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妖の庭  作者: 神橋くない
13/14

背負う矛、悟る矛

時はカンクロウがコガレ村へ来た経緯を話し終わった後まで進む。


「…と言うわけだ。」

その場の誰もが言葉を失った。

「カミサマに会わせてくれるか?」

カンクロウは続けて言った。


カンクロウがここに来るに至る経緯はわかった。だが、肝心なここに()()()()()()かがまだ不明である。そう気づいたのはカオリだった。

「あなたがここに来るまでのことはわかったわ。けど、ここに来た理由がまだ定かじゃ無いわ。」

カンクロウは待ってましたと言わんばかりに表情を明るくした。

「セオーを安全な場所に置くこと。俺が十分に休める場所。この2つだ。」

誰しもが思っていたことをツナガワは呟く。

「敵陣でか?」

カンクロウは首を傾げた。

「俺にとっての敵陣はノーリの村だ。お前らが俺を受け入れないならすぐに出ていくが。」

ツナガワとコマチはすぐに出て行けと言わんばかりの表情をしている。

カオリは必要な情報を得てから退却を願おうと企てている。

ランマルはカンクロウの前に立ち、カンクロウを見上げる。

「俺に稽古をつけてくれ。」


「はぁ!?」

コマチの大きな声が響いた。

「あんた何言ってんねん!どこぞの知らんやつからほんまかわからん昔話聞かされて、それ信じる言うんか!?」

ランマルはコマチを見て答える。

「自分の村のカミサマを担いでくる奴が嘘をつくはずがないだろ?」

その様子を見てカンクロウは高笑いをする。

「お前、気に入った!名は?」

「ランマル。」

カンクロウはランマルの名を聞くと、立ち上がりランマルを見下ろした。

「いいぜ、お前がそう言うなら稽古をつけてやる。」

「ありがとう。よろしくな。」

ランマルとカンクロウは硬く手を握り合った。


一連を見ていたコマチは壁に寄り添い頭を抱えていた。

「はぁ〜。ほんま男はよぅ分からんわ。信じる信じないは勝手にしてええけど、よそでやってや?」

「そのつもりだよ。カンクロウ。俺の(サトリ)村でやろう。道案内は任せてくれ。」

カンクロウの口角が上がる。


『不可思議。』

その場の空気を断ち切るかのようにセオーが話す。

今までカンクロウばかりに目を囚われていたが、セオーがいた。

今まで見たカミサマは人の形をしていたのに対して、セオーは岩そのものの形をしていた。だが、至る所が削れ、何かが突き刺さっているようにも見えた。

そのセオーが聞こえるように呟いていた。


「何が不可思議なんだ?」

カンクロウがセオーに問う。

『カンクロウには以前にも伝えたと思うが…まぁいい。この場には妖刀を持つものが2人いる。だが、何故私を襲わない。』

カンクロウは頭を傾げ思い出そうとしているがはっきり覚えていない様子だった。

『妖刀を持つものは他のカミサマを見ると、()()()()()()()()()。』

カンクロウ以外、驚愕した。

カンクロウはまだ頭を傾げていた。


『私からもお願いしよう。こちらのカミサマ。コガレに会わせてくれ。』

ツナガワとコマチが互いに目を合わせ、カンクロウとセオーをコガレの元に導いた。


カンクロウがコガレを初めて見た。

「おぉ。これはなんと神々しい。」

カンクロウから破壊衝動が生まれる様子が無かったかに思えた。

しかし、その瞬間、カンクロウは身震いし全身の筋肉を強く湧き立たせた。まるで()()()()()()()()()()()()かのように。

カンクロウの皮膚からは大量の汗が飛び出て、足元の水溜りが次第に大きくなっていく。

しばらくして、カンクロウは落ち着きを取り戻した。

「ふぅ、危なかったぜ。」

カンクロウの様子を見たカオリがセオーに問いかけた。

「あれが破壊衝動ですか?」

『はい。カンクロウは自我が強く、衝動を抑えられると予測していました。』

『セオー。君は柄にもなく荒いことをするじゃないか。』

コガレがセオーに向かって話しかけた。

『ちょうど私も不思議に思っていたところだ。私にセオー、ノムと直接会ったランマルが誰も壊さずここにいる事を。』

みんなの焦点がランマルに合う。

ランマルは破壊衝動など感じたこともなく、ただ戸惑うだけだった。

『まぁ、そもそも()()()()()()()()なんてことが起こっていますからね。』

「饒舌じゃねぇか。コガレ。何を言いてぇんだ。」

ツナガワの鋭い言葉がコガレを刺す。

『イレギュラー。その言葉につきます。』

コガレの言葉にセオーは何も話さず、不穏な空気がその場を支配した。

その空気を掻っ切るかのように突如カンクロウがその場に倒れた。

ランマルはすぐさまカンクロウに駆け寄り身体状態を確認する。

「寝ている。」

カオリはその様子を見てカンクロウの話が嘘では無いと判断した。

