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妖の庭  作者: 神橋くない
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悟りは己を救ってくれるだろうか(後編)

カミサマに居残りのご指名をされた。

そう言われれば良くも取れるし悪くも取れる。だが吹雪若丸に関しては全く異なる。

若丸は死刑宣告をされたと同然。明日、村人の目の前で公開処刑されることとなる。若丸の命の蝋燭の炎は揺らいでいるだろうか。小さくうずくまっているだろうか。


若丸は真っ白になった頭から、僅かながら浮かんだ言葉を発した。

「俺は、、知らない、、、」

『そうだろうね。』

「え、、」

予期せぬ返答に困惑した。

『君は妖刀に選ばれた。だから、君のためにこうしなければならなかった。』

「妖…刀?」

若丸は持っていた朽ちた刀を見た。

「これのことか?」

『そう、それは妖刀。人の血を吸えば吸うほど鋭く強くなる刀。君はその刀に選ばれた。』

よくわからない。この状況も、その説明も、何もかも説明不足だ。一から説明してほしい。でないと、混乱して身が捩れそうだ。

「カミサマ、説明を端折りすぎではないですか?」

カミサマの横から守人が現れる。

「吹雪若丸。君はその刀に運命の抜い針を刺された。その刀と出会うこと、ここに来ること、明日死ぬことは全て運命の糸で縫われている。」

守人からの説明により正気と怒りを取り戻した若丸の頭には言葉が湧き水のように溢れてきた。

「意味がわからない…。なんで俺は言いがかりをつけられ、死ななければいけないんだ。」

『死ぬのはお前ではない。吹雪若丸という男だ。』

若丸は再び困惑と混乱で言葉が出なくなった。

『若丸には私の守人となり、私を守る矛として生きてほしい。』

「…一から説明してくれ。守人ってなんだ?」

「「カミサマに仕える者」」

守人2人が口を揃えて言う。

「そういうことじゃない、お前たち守人は何者なんだって聞いているんだ!」

『わかった。君に私たちのことを教えよう。』


カミサマ曰く

カミサマというのは実際の神ではなく、村にある()()でしかない。それがあると村に起こる災害を防いでくれる。逆にカミサマが消えたり壊れたりすると、村は全壊する。

守人というのは妖刀・妖具を携えている人のこと。あくまで()()だ。俺のように目の前に忽然と妖刀・妖具が現れ、必然とそれを持ってカミサマの元へ足を運ぶ。そして守人として生きることを強制される。

妖刀を持つものは矛、妖具を持つものは盾と扱われる。妖具というのは妖刀以外の武器や装備を意味する。また、妖刀より現れやすい。


「何となくわかった気がする。」

若丸はカミサマの言葉を整理して新しい疑問を持つ。

「何故守人に矛と盾が必要なんだ?」

『他の村にも同様のことが起こっている。』

他の村。そう言われるまで不思議と考えたことがなかった。世界が変わって、この村に来て、5年も生活していた。その間この村の人しか見ていない。その外を見たことがない。

「他の村にもカミサマがいて、守人がいて、この村に攻めてくることはあり得るのか?」

『あり得る話だ』

「なぜ攻めてくるんだ?」

『信じるモノの為だよ。人は信じることで安心する。いわば安心できる領域。家で言うところの庭だね。それを人は心の余裕という。君は何を信じて生きているんだい?』

俺が信じるモノ…考えたこともなかった。

「みん…な?」

『全員を信じていると』

「はっきりわからないけど、俺は今まで宗教に入ってたわけでも、誰かを応援していたわけでもなく、みんな等しく満遍なく信じていた。それなりに裏切られたこともあるけど。」

脳裏にハシダの顔がよぎる。

『全員を信じているならそれでいいんだよ。君には他の村の…君たちで言うカミサマの元へ行ってほしいんだ。そこでワタシが待っていると伝えてほしい。』

「わかった。わかったけど、何故俺は死ぬことになるんだ?」

『ワタシの守人になると言うことは、今までの生活に戻れないと言うこと。キミの親戚は突然キミがいなくなると不自然だろう?だから、キミには明日生まれ変わってもらう。吹雪若丸から守人としてのキミへ。』

「改名ってことか。」

カミサマの矛となり、他の村のカミサマに会う。今まで考えたこともなかったが、可能ではあったことだ。この村で5年前の話を覚えている人はいない。他の村の人ならわかる人がいるかもしれない。

若丸は初めてカミサマへ輝かせた眼差しを向けた。

「受けてたとう!俺はアンタの守人となり、矛となる!」

『決まりだね。』

若丸の心臓の躍動が止まらない。

守人のうち1人が顔を隠していた布を取る。

「よろしく!私はヒカリ。妖具は大楯と甲冑よ。」

いかにも盾っぽい人だ。それより、思っていた以上にフランクな人だった。

「もう1人の方はカオリ。この子人見知りだから」

「ランマル。あなたの名前はヒヨッコ卵の若丸だから。ランマル。いい?」

急に名前を決められた。

ヒカリはごめんねと申し訳なさそうにしているが、ランマルという名がツボに入ったらしい。

『ランマル。いいね、初心を意味する卵と草木の枝分かれのような乱。一つの始点から様々な分かれ道がある。まるで人生のような名前だ。』

勝手に話が進む。先ほどの空気感は知らぬ間に一変していた。だが、どこか心地よさを感じてしまった。

『では、明日の処刑の流れを確認しましょう。』

先ほどの暖かい空気をかき消すかのようにカミサマが話し出した。

『明日はこちらが用意した人を()()()()()()()扱う。そこで守人の格好をしたキミが処刑をする。』

そういうことか、俺は明日事実上死ぬことになるが俺は死なない。むしろ殺す側だった。

『キミは人を殺めたことがないと思うが、これから先矛として生きる為には乗り越えなければならない一線だ。』

「明日が吹雪若丸の命日、そしてランマルの誕生日。」

カオリが呟いた。ヒカリはにこやかに頷いている。

『処刑にはその妖刀を使用する。まずはワタシの元へ。』

言われるがままに朽ちた刀をカミサマへ近づけると、刀が光だし瞬く間に美しい刀となった。

『良いね。』

初めて本物の刀を手にした。5年前の世界では触れることすらできなかった本物の刀だ。

5年前より昔の記憶を引き出す。刀といえば戦国時代、歴史で習った。本物の刀なんて持ち歩いているとと犯罪だ。



どこでそれを知ったっけ?


……


5年前、いやそれ以前。俺は何をしていたんだっけ。


頭が痛い。

〈次回予告と作者の感想〉

長くつらつらとやってしまいました。

急にラノベみたいになるやん。って思ったでしょ?私も思いましたよ。

暗闇の中で豆電球が光ると、豆電球が明るく見えますよね。それが私の美学です。

それはさておき

若丸くん、生存確定してよかったですね。

次回はランマルくんの誕生日です。

祝ってあげてください。

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