表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドラゴンが踏んでも壊れない辺境伯令嬢。第三王子から婚約破棄をされるも、溺愛してくれるワンコ系従者と乙女ゲー破滅フラグを殴り壊すの!

作者: GOM

「クラウディア! 僕は、君のようなガサツで大柄な田舎娘とは婚約破棄をさせてもらう!」


 ワタクシは、カスティアーラ辺境伯アルフォンソの娘。

 クラウディア・デ・カスティアーラ・アルフォンソ・モラティーノス。

 何故か今。

 王城にて開催されていた晩さん会にて、第三皇子アレハンドロ様から突然の婚約破棄をされてしまった。


 ……確かにワタクシ。ヒールを履いてしまえばアレハンドロ様よりも身長も高いですし、身体強化魔術も使えますわね。嗜みとしてカスティアーラ流格闘術も辺境伯のお父様から習っておりますし。田舎なのは領地が国境にあるから、しょうがないですわ。


 辺境伯なお父様は、かつて王国を襲った魔王を拳ひとつで討伐した神聖騎士団所属の武闘僧(モンク)

 その武勲をもって騎士階級から一挙に辺境伯へと任じられたから、領内でもお父様は大人気。

 お父様の格闘技流派も領内では盛んに教えられている。


 なにせ、国境向こうは「魔の森」。

 毎日のように襲い来る魔物と戦うのが、領内では日常。


「僕は、真の愛を見つけたんだ。ねぇ、ルシア」

「はい、アレハンドロ様ぁ」


 ……殿方って華奢で小さくてふわふわした子の方が好みって聞きましたのは、やはり本当だったのかしら。


 アレハンドロ様は小柄で可憐な少女ルシア様を胸に抱き、愛おしそうな顔をしている。


 ……ワタクシとお会いしている間には、決して見せてくれなかったお顔ですわね。


「僕は、王子の身分を捨てる。二人が結ばれるのに障害となる身分など、もうどうでもいい! 僕は、君と! ルシアと添い遂げるんだぁ!」

「ああ、嬉しいですわぁ」


 ……一応、ワタクシは辺境伯令嬢。辺境伯家と王家の婚約は、国の大事(だいじ)なのですのよ? そんな一大事を、王子と小娘の惚れた腫れたなタワゴトで勝手に決めてもいいのかしら? それも、多くの貴族たちが集まる王家主催の晩さん会の場にて、大声で宣言なんて。


 ワタクシは、目の前でバカップルが勝手に盛り上がっているのを冷たい目で観察している。

 せめて周囲に事前根回しをしていて、有力貴族などに賛同者を作っていたのなら、いざ知らず。

 晩さん会に来ている人々、全員が驚きの顔をしているのだから、たぶんその場の勢い発言なのだろう。


 ……そのくらいの政治力も無いのでは、王家の邪魔者扱いで暗殺されちゃいますわよ? 下野した王族なんて、お家騒動の原因になりかねないですもの。


 アレハンドロ様は王子とはいえ、三男坊で王位継承権は低い。

 なので王国辺境部において国防を担っている我が家との婚儀、政略結婚に使われたのは可哀そうでもある。

 だからといって、いきなり平民の子と結婚すると言い出すとは、ご両親も泣いているに違いない。


 ……二つ歳上なのに、ワタクシと並んだら弟みたいに見られるのは嫌だって以前おっしゃられていましたわねぇ、王子様。


 ワタクシは、宴会場の上座にて頭を抱えている王様を哀れに見る。


 ……平民の子と本気で結婚したいのなら、それなりに手順を組むのが必要ですわよ? ワタクシ個人は、平民だ貴族だと差別する気はしませんですけれども。


 せめて、彼女には何処かの下級貴族家にでも一旦養女に入ってもらい、その上で結婚するというのなら、まだ分かる。

 しかし、王子自ら身分を捨てるというのは論外。

 というか、そのくらいの策を考えられないほど、アレハンドロ様は愚かだったのか?


「はぁ……。分かりましたわ、アレハンドロ様。家同士、国の政治にかかわる問題ではありますが、貴方様がそのおつもりでしたらワタクシはかまいませんですの。ただし、後から後悔することになっても知りませんですわよ?」


「クラウディア! 君はルシアが平民だからと差別しているのか!? そういえば、学院でもルシアは貴族令嬢にいじめられていたと聞く。オマエがその主犯だったのか?」


 ……そんな訳ないですわよ? だってワタクシ。学院ではルシア様とは、殆ど接触も無かったですのに? 確かに一時期、平民出身ながら優秀な子が入学してきたと話題になってはいましたけれども。優秀な子が王国の為になるなら、イジメて学院から追い出す必要など無いですのよ?


 ルシア様。

 彼女は平民出身ではあるが、実家は王国有数の豪商。

 そこいらの下級貴族よりも豪勢な暮らしをしているとも、風の噂では聞いている。


 第一、今の貴族など先祖をたどれば野蛮人。

 王国設立時に、王家に従って戦った蛮族の末裔でしかない。

 血統がどうとかというよりは、本人が優秀であるかどうかが最優先だと、ワタクシ個人は思っている。


 ……だって、ワタクシ個人が大好きなのは、平民出身の男の子(マーちゃん)だし。我が家自身も新興貴族ですのよ?


