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妖の庭  作者: 神橋くない
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焦がれる心、見せぬ背中

ランマルとカオリはコマチに導かれるまま道を歩いていく。

横切る村人たちからは先ほどの戦いの一言感想をもらう。

この村の中心には城がどっしりと構えている。

あそこにまた別のカミサマがいる。そこでサトリからは聞けなかったことを聞く。

ランマルはそう考えている間にカオリとコマチは会話を弾ませる。

「カオリちゃんの妖具ってほんまに凄いなぁ!よう使うわ!」

「そんなことないよ。コマチもその銃に紙札を上手く使い合わせていたわ。なかなか鍛錬が必要でしょ?」

自分の外で話が進んでいることに気がついたランマルは2人の間に入る。

「ちょっと待って、まだ俺はカオリの妖具もコマチの妖具もまだ知らない!」

カオリとコマチからの冷たい視線がランマルを突き刺す。

「アンタ、なに馴れ馴れしく呼び捨てで呼んどんねん。見てただけのアンタが金魚のフンみたいに付いてくんのも大概にせぇよ。」

アンフェアだと言ってカオリと戦ってたくせにと言いたかった。

「そういえば言ってなかったね。私の妖具。」

カオリは自身の両手を見つめる。

「まず、私の妖具は左右の小手。全くの別物よ。」

戦いの後コマチが右手左手と言っていたものだ。

「右小手はエネルギーの圧縮と膨張よ。強く握れば手のひらのエネルギーが圧縮され数十倍の握力と強度の剛性を得られる。強く開けば手のひらの上の空気を強く押し出せる。」

「なるほど、だから銃弾を握りつぶしたり背中の空気を押して加速できたのか。」

ランマルは感心していると、不意に背中を押してもらった時のことを思い出した。確かあの時は叩かれた後、かなり吹き飛んだような。

「そして左の小手。まず、私の左手の主導権は私にはない。その代わりに、この左手が自動的に私を守ってくれる。」

ランマルは青ざめた表情をしている。

「そんなの、呪いじゃないか。」

コマチは深く頷いている。

「そう、呪い。ただ、これは私だけを呪うものじゃない。」

コマチは包帯で巻いている左手を見せた。

「触れた相手に一度だけ、この左手で負ったダメージを肩代わりさせる。」

「うちもそんな妖具や思わんかったわ。まさか自分の銃弾喰らうとはな。」

ランマルはカオリの今までの行動を思い出すと、確かに辻褄は合う。


カオリの腹部を殴ろうとしたコマチ。その時カオリはコマチの方向を見ていなかった。カオリがどれだけ戦闘経験があろうと即座に対応することは難しいだろう。それをピンポイントで受け止めたのは他でもない左の小手だ。

「じゃあ、コマチの妖具はなんだ?」

「なんで、アンタにも言わなあかんねん。」

辛辣だ。何もしていないのにここまで冷たくされると消えたくなる。

「コマチ、私の仲間がこう言ってるの。教えてあげて。それに私だけ知られるのはアンフェアじゃない?」

コマチは不満そうな顔をして、何かぶつぶつ言っていたが教えてくれた。

「ウチがさっき使ってた妖具は1度目の引き金と2度目の引き金を引く時間に応じて弾速が変わる火縄銃と青い模様の札に触れたら赤い模様の札のところまで移動する紙札。はい、しまいや。カオリちゃんは2つ教えたからウチも2つ、これでフェアやろ。」

