背負う男の物語(前編)
コガレ村に到着した大男。オカ・カンクロウ。
その背にカミサマあり。腰に妖刀あり。見つめる先はコガレ村の中核である城。
「そこだな。」
カンクロウを構成する細胞たちが躍動する。カンクロウも無意識に笑みを浮かべる。
不意に周囲の視線を感じた。コガレ村の村人たち。先ほどの咆哮を聞いて物珍しそうに見ているのだろう。
「先ほどの無礼。謝罪する。俺はこの村の長に会いに来た。では。」
カンクロウは地面を強く蹴り、城に目掛けて飛び上がった。
村から響き渡る爆破音に城にいた者全員が村を見渡す。
村の入り口付近で1つ、村の外からいくつもの砂煙が上がっている。おそらくそこが爆破したのだろうと誰しもが思う。
コマチが村人の救助に急ごうとした瞬間。砂煙の中から1人の男がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「どいたどいたぁぁぁああ〜〜」
先ほどまで小粒程度だった影が急激に人の形となり、気付けばランマルたちの前に大男が現れる。
大男がランマルたちの前に着地し、立ち上がるとその姿を露わにした。
体、腕、脚、どの部位もランマルたちよりひと回り大きい大男がそこにいた。
その大男は背中に何か背負っている。見たことのある質感だ。
大男は周囲を見渡した後、ランマルたち1人1人に目を合わせる。
「これはこれは、この村の守人殿方。このような訪城、失礼した。俺の名はオカ・カンクロウ。セオー村から飛び参った守人。そして、」
カンクロウは背負っていたモノを下ろしてランマルたちに見せつける。
「カミサマを背負ってきた妖刀を持つ者!」
カンクロウの威勢に圧倒されたランマルたちは言葉が出てこない。
その様子を見てカンクロウは続ける。
「ここにいるのはこの村の守人か?この村のカミサマに合わせてくれ。」
カンクロウのまっすぐな目がその場にいた全員に突き刺さる。
「敵。と見なしていいわけ?」
カオリが最初に口を開いた。
「敵?そんなんはどうでもいい。とりあえずカミサマ
に会わせろ。」
「カミサマに会わせろだぁ?お前。今の状況がわかんねぇのかぁ?」
ツナガワが鋭い視線で応える。
カンクロウはため息を吐いて腕を組む。
「こっちはカミサマを連れてきてるんだ。寧ろ俺は格好の的だろ?カミサマに用があるのは俺じゃない。こいつだ。」
そう言ってカンクロウは背負っていたモノに手を置く。
『カンクロウ。やめろ。彼らが警戒しているだろ。』
カンクロウが背負っていたカミサマの声がした。
がっかりした顔でカンクロウはその場にあぐらをかいて頬杖をついた。
「しゃぁねぇなぁ。俺がここに至る経緯を教えてやるよ。」
カンクロウはゆっくり目を閉じ、次に開いた時には真剣眼差しに変わっていた。
「俺はセオー村で守人をやっていた。いつも通り何もせず太陽の光を浴びていた…」
セオー村。
太陽の暖かく優しい光が村全体を包み込む。
この村には何人もの守人がおり、カンクロウもその1人。他と違う点としては逞しく鍛え上げられた体に大太刀の妖刀。だが、心は怠け者そのものだった。
カンクロウはいつものように陽の光を浴びて耳から入ってくる環境音を音楽に見立てて楽しんでいた。
木が揺すられる音。鳥のさえずり。人の足音。遠くで話している人たちの声。風のささやき。
「カンクロウ!」
いきなり耳元で破裂するような男の怒号が聞こえた。その音にカンクロウは飛びあがり、怒号の音源を見る。
そこにはセオー村の守人であり、カンクロウの教育係であるカイセンがいた。
「なんだよカイセン!脅かせるんじゃねぇ。」
カイセンはカンクロウの言葉も耳にせず一方的に言い放つ。
「また呑気に昼寝しおって!鍛錬はどうした!」
カンクロウは耳を指で塞ぎカイセンから目を背けた。
「まったく。いつまでもそうやって呑気にしているうちに、敵襲にあって夢の中から戻れなくなってもいいのか?」
カイセンが怒りをあらわにしていると守人の女性、エビスがやってくる。
「カイセン。そこまでにしておきなよ。」
カイセンは振り返りエビスを睨む。
「エビス!そもそも貴様がずっと甘やかしていたからこうなったのだぞ!」
カンクロウはエビスに気づき表情を一気に明るくした。
「エビちゃん。そいつ更年期だから相手するだけ無駄だぜ。」