 辺境伯家を守る為、ワタクシは個人の恋愛感情を一度は捨てた。

 家の為に政略結婚を受け入れるのは、貴族令嬢の役目と割り切っていた。

 なのに、目の前でその題目を根本から壊されてしまえば、ワタクシは怒りもする。


「そんな訳ないですわ、アレハンドロ様。貴族たるもの下々の見本でなくてはならないのですわよ? なのに、ワタクシが下賤なイジメなど加担するはずないですわ!」


 ……にしても、何やら雰囲気がおかしいですわねぇ。まるで、アレハンドロ様は夢うつつ。酒や危ない薬にでも酔っているかのよう。冷静な判断が一切できていないですの。


「ルシア、本当か?」


「確かにクラウディア様から直接イジメられた事はありませんですわ。でも、わたしをイジメていた方も辺境伯様の派閥令嬢でしたし。それに皆さまが噂されていますお話し通りなら、クラウディア様はアレハンドロ様にはふさわしくないですの」


 ……あ、あのバカ娘ね。ワタクシの派閥だなんて勝手に吹聴(ふいちょう)していた困った子。学内でも目に余る行動があまり多かったですから、先日シメて学院から一時休学にして差し上げましたわよ。


「あの子でしたら、元々ワタクシの派閥とは無関係です。勝手に派閥を名乗って迷惑でしたから、学院からは一時追放しましたわ。で、噂とは何かしら。ルシア様?」


「女だてらに殿方と(いくさ)の訓練をなさっていらっしゃいますとか。胸が大きくいらっしゃいますが、それは全部筋肉だとか。他には頭の中、脳まで筋肉で出来ていらっしゃるとか、頑丈すぎてドラゴンが踏んでも壊れないとか聞きますのよ。ねぇ、ゴリラ姫様」


 ……確かに、領内では騎士の方々と訓練していましたのは事実ですが、自分が少々ささやかなお胸だというのに嫉妬しているのかしら、ルシア様? ドラゴンが踏んでも壊れないも言われた事はありますわね。しかし、言うに事欠いてゴリラ……? え? ゴリラとは??


 「ゴリラ」という単語。

 初めて聞くはずの言葉なのに、妙にワタクシの心に突き刺さる。

 ドラゴンに踏まれても壊れないという「悪口」以上に。


「今、なんとおっしゃられたのですか、ルシア様?」


「ゴリラって言ったのですわ! 乳房ではなくて筋肉のお胸をウホウホ言って叩く野蛮なオサルさんですわよ。おほほ!」


 ……サル? ゴリラ? 一体、何をルシア様は言っているのかしら? でも何故か、心がザワザワ致しますの。


 彼女の周囲の人もワタクシ同様、何をいっているのか分かっていない様子。

 誰もが、騒然としている


「ルシア。君は一体何を言っているんだ? その『ゴリラ』とか『オサル』とかは何なのだ?」


 アレハンドロ様も首を(かし)げ、ルシア様が意味不明な言葉を発している事を不思議がっている。


 ……悪口なのは分かるのですが、相手に通じない意味不明な悪口は効果無いですわよ? しかし、嫌な言葉に聞こえてしまうのは、どうしてなのかしら?


「まだ分からないのかしら、クラウディア様。貴方は、幸せになりたいわたしにとって邪魔者。わたしに退治されるべき野蛮な『悪役令嬢』なのですわ!」


「悪役令嬢? 悪役令嬢ですってぇぇ!! 何を言いますのぉぉ! あ?」


 『悪役令嬢』、そして『ゴリラ』という言葉。

 その二つが重なった時、ワタクシの中で誰かの記憶がどっと流れ込んできた。


 ……え!? え!? じゃあ、もしかして、ここは!? そしてワタクシは!??


「きゃあぁぁ!」


 ワタクシは、記憶の『津波』に押し流され気絶してしまった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ここは?」


 気が付くと、薄暗い見慣れた天井。

 いや、見慣れた天幕。

 なら、ワタクシが寝ていたのは、いつもの天幕付きベット。


「王都の別宅ですわね、ここは」


 王家主催の晩さん会に参加するため、領地から離れたわたくし。

 少数の護衛、側仕えだけを伴い、王都の別宅に滞在している。


 ……王家との婚儀を控えたわたくしが、晩さん会に参加しない選択肢は無いですものね。お父様たちは、国防のために領地を離れられないですし。


 まだ成人前。

 先日、十五歳になったばかりのワタクシ。

 今回はお父様、辺境伯の名代(みょうだい)として赴いた以上、王家との関係は(ないがし)ろに出来ない。


 ……このくらいの政治的判断も出来ないのでは、王族どころか貴族失格ですの! アレハンドロ様って教育が足りていないですわ!


