを否定する言葉で。

再び沈黙の音が聞こえた。

「あと…」

珍しくカオリから話を始めた。ランマルはカオリからの言葉に少し胸を膨らませていた。

「ヒカリからのこれ、私食べられないから。君が全部食べて。」

カオリはヒカリから渡されたであろう包みをランマルに向ける。

ランマルは少しでも期待してしまった自分を呪いたかった。

包みの中には木箱が入っており、木箱を開けると中には俵おにぎりが入っていた。きちんと偶数だ。

ヒカリはどんな気持ちでこのおにぎりを作ったのだろうか。

ランマルは腹が空いているわけでもないが、ヒカリの気持ちを考えておにぎりを一つ口にした。

複雑すぎる気持ちで味がしなかった。

飲み込むにもいつもより時間がかかったと思う。


再び沈黙の音がする。でも今はこの音がないと生きていけない気がした。

〈次回予告と作者の感想〉

地獄すぎて辛いです。

うまく噛み合わない人と2人きりのになると時間の流れが遅くなりますよね。時間というものは残酷なもので自分の意に反してしまいます。それも時間に対して私たちが勝手に期待してしまっているのかもしれませんね。

次回はノム村に無事到着します。もうハッピーエンドでいいんじゃないかな?カミサマや村人と交流し、守人とお茶会をしましょうね。

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