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妖の庭  作者: 神橋くない
14/14

柄は交れど矛先交わらず

静かな夜が明けた。

誰も邪魔をすることのなかった静かな夜。

その夜が明けると誰もが深呼吸をしたくなるほどの清らかな朝が訪れた。


先に目覚めたのはカンクロウだった。カンクロウが体を起こすとランマルが側で寝ている様子があった。

カンクロウにとって最高で最悪の目覚め。いつも(カイセン)の怒号で起きていた日常がそこにはなかった。

「さて。」

カンクロウはランマルの両肩を持ち激しく揺らした。

「起きろ!いつまで寝てんだ!」

急な激震にランマルは驚き目が覚めた。

ランマルは朝を迎えたことに少し驚いていたが、その余韻を残せぬままカンクロウが叫ぶ。

「飯にするぞ!早く準備をしろ!」

状況が整理できないまま、なすがままにランマルは着替えを出す。

着替えの途中、ランマルは理性を取り戻しカンクロウに問いかける。

「風呂に入らなくていいのか?」


カンクロウから一時の間を奪った。

「それもそうだな。」

ランマルはカンクロウを言い負かすことに成功した。

ランマルとカンクロウは風呂場へ向かおうとするが、2人とも風呂場の場所を知らなかった。


「朝から慌ただしいなぁ」

扉の方からツナガワが独り言のように言う。

ランマルとカンクロウはツナガワの方を見て助けを乞う。

その様子に驚きを隠せずツナガワが一歩引いた。

「お前らどんだけ風呂好きなんだよ。…まぁ男臭ぇ奴が2人もそこらを歩いてたら俺でも殺したくなるもんな。」

ツナガワが冗談まじりに笑う。

「付いてきな。」



一方、カオリとコマチは小鳥の(さえず)りと暖かい朝日によって優雅な朝を迎えた。

談笑を交えて身支度をし、豪華な食堂で朝食を取る。

「いやホンマ友達と食べる朝ごはんは絶品やわ!」

小柄なコマチとは裏腹に朝からもりもりと食べる。

「コガレ村の朝食は見てるだけで美しいわ。」

カオリは朝食ですら配膳や盛り付けが丁寧で、食器も美しい陶器を使用していることに感動していた。

「朝は1日の始まりやからな!朝こそ1番鮮やかにな!」

コマチはもりもり食べる速度が落ちる様子もない。

「食べ方は鮮やかじゃないけどね…」

カオリは小声で呟いた。

コマチにはその声が届いていない様子で少し安心したようだ。


「そうや、カオリちゃんはこの後どうすんの?」

カオリは少し考えてから答える。

「まずはコガレ様、セオー様に聞けるだけ聞いてみようかなと思ってるわ。その後はツナガワさんと村の人々かしら。」

ツナガワの名を出すと途端にコマチが苦い表情をする。

「ツナはやめとき。金出さな何も言わんか適当なことしか言わんで。」

昨日の夜がよぎった。あの時ツナガワが数えていたのは紙幣だろうと推測していたが、コマチの言葉で確信に変わった。

それと同時にコマチにとってツナガワは必要不可欠な存在だとわかった。

それに関しては何も聞かない方が吉だとカオリは心にしまった。

「本当にお金に信頼を置いているのね。」


カオリは朝食を食べ終わり、コマチがまだ食べる速度を絶やさずにいる時、食堂の扉が強く開いた。

「飯!」

そこにはカンクロウとランマルの姿があった。

カンクロウはコマチの方を見てズカズカと近づいていった。

「俺の飯はないか?」

コマチは朝食をカンクロウから遠ざけてカンクロウを睨んだ。

「あんたはウチらが招き入れた客人ちゃうやろ?村でメシ買うて村の利益になってや。」

カンクロウとコマチの目線が衝突し火花を発した。


カンクロウはしばらくして振り返った。

「ランマル。いくぞ。」

話の飲み込みが早いことに驚いたランマルは戸惑いつつもカンクロウと共にその場を離れた。

去り際にランマルとカオリは目線を合わせた。

そこには同情の労いと今後の激励があった。



コガレ村の朝はサトリ村とは違う鮮やかさがあった。

サトリ村ではゆったりとした時間が流れていたが、こちらは時の流れがはやく、常に祭りでもしているかと思わされるほどだった。

「ランマル。お前の村に行く前に話し合っておきたいことがある。」

初めての他の村での朝を満喫していた中、カンクロウが切り出した。カンクロウの村は国だとツナガワが言っていた。この空気感も慣れているのだろうか。そう思いつつランマルは応える。