「クラウディア姫様。お目を覚まされたのですね」


 ベット上のわたくしに、声を掛けてくれる人がいる。

 声の方向に顔を向けると、そこには心配そうにしている見慣れた可愛いショタ、いや少年の顔があった。


「マルティン。ワタクシが目覚めるまで見守ってくれていたのですね。ありがとう存じますわ」


「僕。いえ、私はクラウディア姫様の従者ですので」


 頬を染めて視線を逸らすマルティンは、ワタクシよりも一歳年下の男の子。

 彼の家は、当家に『とある役目』で仕えてくれている。


 本来、未婚妙齢な貴族令嬢の寝室に近い年齢の男性が入ってくるなどあり得ない。

 しかし、彼とワタクシの間には無限の信用がある。

 マルティンは、ワタクシに仕えるものとして以上に溺愛してくれている。


 ……お父様やメイド長からも信用されていますものね、マルティンは。それに、ワタクシと彼は幼馴染ですし。逆にワタクシが可愛いマーちゃんを襲う可能性の方が高いですわ!


 マルティンと出会ったのは、ワタクシが五歳前。

 彼が四歳の頃だった。

 お父様から配下の子供、いずれはワタクシの配下になる人材として紹介してくれた。

 出会ったとき、栗毛で真っ白な肌、キラキラと輝く緑の目。

 まるで女の子みたいな可愛いマルティンに、ワタクシは一目惚れをしてしまったのだ。


 ……ワタクシ自身は、黒髪で黒い目。まあ普通より少々上くらいの容貌。ゲーム中では貴族娘の中で埋もれない程度の女の子ですわね。まあ、身長は高い方でしたけれども。


「ねえ、マルティン。いえ、マーちゃん。ここには、貴方とワタクシしか居ませんですわ。昔みたいに呼んで下さらないかしら?」


「……しょうがない姫様ですね。では、ディディお姉ちゃん。僕ら側仕えは皆、お優しいお姉ちゃんのことが心配です。王家との政略婚約でお心を痛めていらっしゃいましたのに、今度はいきなりの破談。あまりにお姉ちゃんが可哀そうです!」


 ワタクシはベットから起きだし、今にも泣きそうな顔のマーちゃんの頭を優しく撫でた。


「ワタクシ、もう気にしていませんですのよ。だって、ワタクシには可愛いマーちゃんが居ますものね。破談になって、逆にセイセイしていますの」


「でも、それじゃ辺境伯家、御館様やディディお姉ちゃんの名前に傷が付きますよ? お姉ちゃんにこれ以上、迷惑が掛かるのは僕もイヤです! だって、お姉ちゃんは婚約破棄の衝撃(ショック)で気絶したんだよね?」


 泣き顔がとっても可愛いマーちゃん。

 前世でも、その可愛い顔にゲーム内攻略対象でもないのに、ワタクシは彼に惚れこんだものだ。

 今も、まるで尻尾を振りながら飼い主を心配する柴犬の子みたい。


 ……前世記憶が蘇った今なら、現状の異常さがより理解できるの。さあ、逆転しますわよ。とっても可愛いマーちゃんとワタクシが結ばれますためにも、『実績』が必要ですものね。


「それは違いますのよ、マーちゃん。ワタクシは、別の理由で気を失っただけですわ。さて、このまま負けたまま終わるのは、気に障りますの。辺境伯令嬢として、王国の異変に対処すべきですものね」


 ワタクシは、ニヤリとする。

 今のワタクシには、前世からの多くの知識。

 そして今世で手に入れた力。

 更には、隣に大好きなマーちゃんが居てくれる。


「マーちゃん、お願いがありますの。少々、調べものをしてくださらないかしら? あと、準備して欲しいものがありますの」


「僕に出来る事なら、なんでもします。ディディお姉ちゃん」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「あぁ、アレハンドロ様ぁ」

「愛おしいルシア。さあ、可憐な唇を僕へ」


 王都郊外、ルシア実家が所有する豪勢な別宅。

 深夜、宅内の豪勢なベットルームでは、二人の若者が肌も露わにして(むつ)み合っていた。


「ルシア。どうして、君はこんなに愛らしいんだ」


「あぁぁ! アレハンドロ様ぁ。もっと、わたしに触れてください。もっと、わたしの奥底まで来て下さいませぇ。くぅぅ! いやぁぁん!」


 アレハンドロに身体を押し付けられ、嬌声を上げるルシア。

 しかし、その眼はとても愛撫を受けている者の目ではない。

 どこか冷めていて己の腹の上に居る男に対し、嘲笑すらしている。

 しかし、愛欲に深く溺れてしまったアレハンドロは気が付かない。


「アレハンドロ様ぁ。わたしの為に王国を乗っ取りませんかぁ。うぅぅん。わ、わたしと結ばれるのにぃ。じゃ、じゃまな王家なんてほ、亡ぼしてぇぇ。はぁぁん」


「ああ、ああ! 僕とルシアの邪魔をする者は、全て滅んでしまえぇぇ!」


 ルシアの誘導尋問にかかり、王国の破滅を約束してしまうアレハンドロ。

 しかし、二人の「愛技」は突然起こった爆発音に遮られてしまった。


「な、何だぁ!」

「え? 何が起きましたの、アレハンドロ様?」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ちょっと派手ではありませんか、クラウディア姫様?」