だんだんコマチが出会った時のカオリのように冷たく感じてくる。

「なんでそんなに冷たいんだ…?俺何もしてないよな?」

あの時のように地獄の時間を過ごしたくなかったランマルは意を決してコマチに聞く。

「ウチは友達以外仲良くする気ない。それに、何もしない奴は友達にはなりたくない。」

友達…今で言うカオリのことか。コマチは公平性を気にしたり、友達にのみ心を開くと言った()()()()が強い。過去に何かあったのだろう。

過去の出来事によって今の自分たちが成り立っている。その理論ならコマチの過去を聞けると俺たちの目的のヒントとなる。

何かあったのか?と聞きたいが今の関係性で聞いたところで無意味だろう。良い関係を築いてから聞くかカオリを介して聞いてもらおう。

「気になっていたのだけど、コマチのフェアや友達のこだわりは昔何かあったの?」

ランマルの計画が全て崩れた。ただ、現状それは都合が良かった。

「それは…」

コマチは顔を曇らせる。

「こいついるからイヤや!言わん!」

ランマルを指差し表情を曇らせながらも怒りを露わにする。

「また教えてね。」

カオリはコマチを優しく宥める。




そうこうしている間に城の目の前に来た。

この城にこの村のカミサマがいる。

ランマルとカオリはコマチに案内されるがまま城に足を入れる。

サトリ村やノム村とは違い広く、部屋も多く、煌びやかな壁、まるで豪華な迷宮だ。

コマチが部屋の前で立ち止まる。そこの扉はこの城で1番豪華で優艶な扉だ。

「コガレ様。客人や。」

コマチは扉を優しくノックし扉を開く。

奥にはカミサマがいた。

コマチがコガレ様と呼んでいた。やはり見た目の質感はサトリ、ノム同様。だが、形が違う。胸の前で手を組み天を見上げている人の後ろにモヤがかかっている。そういう形だ。

『初めまして、その身なりで客人とは珍しいね。』

優しく渋い声が響き渡る。

「ちゃんとウチが審査したさかい、安心しいや。」

『コマチは少々やり過ぎるところがあるが、それをこなしたというなら信頼に値する。』

ランマルとカオリは一礼し挨拶をする。

「サトリ村から参りました。ランマルと言います。こちらはカオリです。」

『ここへ来た理由を聞いてもいいかい。』


ランマルは過去を知りたいこと、ノム村でのこと、サトリから聞いたことを話した。


『なるほどね。まさか自らの守人にやられてしまうモノがいたとはね。』

やはりオボロの裏切りはカミサマでさえ予測できないことらしい。

『それにしても、君たちはよくサトリを守れたね。』

ランマルにはその言葉が針のように鋭く感じた。

「いえ、カオリともう1人の守人のおかげです。俺は何も…」

コマチからの冷たく鋭い視線を感じる。

そうだ、俺は何も出来なかった。

『出来ない自分を責めちゃいけないよ。キミは何をすれば良かったか。それはわかっていたかい?』

オボロがサトリに刃を向けたあの瞬間、違和感に気づいた。だが体を動かせなかった。自分の中のイメージに追いつけなかった。追いつけるほどの身体能力がなかった。ランマルは自らを答えに導く。

「分かります。俺に足りないモノ、しなければいけないこと。」

『弱き自分を認めるものは強くなれる。私からの言葉を胸に刻んでください。』

「はい!」

ランマルは強く答えた後、シェイクやオボロの言葉を思い出した。

「コガレ様。妖刀がどれだけ血を吸った、もしくは人を斬ったかは側から見て分かるものなんですか?」

『刀身を見れば分かりますよ。その刀は血を吸った分だけ赤が薄すれていくのです。』

ランマルは妖刀の刀身を見る。確かに2人しか斬っていない妖刀の刀身は色が薄れる気配もなく、真紅の輝きを放っている。

「でも、アンタが持ってると宝の持ち腐れやな。」

話を聞いていたコマチがいきなり口を開く。

「それはカミサマを壊して情報を抜き取るもんやろ?そのために斬って斬って強くさせる。そんなん()()やん。」

妖刀が才能。ランマルはあまり理解ができなかった。

「どういう意味だ?」

「どうもこうもあらへんやろ!斬られたら終わり、血吸われるたびに強くなって、カミサマですら壊せる。振り回すだけで誰しもが怯える凶器やんか!」

コマチの顔が怒りで満ち溢れる。

「それに対して妖具はなんや。瞬間移動できるだけ、遅れて弾飛ばすだけ、強く握ったり弾いたりするだけ、単体で使うには限度があるやんか。妖具はただの()()なんや。最初に持った時点で妖刀の勝ちやん…そんなん、アンフェアや…」

