雑貨屋のエイラさん
「やっと着いたわね」
「割と遠かったな…」
歩き始めて数十分、俺達はようやく街に到着した。道中で賢者に聞いたところによるとジュードという街らしい。どうやらこの大陸で最大の都市のようで、今俺達のいる王国の首都なんだそうだ。
「さて、まずは情報収集からだな。俺の眼は世界の概要は教えてくれても、具体的な情報がそこまでインプットされてないっぽいし」
「そこは流石に自力でやるしかないわね」
「俺の懐にいつの間にか入ってたこの金でまず装備とアイテムを一通り買い揃えようぜ。ステータスゴリ押しでなんとかなるうちは無理してハイグレードなもん買う必要も無いだろうしな」
「そうね。で、どれくらい入ってたの?」
俺は懐から小さな袋を取り出してルミアに手渡した。それを開けて中身を確認してみると…
ジャラジャラジャラ
「うわっ、随分入ってるわね。こんなデッカくジャラジャラ音が鳴るような量って相当よ。しかも全部金貨だし」
「さっき眼で見たところ、どうやらその袋ってレアアイテムらしいんだよな。見た目の割に容量が多いっぽい。その金貨が相場でどれくらいかはわからんけど、流石に新生活スタートするくらいの金にはなるだろ」
「じゃあ、まずは道を聞きましょうか」
(一番近い雑貨屋への行き方を教えてくれ)
(かしこまりました。今ご主人様のおられます東門からそのまま直進でございます。しばらく進むと、右手に小さな雑貨屋が見えてきます。)
(了解。サンキュー)
「このまま直進だそうだ」
「おっけー」
と、いう訳で初めての異世界を五感をフル活用して楽しみながら歩くこと5分。向かって右に雑貨屋を見つけた。比較的新しい建物に木の看板で「エイラの雑貨屋」と書かれている小さな店だ。
ガチャ
「失礼しまーす」
「あら、いらっしゃい」
中に入ってみると、そこには20歳頃と思われる若い女性がいた。カウンターに座って道具の手入れをしながら、俺達を出迎えてくれている。
「ここって、雑貨屋ですよね?」
「ええ、冒険で使えるちょっとした道具を売ってるのよ。あなた達は、何がお望み?今はちょうど暇だし、色々と紹介してあげるわ。私はエイラ、よろしくね」
優しい人だな。この人になら気軽に聞けそうだ。
「俺達、今日この街に到着したばかりの旅人なんです。この街に来るまでにアイテムを使い切ってしまって。ここで一通りの小道具を揃えようと思ってるんですけど、おすすめってあったりします?」
「あら、そうなのね。それならまずはポーションを揃えると良いわよ。この街以外じゃ、まだあんまり魔法が広まってないんだけどあなた達もここまで来れる力があるなら使いこなせると思うわ。取ってくるから、ちょっと待っててね」
そう言って店の奥に消えていくエイラさん。さりげなく良い情報もくれたな。
「どうやら魔法文明の先駆けになってる街みたいだな、ここ」
「そうみたいね。で…ポーションって何?」
「そっからか…?気軽に発動できる使い捨ての魔法みたいなもんだよ。使い勝手は良いものから悪いものまで様々だな。魔法薬って訳がしっくりくる」
「なるほどね。バフとか回復を一通り揃えておきましょう」
「そうだな」
そんな話をしていると、幾つかの瓶を持ってエイラさんが戻ってきた。
「お待たせ〜。おすすめはこの4つよ」
「それぞれどんな効果なんですか?」
ルミアが質問すると、エイラさんは1つずつ瓶を持ち上げてそれに答えていく。
「これは『ヒーリングポーション』よ。飲むと受けた傷を少し回復できるわ。
これは『力のポーション』。飲むとしばらくの間、力が上がって強くなれるわ。
これは『魔力のポーション』。飲むとしばらく魔力が上がるの。
これは『スピードのポーション』。飲むと素早く動けるようになるわ。
この4つが基本のポーションよ。これを持っておけば大体は大丈夫!」
「それじゃあ、その4種類を2つずつお願いします」
「ありがとう。お代は合わせて3000メルクよ」
やべ、そういえば貨幣の単位わかんね。
(へい賢者、メルクって何ぞや)
(メルクはこの街のあるノリート王国の共通通貨でございます。青銅でできた1、10、100メルク硬貨、そして銅でできた1000メルク硬貨。銀でできた1万、10万メルク硬貨がございます。そして、ご主人様がお持ちになっている金貨は100万メルクでございます。)
…え、この金貨そんなに高いん?だから一応一通り小さい銀貨とか銅貨も申し訳程度に1つずつ入ってたのか。崩すにしても相当な金持ち相手じゃないと難しいもんな。
「じゃあ、これでお願いします」
そう言って俺は銀貨を1つカウンターに置く。1万メルク銀貨だ。
「えっと、じゃあお釣りに7000メルクを…」
「あ、良いですよお釣りは。色々と親切にしてもらいましたし」
「え、いやでも貰う訳には…」
「ならその代わりに、この街のことについて少し教えてくれませんか?」
「お安い御用よ!けど、本当に良いの?」
「今はとにかく、情報が欲しいので。むしろこっちが感謝したいくらいですよ」
そう、俺とルミアは元々ここで一気に情報を集める腹づもりだったのだ。人っ気の無い小さな雑貨屋でお代を多く払って代わりに情報を貰えば自然だからな。
「それじゃあ、まずは何から聞きたい?」
「まずは…」
それからエイラさんにこの街のことを教わること10分程。大体の概要は掴むことができた。今のところはこれで十分だろう。
「「今日はありがとうございました」」
「いえいえ、全然良いのよ。こっちこそありがとうね。最後に、お名前を聞いても良いかしら?」
…あ、そういえばどう名乗れば良いんだろ俺。琥太郎って名乗るべきかそれともナタニエルか…いやナタニエルが正解なんだろうけどなんか違和感あるしどうすれば。
(俺の名前ってこの世界基準でどうなん?)
(この世界においても相当に珍しいお名前でございます。名字は特に。名前に関して特に気を使うようなこともこの世界ではございませんので、ご主人様のお好きなように名乗られるのが良いと思います。)
(そうなのか。サンキュー)
と、いうことで俺は今日からナタニエルとして生きていくことにしよう。ただ、それだと堅いので親しみやすいように愛称を作るとするか。
「ナタニエル・グラトマーフェルト。エルって呼んでください」
「ルミア・アインベルグです。ルミアって呼んでくれると嬉しいです」
「よろしくね、エルさんルミアさん。旅のアイテムが足りなくなったらまた遊びに来てね、待ってるわよ〜」
「「また来まーす」」
ガチャ
こうして、俺こと南野琥太郎改めエルは異世界人としての第一歩を踏み出した。