「このくらい、別に問題ありませんですわ、マーちゃん。なにせ、こちらには『錦の御旗』があるんですもの」


 ワタクシは、マーちゃんのみを引き連れて、悪の居城。

 郊外の豪商別宅を強襲している。

 今、二人は屋内でいちゃいちゃ。

 「メイク・ラブ」の最中。

 二人が雲隠れや国外逃亡する前に身柄を抑えるのには、最適なタイミング。


「でも、流石に火災になっては周辺にも被害が広がりませんか?」


「派手なだけの花火ですわよ。しかし、残念ですの。燃え盛る火炎を背景に名乗り上げをするのは、カッコイイではないかしら?」


 門番の駐屯所に、派手に音と火花を出す火薬玉を放り込んだワタクシ。

 大慌てで飛び出してきた門番の兵を、「やさしく」気絶させた。


 ……この人達は、仕事で警備をしているだけですもの。必要以上に怪我をさせるのは可哀そうですわ。


 ドタドタと屋敷の中から飛び出してくる兵士さん。

 しかし、ワタクシの姿を見て誰もが驚きの顔をしている。


「皆様、夜分申し訳ありませんですの。ワタクシ、カスティアーラ辺境伯アルフォンソが一女。クラウディアが王国に弓を引く反逆者を捕縛に参りましたわ!」


 ワタクシは、背後に黒装束の男の子。

 ニンジャっぽい格好のマーちゃん、いやマルティンを従え、朗々と名乗り上げをする。


 マーちゃんの一族は、隠密方として我が辺境伯家に仕えている。

 可愛いマーちゃんも、その外見を利用した情報収集に情報操作。

 そして華奢な外見に似合わない身のこなしで、戦闘職としても優秀。

 ワタクシ個人の護衛役でもある。


 ……ワタクシ自身は、美しいバトルドレス。戦闘用衣装を身に着けているの。ティアラ型サークレット、曲面が美しく肩あて付きな純白の胸甲。ブラスナックル付きガントレットに強固なグリーブはエングレービング(彫刻)入り。スカートも膝下丈で、ふんわり純白な可愛いデザインなのよ!


「くぅ。何処に謀反者が居るというのですか。こんな深夜に証拠も無しに言いがかりを付けるのはどうなのでしょうか、姫様?」


「証拠なら、こちらにありますの。既にお父様、辺境伯名義での報告を王様宛に提出しています。先程、王様から王国の転覆を企むアレハンドロ様、ルシア様の身柄確保の許可を頂きましたわ!」


 ワタクシは、マーちゃんが提示してくれた羊皮紙巻物を指さしながら、王様からの『錦の御旗』を提示する。


 ……恥をかかされたお父様、すっかりお冠なの。お父様の協力で王様にアレハンドロ様についてアル事、ナイ事吹き込んで、身柄確保時に殺さなければ問題無しって許可を頂きましたわ。実際、ルシア様は王家簒奪を計画なさってましたし。