カンクロウの一言にカイセンはカンクロウを睨み殴りかかる。
カンクロウはカイセンの拳を表情ひとつ変えることなく片手で受け止める。
「前までの勢いがねぇじゃねぇか。カイセンの老化も進んでるんだな。」
容易く受け止められたカイセンは鼻で笑う。
「小僧が。おめえを本気で殴って怪我されちゃこっちの戦力が僅かながら減っちまうだろ?」
エビスは2人の間に入り2人の距離を空けた。
「まぁまぁまぁ、そこまでにして。とりあえず、カンくんは私と一緒に昼ごはんの具材の調達。カイさんは昼ごはんの準備をおねがいね!」
カンクロウはめんどくせー。と言いつつも村へ出向き野菜や肉などの調達に行く。
カイセンは黙って厨房へ進む。
エビスとカンクロウが村人たちの店へ出向き具材を調達している。
その道中エビスから先ほどのことでキツく説教され、カンクロウは表情を暗くする。
「エビちゃんはさぁ、なんであんな男と一緒に俺を育てるって言ったんだ?」
時は遡る。
カンクロウはいつものように村で起こる悪事を働く者へ立ち向かい、悩みを抱える者の話を聞いていた。休憩がてら草むらで寝転ぼうとした時、草むらの中で背中と何か硬い物がぶつかる。
カンクロウは飛び起きぶつかった物を確認すると、そこには小柄の女性と同等の長さの刀があった。
カンクロウが気付いた頃にはその刀を持ちカミサマの元へ歩んでいた。その途中、カンクロウは通りすがる人々から声をかけられたが、その声も届かずひたすら足を進めていた。
カンクロウは複数人の守人が見守る中カミサマに出会う。
カミサマの目の前に立ち、拾った刀を見せるとその刀は新品さながらの輝きを取り戻した。
そこでカンクロウは守人のこと、妖刀のこと、カミサマのことを聞いた。
無事守人となったカンクロウだが、1人の守人が声を上げる。
「この者は村中で私的に治安維持として動いていると話を聞く。救助に関しては文句はないが、罪人を裁くのは我々守人の役目だ。これからも好き勝手に動かれる危険性がある為、監視の目と教育の手が必要です。」
その場にいた守人全員が頷く。
『では、この者の監視・教育をしたい者は?』
声を上げた男の守人がすぐさま手を挙げる。
その男の対面にいた守人が釣られたかのように続けて手を挙げた。
『カイセン、エビス。2人でいいか?』
カイセンは覚悟を決め返事をしたが、エビスは少し戸惑いつつも返事をした。
時はカンクロウとエビスの会話まで戻る。
「あの時居眠りしてただぁ!?」
エビスは照れくさそうにしているがカンクロウの開いた口が塞がる気配はなかった。
「手を挙げちゃった以上、勘違いでとは言えないでしょ?」
カンクロウは呆れて手で目を覆い深いため息をついた。
「熱心な人だと思ってたのによ〜。」
エビスから返事がなかった。
エビスの方を見ると遠くの方を見て固まっていた。
カンクロウもエビスの見る先を見た。そこにはセオー村の入り口があり、その中心に1人の男が仁王立ちしていた。左右の腰に刀を携え、まっすぐこちらを見ている。背丈は小さいが荒々しいオーラが男から溢れ、周りの空気を歪める。
カンクロウの勘は冴えていた。
腰に携えていた刀に手をかけようとした時
「ここは私が。あなたはカイセンに伝えてきなさい。」
そう言ってエビスはカンクロウの手に触れ、抜刀を阻止した。
しかし、カンクロウはその手が小さく震えていることに気付く。
「俺がこの場を持たせる。だからエビちゃんがカイセンを呼んできてくれ。」
カンクロウはエビスの手を優しく退けようとしたが、その手を掴まれた。
「あなた失ってはこの村は終わる。あなたが守人として立派になるまで育てるのが私の役目。…お願い。」
カンクロウは両手を下ろし、拳を強く握りしめる。
「すぐ呼んでくる。」
カンクロウは振り返り走りながら大声で村人たちに伝えた。
「敵襲ー!敵襲だぁぁああ!全員!退避しろぉお!」
カンクロウは一目散に走る。無我夢中に叫ぶ。決して背後は振り向かず、ただエビスを信じてカイセンのもとへ走る。
〈作者の感想と次回予告〉
急に知らんやつの昔話になりました。
これも次回のための自己紹回ということにさせてください。
アナザーストーリーとして過去の話を掘り返したいなぁとも思っていますが、出来たらします。
次回はちょっと知ってるやつと全く知らんやつが戦います。