妖具は努力。才能である妖刀を努力である妖具で凌駕することは至難の業。不可能に近いと言いたいのだろう。ランマルは何も言い返せなかった。


『どう思う?ツナガワ。』

コガレの一言にその場にいた全員が驚き、扉側を振り向いた。

そこにはツナガワの姿があった。

「そうねぇ。」

ツナガワは顎をさすって考えている。

「その努力を2つや3つ持ちゃぁ、才能をも超えるんじゃねぇの?妖刀1刀に対して妖具1個は確かに武が悪いが、妖具2個なら使いようによっちゃ妖刀を超えると思うがなぁ。」

ツナガワはコマチを小馬鹿にするように見ている。

「ツナ!アンタどこほっつき回しとったんじゃ!」

ランマル、カオリの理解が追いつかなくなってきた。

ツナガワはコガレ村を案内した商人。それが今ここにいる。そして、コガレから名前を呼ばれた。コマチも知っているようだ。

「俺はただそいつらをこの村に案内しただけだ。それに、ほら、お土産。」

そう言ってツナガワは布袋をひらひらと揺らしながらコマチに見せる。



強い鼓動が聞こえる。おそらく自分の心臓だろう。

なぜここまで強く脈打つのか。1拍1拍が痛い。だが、そうしないと脳や筋肉がすぐに動けない。

そうか。俺は警戒しているんだ。ツナガワを。

俺たちはやってきたんじゃない。誘い込まれたんだ。

妖刀の鞘を強く握っているが痛みも質感も感じない。ただ、目の前の男の行動を観察している。


心臓の鼓動がより強くなる。

体で感じるほどに、城が揺れているかのように。


いや、()()()()()()()


確かに己の鼓動は強く脈打っているが、城の外から規則的に断続的に何かが爆発している音が聞こえる。それもだんだん大きくなり、揺れも強くなっている。

ランマルだけでなく、他もそれに気づいていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


ランマルがコガレと話している時。

コガレ村から離れた地。

1人の男が重い荷物を背負って1歩、1歩を強く踏み締め、その度に大地を揺るがしながら進む。

その男は男性よりひと回り大きく、腰には大太刀を携えている。

男が背負っている荷物(モノ)が話す。

『カンクロウ。派手に移動しすぎではないか?』

男は着地のたびに地面を爆破し、大きく手足を振って進んでいる。

「なぁに、こうでもなきゃ早く進めねぇだろ?派手すぎて寄って集るなら本望よ。」

()()()め』

男は地を蹴り、爆風と砂嵐を生み起こしながら目の前の村に向かう。

「セオー!もうすぐ着くぜ!」

あと数歩のところで男は着地と同時に両足で強く地面を蹴った。村の中心にある城を超えんばかりに高く飛び、一気に村の入り口まで到達する。

高く飛んだからか着地の踏ん張りに時間を要した。

だが、男は村に着いた達成感で溢れていた。

「ついたぞぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

男の声は高らかに村の入り口付近の空気を揺らす。

村人たちもその声の方を見る。

男の咆哮は肺の空気がなくなるまで続く。

その後、その場の空気は男が支配し、誰も話すことを許されなかった。





〈作者の感想と次回予告〉

コマチの公平性に対するこだわりと友達という境界線。コマチという人間の奥行きを感じられた回だったと思います。

妖刀と妖具を才能と努力という風に表現できたのは我ながらあっぱれです。


そして

ついに来ました!満を持して!この男、すごいです!

我ながら推しの1人です。次回はこの男がなぜこの村に来たのか、少し時を遡ります!

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