「うむむむ! しかし、我らはアレハンドロ様を守る者なり。姫よ、たかが二人でアレハンドロ様を害しようとするなら、我らの屍を踏み越えよ!」


 警備兵の隊長さんな方。

 マーちゃん情報では、アレハンドロさんが生まれた時からずっと彼の警護をしてきたオジ様。

 その忠誠心は褒められたものではあるが、ワタクシを邪魔するものでもある。


 彼の呼びかけで、警備兵の方々は槍や剣を抜き、ワタクシやマーちゃんを捕り囲う。

 また、少し離れた場所では先込め(マスケット)銃を構えた銃士さんたちがいる。


「はぁ、そのお心は御立派です。ですが、出来ますれば穏便に済ませたかったのにしょうがありませんですわ。マーちゃん、行きますわよ」

「はい、お姉ちゃん!」


 ワタクシは身体強化魔術を全開にし、まずは隊長さんに突撃をした。


 ……初手で指揮官潰し。後は、乱戦にして射撃を避けますの。


「姫様、御免!!」


 摺り足で踏み込んだワタクシに対し、剣先を向けて突いてくる隊長さん。

 しかし、女の子相手とあって剣先がブレブレで突きも甘い。

 ワタクシは左小手の外側で自分に迫る剣先を外へと弾き逸らす。

 そして、剣よりも内側の超接近戦の間合いに踏み込む。

 右掌底を、隊長さんの胸装甲に軽く押し付けた。


「はぁ! カスティアーラ流格闘術。奥義がひとつ、浸透勁ですのぉぉ」

「ぐきゃぁぁ!」


 ワタクシの一撃は、分厚い鋼製の装甲をべっこりとへこます。

 そして技を喰らった隊長さんは、悲鳴を上げつつものすごい勢いで宙を舞う。

 飛んでいった隊長さんは、背後で銃を構えていた銃士さんたちに激突していった。


「チャンスですの! 奥義・鉄山靠(てつざんこう)ですわぁ」

「うわぁぁ」


 ワタクシは、混乱した銃士さんたちの中に突撃、体当たりで数人を吹っ飛ばす。

 後は手足をブンと振るうたびに、銃士さんたちは一人ずつ空に舞っていった。


「奥義・天国地獄脚ですわぁ!」


 中には銃剣で突き刺してきた人もいたけれども、簡単に避けてふわりとスカートが舞う回転蹴り技で空高く飛ばしてあげた。


 ……スカート中の『天国』を見ながら地獄行き。誰が、こんなネーミングしたのかしらぁ。


「乙女にあるまじき足技で、ごめんあそばせぇ。スカート中の下着を見られた殿方は幸運でしたわねぇ」


 スカートの裾を持ち、カテーシーをするワタクシ。

 周囲には、おじ様たちが死屍累々(死んでません)。

 二分もしないうちに銃士隊を壊滅させた。


 ……狙撃が一番怖いですものね。剣の間合いでしたら、お父様直伝のカスティアーラ流格闘術は無敵。ワタクシ免許皆伝は伊達ではありませんですわよ!


「やぁ。とぉ!」

「ぎゃ!」


 向こうではマーちゃんが、小柄な体格を生かして敵の間合い内に踏み込む。

 そして雷撃の魔導具を使って、続々と無力化していた。


 ……うふふ。取り寄せた魔導具で作ったスタンガンなの。金属鎧着てても効果バツグンね。


 そして、ワタクシ達は警備兵らを撃破後、敵の逃亡を防ぐための馬車を破壊。

 その後、屋敷の中へ突入した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ディディお姉ちゃん。この扉の向こうにすっごい殺気がしてるよ?」


「ですわよね、マーちゃん。ワタクシにも分かりますわ。多分、ドアを普通に開けたら、銃撃と魔法攻撃でハチの巣でしょう」


 前世の映画で学んだCQCとやらの移動方法で、廊下で対峙した警備兵さん達は簡単に撃破。

 屋敷奥まで進んだワタクシ達の前には、大広間への扉がある。

 殺気が溢れているし、明らかに火薬の匂いもドアの向こう側からしている。


「寝室らしき部屋には誰もいませんでしたし、逃げるにしてもそれなりの数の兵は必要。馬車は先に全部破壊しておきましたから、このドアの向こうに皆様いらっしゃることでしょう」


 ……随分とベットが寝乱れていましたし、エッチっぽい匂いも充満してましたわ。先程まで『お楽しみ』でしたのね。


「お姉ちゃん、いつのまにこんな襲撃方法を学んだの? 僕もまだ父上から教わっている途中なのに?」


「うふふ、そこは乙女のたしなみ。少しくらい秘密がある方が女の子は魅力的ですのよ、マーちゃん」


 ……まさか、前世で見てたアニメや映画が元ネタなんて言えないですわ。ましてや、この世界が乙女ゲームだなんて事はね。


 ワタクシは前世のオタクな所業を棚に上げ、マーちゃんにウインクしつつ次の行動に移る。


「では、打合せ通りに行きますわよ。はぁぁぁ!」

「はい、お姉ちゃん」


 ワンコなら尻尾全開フリフリしているに違いない嬉しそうな様子のマーちゃん。

 ワタクシ、マーちゃんが一緒なら誰にも負けはしない。


 身体強化魔術を全開にしたワタクシ。

 重いドアを震脚からの背中体当たり、鉄山靠でどかーんと吹き飛ばした。


 次の瞬間、蝶番が千切れて部屋の中に飛び出したドア目がけ、たくさんの銃弾と火球や雷光が飛んで来た。


「本当に脳筋なゴリラ娘ね。わたしが何の策もせずに待ち構えていたとでも思われていたのかしら。ああ、ごめんなさいね。もうじき死ぬ方には失礼でしたの」


「ルシア。いくら敵対しているとはいえ、僕のかつての婚約者をそこまで酷く言う事はないじゃないか。それにいつも言っているが、『ゴリラ娘』とはどの様な意味なのだ?」


 黒色火薬の煙、そして火球が炸裂した後の煙に向かって、傲慢(ごうまん)に呟くルシア様。

 その煙の中でワタクシが倒れているとでも思っているだろう。


 ……アレハンドロ様、今日はまだマトモね。なるほど、愛し合う際に向精神薬物を投与していたら、ルシア様も体液から巻き込まれる。だから、今回はルシア様。己の『身体』を差し出す以外の手を使わなかったのですね。


 しかし、甘い。

 蜂蜜の様に、前世世界のサッカリンの様に甘すぎる。

 何も考え無しに、ワタクシが銃弾の前に飛び出すとでも思っていたのか。

 戦術眼も戦闘知識も、あまりに乏しすぎる。


 ……先込め銃は単発。これで次弾での狙撃は無くなりましたわ。


「では、兵の皆さま。クラウディア様のご遺体を確認してくださいま……。え!」


「壁抜き、鉄山靠! からの、飛翔旋風脚ですわぁぁ!」


 ルシア様や警備兵が完全に油断した瞬間。

 わたくしは、渾身の力をこめた一撃で壁をぶち抜き、兵が多数いる応接間に突撃した。


 ……CQCでの強襲。扉じゃなくて壁抜きが基本よぉ!


