最後の言葉
『三日月先生、美鶴だわ』
ふくよかな女の子が、私の隣に座った。
『貴女が宮部さん』
「はい」
『私達の交わりも覗いていたよね』
「えっ、あっ、はい」
私は、恥ずかしくて目を伏せる。
『いいの、いいの。三日月先生なんか、何度も見てるのよ。だから、気にしないで』
ビジョンで見た、荻野さんより明るい。
「それでは、参りましょう。」
糸埜さんは、車を降りた。
村井美鶴さんは、お店を閉めて歩きだしてきた。
「こんばんは」
「こんばんは」
「お店、今終わったんです。」
「あの、ご飯を食べに来たのではありません。これどうぞ」
「これは?」
「荻野美花さんからの手紙です。」
「そんなわけないだろ?なんだよ!宗教家?霊感商法か?帰って下さい。」
私は、手紙をいつものように突き返された。
糸埜さんの手を荻野さんが、握りしめた。
私は、糸埜さんに肩に手を当てられる。
三日月さんが、糸埜さんの背中に手を当ててる。
「美鶴へ。美鶴、許して、ごめんなさい。私は、彼女に抱かれてしまった。あの、物欲しそうな顔に引き寄せられてしまった。美鶴を裏切るつもりはなかった。私は、自分の中にそんな癖を見つけた事が許せなかった。ごめんなさい。美鶴を愛してる。美花」
村井さんは、立ち去るのをやめてとまってくれた。
「これは…」
村井さんは、涙を流していた。
「荻野さんからの気持ちです。」
「最後に、誰かに抱かれたのか?」
村井さんの目の奥に怒りの炎がついたのを見た。
「えっと、あの」
私の肩を掴もうとするのを糸埜さんがとめた。
「本意では、なかった。」
そう言った糸埜さんを鋭い眼差しで、睨み付けた。
「どういう意味だ!!」
荻野さんは、ボロボロと泣いている。
「まだ、早すぎたのですね。村井さんに荻野さんの言葉を届けるのは、失礼します。」
そう言った、糸埜さんの腕を掴んだ。
三日月さんは、慌てて背中から手を離したけれど……遅かった。
「あいつが、美花を襲ったのか?」
握り拳を作った手が震えている。
『あぁ、私のせい?私が、最後の言葉にあんな事を書いたから。許して、許して。』
村井さんには、見えないけれど彼女は村井さんの手にすがり付いて泣いている。
「愛するものが、赦しをこうてるのです。どうか、赦してもらえませんか?」
糸埜さんは、その姿を見つめて村井さんに言った。
「赦さない。俺は、美花もあいつも赦さない。」
『初めて怒りを持ったものは、判断を間違える。』
三日月さんは、村井さんを見つめて言った。
「何故ですか?荻野さんは、今でも村井さんを…」
『美鶴、赦して。お願い』
「俺がいながら、別の人間に抱かれた。それが、本意じゃなかったとしても…。引き寄せられたなら、ちゃっかりと感じましたって言ってるようなものだろうが!」
「村井さんのお店の前です。やめましょう」
糸埜さんは、村井さんを宥める。
『美鶴、赦してお願い』
「どうして、赦してあげないのですか?」
「俺は、美花を亡くして苦しんだ。なのに、美花は最後にあいつに抱かれて感じていたじゃないか…。」
「ビジョンが、ビジョンが、見えたのですね」
糸埜さんは、ハッとした顔で村井さんを見つめていた。
「美花が、脅されていたとしても。あの女に抱かれて、あんなにも感じていた。あれは、嫌なんかじゃなかった。俺には、美花の気持ちがわかった。」
「ビジョンを見たのですか?」
『師匠ぉぉぉぉ!!』
三日月さんの声がした。
『お前ごときの力じゃ私を倒せはしない。』
その声だけが、私には聞こえていた。
「ビジョンってなんだよ。」
「村井さん、すぐに来てください」
「離せ」
糸埜さんは、手を振り払われた。
「村井さん、どうかお願いします。一緒に来てください」
「うるさい、うるさい」
村井さんは、私達を無視して歩きだした。