「なんだ?話し合うことって。」

カンクロウは辺りを見渡しながら話す。

「お前は何を信じている?」

サトリに聞かれたことがあった。その言葉を改めて人から聞いた。

「俺は…」

ランマルが答えようとした途端カンクロウが合わせるように大声を上げた。

「ランマル!!あそこのメシにしようぜ!セオー村ではなかった奴だ!!」

カンクロウに言われるがまま朝食を取る場所を決めた。

俺はみんなを信じている。そう言いたかったが、()()()()()()()()()()

迷いがあった。全員を信じる。それは取捨を選ばない、いわば思考を放棄しているようなものではないか?カンクロウが言葉を断ち切ってくれたおかげで少し考えることが出来たが、考えただけで結局答えは出なかった。


目の前に朝食が出される。村の情景に相応しく、煌びやかな配膳だ。これだけで芸術とも言える。箸を入れるのも惜しいほどに。

向かいのカンクロウを見ると美しい朝食がみるみる姿を消していた。それもまた芸術なのだろうか。

「で、さっきの話なんだが。」

カンクロウから切り出した。

「俺は全員を信じている。…と思っていた。」

カンクロウの箸が止まる。

「というと?」

カンクロウの目線が痛く、目を逸らしてしまった。

「全員を信じて何になるんだろうか。よく言えば他人との交友関係を築きやすい、悪く言えば他人同士のトラブルが起これば取捨選択ができない。」

カンクロウは箸を置き、手を組んだ。

「そのトラブルが起こった時、お前は何をする?」

何をする?俺は何もできなかった。出来なかったことで

「自分を責めていた。」

「どう責めていたんだ?」

ノム村の夜が浮かんでしまった。

「自分の力量が足りなかった…と。だが、コガレ様は自分を責めるな、自分がどうすべきか分かっているならそれでいいと…」

カンクロウはランマルが自らの言葉に詰まると口を開いた。

「心が矛盾しているな。」

ランマルは言葉が出なかった。

「自分を背負い、自分を責めることで成長していくお前と、自分にかかる負担をなるべく減らそうと自己防衛するお前。」

そうだ。今の(ランマル)をうまく言語化してくれた。

だが、それは

「芯がない。」

ランマルの心の言葉に重ねるようにカンクロウが言った。

「だがそれは悪いことじゃない、()()()()()()()からな。」

カンクロウは箸を取り、箸を進めた。

カンクロウが完食するまでの間、ランマルは考える猶予があった。

双方の正義に引っ張られている状況で何をすれば解決に繋がるのか。

カンクロウが箸を丁寧に置き、両手を合わせる。

「自分のありたい姿を想像し、そうなれるよう周りを動かせ。」

飯とともにその言葉を噛み砕いた。

飯は飲み込めたが、その言葉はまだ飲み込めなかった。

「それは自分勝手すぎないか?そう都合よく周りが動いてくれるとは限らないだろ?」

その言葉をカンクロウは待っていたようだ。

「そうだ。だから周りが動いてもらえるよう自分が動く。自分に都合がいいよう動かしたいなら、何倍も自分が動くしかない。」

それもそうだな。人に何かしてもらうなら人に何かしてやらなければいけない。人にしてもらってばかりの人間は相手からの好意一本で繋がっている命綱だ。それはわかってはいるが両極端な自分を統括できる自信がない。その自信をつけるためには何をすればいいんだ。

思考が巡る。すぐには答えが出ない。その様子をカンクロウは静かに見守っていた。

様々な思考が巡る中、ランマルはふと我に帰った。

「カンクロウ。助けてくれ、答えが出ない。」

カンクロウは笑みを浮かべランマルに返す。

「飯を食え。ランマル。そして、稽古だ。その後に考えろ。」

これも一つの成功体験。と言ったところか。

「わかった。ありがとう、カンクロウ。」

ランマルは感謝の心を伝えると早急に箸を進めた。

ランマルが両手を合わせると2人は店を後にした。



その頃、カオリはコガレとセオーがいる部屋へ向かう。

部屋の前までは平常心を保つことができたが、扉を前にして鼓動が強くなる。呼吸を整えようにも呼吸を制御することすら出来なかった。

その時、村の外れから強い爆発音が聞こえた。

カオリがその音の正体を理解するのに時間はかからなかった。

あいつも大きな一歩を踏んだんだ、私も踏み出さないと。

その思いでカオリは正面の扉を開いた。




〈作者の感想と次回予告〉

ランマルとカオリ、それぞれの新たな旅立ちが始まりました。

今回は登場人物も多く、よりお互いの関わりが増えているのでキャラクターたちの個性がふんだんに出ていると思います。まるで信頼関係ですね。

次回はランマルたちがサトリ村に行き、久しぶりのヒカリの登場です。カオリは重大な事実を目の当たりにします。

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