 まるで「竹とんぼ」の様に、クルクル空中回転しながら繰り出した連続蹴り。

 優雅に舞うスカートの下、グリーブ(脛当て)で強化された蹴りが幾人もの兵を吹き飛ばした。


「ごめんあそばせぇ。少々はしたなかったですわね。乙女がスカートをなびかせて蹴り技なんて。おほほ!」


 ワタクシの背中は、マーちゃんがしっかりガード。

 ひと暴れが終われば、ワタクシに剣や銃を向けていた人たちは全員、床とキス状態。


 残るは、アレハンドロ様とルシア様だけだ。


「そんな馬鹿な! 僕の護衛が手も足も出ないなんて……」


「このぉ、バケモノ女! どうしたら女の子が屈強な兵士を一撃でノックアウトできるのよぉ!?」


「あら、ワタクシ。まだ人類の範疇ですわよ。お父様や勇者様なら、ドラゴンや魔神を一撃で粉砕できますもの」


 ルシア様は、可愛げな顔を怒りに歪めるが、何も怖くない。

 乙女に向かってバケモノとは大概だとは思う。

 だが、この乙女ゲーム世界では、ワタクシは上位二十パーセントにも入りはしない。


 ……剣一本や拳だけでドラゴンを倒すのは、流石に非常識ですわよね。ワタクシの場合は、人間相手がやっとですもの。


「だったら、これでどう! ワタクシの家が大金払って飼いならした地竜(アース・ドラゴン)ですのぉ!」


 ルシア様は、いきなり懐から何か丸い球のようなアイテムを取り出し、床に叩きつける。

 すると、そこから全長五メートルを越えるオオトカゲ、いや地竜が現れた。


「まるで、〇ケモン・ボールですのぉ?」

「どうして、その言葉を知っていますの? では、貴方『も』転生者!?」


 ワタクシの呟きから、自爆してしまうルシア様。

 やはりワタクシの推理は当たっていた。


「その話は後にしますわ。まずは、このドラゴン退治ですのぉ」


「お姉ちゃん! 流石にコイツは手ごわい。僕の力じゃ鱗に弾かれてしまうよ」


 大暴れをするドラゴン。

 名前通りに地面を這う、前世で言うコモドドラゴンが巨大化した姿の奴。

 しかし、口から火球を吐くのが実にファンタジー。

 更に鱗からなる皮膚装甲は硬く、マーちゃんの持つ小型剣では鱗一枚すら剥がせない。


「ルシア様。やっぱり貴方は馬鹿かしらぁ。王家乗っ取りを考えたのもそうですし、こんな狭い場所でドラゴンなんて呼び出したら邪魔だし、家を破壊するだけですわよぉ」


「どうして王家乗っ取りに気が付いたの? だ、だってぇ。貴方みたいなバケモノを倒せるの。わたしには、もうこいつしか手が無いのよぉ」


「ルシア、王家乗っ取りとはどういう事だ。あ、さっきの寝物語での話は、そういうことだったのかぁ?」


 呼び出したらいいが、今度は制御ができていないドラゴン。

 ルシア様やアレハンドロ様も、被害に巻き込まれない様に逃げ惑うのがやっと。

 せっかくの別荘も至る所で火が付いたり、壁に大穴が開いたりしてきた。


 ……あらあら。アレハンドロ様もおかしいのに気が付いたのね。これで、ルシア様の野望も終わりなの。


「マーちゃん。こいつを一旦ワタクシが引き付けて食い止めます。その間に、貴方は倒れている兵士の方々を救助してください」


「それでは、お姉ちゃんが危ないよぉ」


 ワタクシはマーちゃんに指示を出しつつ、牽制攻撃。


「大丈夫ですわよ。はぁぁぁ、かー〇ーはー〇ー破! 」

「キグギャァァ!」


 竜にお父様直伝の大業、気弾を撃ち込んでみた。

 ドカンと炸裂する気弾の威力に、さしもの竜も一瞬ひるんだ。


「何故に、ここでかー〇ーはー〇ー破? 貴方、おかしすぎなのぉ!?」


 ……別にいいじゃ無いの。この世界じゃワタクシとルシア様以外、分からないんだもの。


 なお掛け声に関しては、お父様は無関係。

 ワタクシが勝手に前世のアニメで聞いた奴を使っているが、叫んで撃つと癖になるくらい気持ちがいい。


 ……波動なんたらも、悪くないんだけどね。実際、乙女ゲームの格闘パートでは、そんな技名が俗称だったし。


「お姉ちゃんを信用してくださいませ、マーちゃん。このままではワタクシ、全力で戦えませんの。貴方にしか頼めませんわ。お願い、マーちゃん」


 ワタクシは隙を見て、マーちゃんを抱きしめキスを額にする。

 するとユデダコにように真っ赤になるマーちゃん。

 しかし、流石は男の子。

 直ぐにカッコいい表情になって、


「はい、お姉ちゃん。僕は僕の仕事をします。お姉ちゃんも頑張って!」