「客室を一つ借りれるかしら?コマチ。」

コマチは不服そうな顔をしている。

「ついてき。」

そう言ってコマチは客室へ案内した。



客室につきカンクロウを床に置く。

「俺はカンクロウと一緒にいるよ。案内ありがとう。コマチ…さん。」

「うちは戻るで。カオリちゃんもいこ。野郎だけの部屋にいたら腐ってまうで。」

カオリはランマルに目を合わせる。

「明日。サトリ村に戻るのよね。」

ランマルは頷く。

その人(カンクロウ)と行くなら飛んでいくでしょ?私も乗せていくことは難しそうだし…。私はランマルの代わりに情報を集めるよ。」

カオリはランマルに微笑む。今は任せてくれと言わんばかりに。



カオリはコマチと共に客室を後にする。

「カオリちゃん。今日1日お疲れ様や!風呂にでも入ってサッパリしよか!」

「えぇ。」

長旅にコマチとの戦闘、カンクロウの登場、新たな疑問。今日1日、いやこの数日は人生で1番濃い時間を過ごしているかも知れない。昨日はオボロの一件で寝ようともどこか落ち着かなかった。でも、新たな一歩を踏み出し、仲間も増えた。

今日は久しぶりに身も心も癒すことができるだろう。カオリはそう思っていた。


風呂場へ案内され、入り口でコマチが立ち止まる。

「ここが風呂場や。」

コマチは風呂場に入ろうとせず、カオリを中に入るよう促す。

「コマチは入らないの?」

その言葉にコマチは戸惑う。

「あ、あ、えぇとやな。」

束の間の沈黙が訪れる。

「ちょっと先に行きたいとこあるし、先入ってて。」

コマチが今まで見せなかった表情をする。出会って間もないが、彼女がこの表情をすることには何か裏があるに違いないとカオリは踏んだ。

コマチはそそくさとどこかへ行く。カオリは風呂場に入るそぶりを見せた後、コマチを追った。

コマチはある部屋の前で立ち止まり一呼吸置いてから中へ入った。

カオリは部屋に近づき聞き耳を立てる。

中からはコマチとツナガワの声がした。



「ツナ。今回はどれくらいここにいるんや?」

「2日3日くらいかなぁ?」

「ツナがおらん日が多いやんか。もっと居てくれたらええのに。」

「そうは言ってもなぁ。」

夜の音がする。静かな夜の音。

「そういや、コレ。渡してなかったなぁ。」

あの時見せたお土産だろうか。布袋を開ける音が微かに聞こえた。

「…また酒や。」

「サトリ村は酒がとにかく美味いらしい。それはサトリ村1番の清酒らしいぞ。」

「…何回言ったらわかるん?……うち、まだ未成年やで?」

「酒は百薬の長というだろぅ?」

「…まぁええわ。ありがとう。……ツナ。」

「ん?」

コマチがツナガワに何か渡したのだろうか。ツナガワが紙をめくりながら数える声がする。

「ツナ。死なんといてな。」

コマチの声が震えている。

ツナガワが数え終わると再び静かな夜の音がした。

「承った。安心しろ、俺は金で繋がる(えん)だ。積まれた金を無碍に扱うことはしない。」

静かな夜の音にすすり泣く少女の声。

カオリはその場を離れ風呂場へ向かった。



カオリがその場を離れた後、コマチは気持ちを落ち着かせ風呂場へ向かう準備をする。

「そうや。ツナ。コレ渡しとくわ。」

コマチは左手に巻いていた包帯を解き、ツナガワに渡す。

「結構な出血やったし、ソレの足しになると思うんやけど。」

ツナガワは渡された包帯を手に取り、血を確かめる。

「まぁ確かに足しにはなるなぁ。」

そう言って杖を手に取り、持ち手と柄を引き抜いた。

その間には薄暗くも真紅の色が見えた。

そう。ツナガワこそ、コガレ村の守人であり、矛。妖刀を持つ者である。

ツナガワは包帯を刀身に巻きつけた。

その様子を見た後、コマチは部屋の扉を開ける。

「おやすみ、ツナ。また明日。」

「あぁ。」

別れの言葉と再会の言葉。それぞれ相反する言葉だが、並べることで深みを増す。

荒々しかった昼を中和するかのように、静かな夜が深みを増していった。




〈作者の感想と次回予告〉

今まで共にしていたランマルとカオリがしばらくの別行動を決意にします。これはお互いを理解し、信頼した上での行動です。

そして、コマチとツナガワの関係性がなかなか描かれませんでしたが、表には出さない2人の関係があるとわかりました。それを盗み聞きする形で表現しました。

ちなみに、ツナガワがコマチに毎回酒を渡す理由としては①酒は長期保存が効く ②成人になるまで繰り返したい という理由になります。要約すると「コマチが成人になるまで絶対に死ねない」ということになります。

ボヤッとしてたツナガワの人間性を感じ取ってくれれば幸いです。

次回はランマル、カオリの旅立ちを経てランマル修行編とカオリ情報収集編で分かれます。ランマルはバトルメイン、カオリはストーリー背景メインになります。

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