「うん。後で、もっと良いことしようね、マーちゃん」


 ワタクシは百人力の笑顔を貰って、ドラゴンに立ち向かった。


 元の乙女ゲームでは、ワタクシは「ゴリラ姫」とゲーム外で呼ばれていた。

 外見は長身でたおやかな女性ではあるのだが、親譲りの怪力と格闘技を使えるキャラ。

 女性キャラでは唯一、格闘ゲームパートで使えるので結構人気だったのを覚えている。


 ……悪役令嬢ってよりは、選択肢次第で主人公キャラの友人にも敵にもなる子だったわよね、ワタクシは。しかし、乙女ゲームに恋愛パートだけじゃなく、格闘パートや戦略パートまで組み込んだのは、どこのアホよぉ。こんなマニアックなゲーム、普通ブームになんてならないわよぉ。


 ブームになったから、今遊んだ記憶がワタクシにあるのは幸いではある。


「こっちですわよ。ホラホラ、ドラゴンさん。乙女を食べたいのなら、こちらですわ!」


 燃え盛る屋敷から飛び出したワタクシ。

 広い庭園まで竜を誘き出す事に成功した。


「さて、どうしましょうか? 対ドラゴン、屠竜(とりゅう)の技は一つ教えてもらってはいますが」


 お父様から伝授された技には、禁じ手。

 対人では使う事を禁じられているものがある。

 使えば確実に人を殺す、いや人体が何も残らない程の残虐で威力のある技。

 魔神やドラゴンクラス相手に使うべき技で、実際使われたのは対魔王戦でお父様が使ったのが初めてだとか。


「まあ、乙女は度胸ですわね。なに、必殺技の隠しコマンドと効果は覚えていますし」


 遠くでは、マーちゃんが避難完了の合図をしてくれている。

 燃え盛る屋敷を見て、王都中央からも騎士団らが迫っているのも遠くに見える。

 後は、この竜を倒せば一件落着。


「では、行きますの! ドラゴンが踏んでも壊れない辺境伯令嬢、クラウディア。参ります!」


 竜と一瞬睨み合ったワタクシ。

 滑る様に敵の間合いに踏み込んだ。


「キシャァァ!」


 奇声を上げて火球をワタクシに撃ちだす竜。

 しかし、何も怖くはない!


「マーちゃんと一緒なら、ワタクシ無敵ですのぉ!」


 愛の宣言と共に、左腕を一閃。

 真空交じりの旋風を巻き起こし、火球を弾き飛ばす。


 ……あと、三歩!


「グォォ!」


 ドラゴンは旋回し、ワタクシ目がけて尾を鞭のように叩きつけてくる。


「それも想定内! はぁぁ、震脚!」


 どすんと脚を地面に踏み込む。

 そして、踏み込んだ反動でワタクシは高く宙を舞う。


 ……後、二歩。


「ウォォ!」


 ドラゴン、今度は強引に上半身を起こし、空中で軌道変更が出来ないワタクシに対して押しつぶしを仕掛けてきた。


「これも、ゲームで見ましたわぁ!」


 気弾を手足から撃ちだすことで軌道変更。

 ワタクシは、ふわりとドラゴンの頭上を取った。


「はぁぁ! 超絶雷神脚!!」


 高速移動時に発生する静電気を付与効果として纏う、必殺の蹴り技。

 それは真上からドラゴンの頭蓋骨にズドンと突き刺さった。


「続いてぇ、疾風怒濤&鉄山靠!」


 着地後に、同じく雷光を纏った突撃からの体当たり。


「トドメ! 屠竜爆裂拳!!」


 体当たりの一撃で転がり、柔らかい腹部を見せたドラゴンに、ワタクシは必殺の攻撃を繰り出した。


「オラオラオラオラオラ!」


 無数の拳を何か所にも撃ち込む。

 その打撃ベクトルは、全て一直線に心臓を狙う。


「オラオラオラオラ……オラァァ!」


 全てのブローを叩き込んだ後ワタクシは制止し、残心をする。

 ドラゴンはピクリと痙攣をした後、全ての開口部から鮮血を吹き出し、最後には腹部から爆発するように破裂した。


「きゃぁぁ。ゴリラ娘のバカァ。わたし、血は嫌いなのぉぉ」

「お、溺れる! だ、誰か助けてぇ!」


 避難も出来ず、逃げ損ねていたルシア様。

 ドラゴンからの血の噴水を被り、しゃがみ込んで大泣きをしている。

 その横では、同じく逃げ損ねたアレハンドロ様が瓦礫に足を挟まれ、降り注ぐドラゴンの血で溺れそうになっていた。


「あぁぁ。この技の欠点が分かりましたのぉ。ワタクシまで血まみれになるのは嫌ぁぁ!」


 しかし、同じくワタクシもドラゴンから噴き出る血の雨に濡れ、泣いてしまった。


 ……体内に連続で浸透勁から爆裂気弾を撃ち込んで、集弾させた心臓で爆砕。こんな物騒で血なまぐさい技なんて、誰が考えたのぉ!? 女の子が使う技じゃないよぉぉ!


  ◆ ◇ ◆ ◇


 戦闘終了後の今、ワタクシとマーちゃんは湯浴み中。

 嬉し恥ずかしな混浴だ。

 なお、湯浴み着を二人とも着用している。


「マーちゃん。目隠しをしていては、ワタクシの身体から血を拭えませんですわよ?」


「だってぇ。もう僕もお姉ちゃんも、子供じゃないんだよぉ」


 騒動終了後、王国乗っ取りを企んでいたとして、ワタクシ同様ドラゴンの血まみれになっていたルシア様は駆けつけた騎士団によって捕縛。

 アレハンドロ様も、向精神系の薬物を使われていたとはいえ、共犯として座敷牢へ幽閉の身となった。


 ……異世界転生とか、ゲームとかの戯言は誰にも信じてもらえないでしょうけど、狂人扱いになったら死罪は免除になるかしら、ルシア様は。しかし犯罪ギルドと手を組んで麻薬まで仕入れるとは、恐るべし。


「それはそうですが。今日くらいは、ワタクシの肌を見ても良いのですわよ、マーちゃん。貴方は最高功労者ですもの」


「僕は、ただお姉ちゃんの言う通り調べて、証拠を王家に報告しただけだよ? 一番大変だったのはドラゴンとまで戦ったお姉ちゃんだもん」


 ワタクシは思い出した前世記憶から、この乙女ゲームの主人公周辺の人物の動向について、マーちゃんに調査してもらった。

 ルシア様は、元々サブキャラクターの一人。

 主人公側での資金源としての役目をしていて、恋愛パートや戦闘パートとは無関係の子だった。


 ……おそらく、かなり前のタイミング。幼い頃に前世ゲーム記憶を思い出して行動したのよね。だから、学院には主人公周辺の人物はワタクシ以外は誰もいなかったの。


 調査の結果、主人公周辺の人々はワタクシ以外全員行方不明、もしくは地位を失って没落していた。

 ルシア様が、親の資金と秘匿情報を活用して暗躍していたに違いない。


 ……辺境に居て、かつ中途半端に王族に近い立場のワタクシ。たぶん害するのが難しくて、王子様を寝取ることでゲームの表舞台から追放するつもりだったのかしら?


「ですから、ワタクシのご褒美はマーちゃんとの混浴なの。なので、ちゃんとワタクシの身体を磨いてくださいませ」

「もう、お姉ちゃんのバカァ」


 耳どころか全身真っ赤にしているマーちゃん。

 華奢で白い肌の下には肋骨すら見えるくらいの可愛いショタではあるけれども、腹筋の辺りや腕の力こぶを見ると十分にオトコノコ。

 実に美味しそうだ。


 ……じゅるり。数年後が楽しみなのぉ。


「じゃあ、腕からでも洗うのお願いね」

「う。うん」


 その後、お互いに洗いっこをしたのは余談だろう。


「マーちゃん、だーいすき」

「うん、僕もディディお姉ちゃん、大好きです」


 ワタクシは、次の作戦を脳内で計画する。

 マーちゃんをワタクシの夫。

 女辺境伯の配偶者にすべく、どうしたら実績を積めるのか。

 アホなルシア様と同じ失敗は、決してしない。


 ……今回、王家からワタクシ宛に褒章(ほうしょう)が出るって話ですから、マーちゃんに半分は分けてあげましょうかしら。ますは、それで一代騎士爵にしてもらいましょうね。


 それに、他人を巻き込んで不幸にするつもりもない。

 自分が幸せになるのに、他人を不幸にしても気分が悪いから。


 ……さて、ルシア様が死罪にならない程度には手を貸してあげますか。馬鹿でも死なれたら気分悪いですし。ルシア様の親御さんから、バカ娘の助命歎願もされてますもの。


「ルシア様によって変わってしまった世界を、元に戻す事から始めましょうか。行方不明の子達を探さなきゃ。その前にダンジョン攻略も面白そうですの。マーちゃん、これからもずっと一緒ですわ」


「はい、姫様」


 ワタクシ達の前には希望しかない。

 せっかくの二度目の人生、楽しまなきゃ損だ。


 こうして、ドラゴンが踏んでも壊れない辺境伯令嬢とワンコ系なお付きの少年は、新たな冒険に飛び出していくのだ。


(おしまい)

 面白いと思われた方、なろうサイトでのブックマーク、画面下部の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)、感想、いいね、レビューなどで応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