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会いに行く

「ああ、来たわ」


暗い表情から、パアッと明るい表情に変わった。


「桂木丈助さんです。声をかけて下さい。」


時刻は、夕方の4時だった。


「こんにちは」


「こんにちは」


私は、緊張しながら桂木丈助に声をかけた。


「あ、あの」

  

「何でしょうか?」


「三笠千尋さんを覚えていますか?」


桂木丈助さんは、私を見つめた。


「忘れた日など、一度もありません。」


「私は、三笠千尋さんから預かった手紙を持ってきました」


「えっ?手紙ですか」


「はい」


そう言って、さっき書いた手紙を鞄から取り出した。


「これを、どうぞ」


「ああ、ありがとう」


「こんなオカルト話を信じてもらえるかわかりませんが、この手紙は、私が三笠千尋さんの幽霊に聞いた話を手紙にしたのです。」


馬鹿馬鹿しい事を言っているのは、わかっていた。


「何を言ってるのですか?何かの宗教の類いならお断りします。」


そう言って私は、桂木丈助さんに手紙を返された。


開いて、読んで


と三笠千尋さんが、言った。


私は、去ろうとする桂木丈助さんに手紙を広げて読む。


三日月さんが、千尋さんの手を取って私の肩に手を置いた。


【ジョーへ】


声が、変わったのを感じた。


「私は、ジョーを愛してる。どんな事があってもそれはけして変わらない」


桂木丈助さんは、足を止めて振り返った。


「ジョーからの愛を受け取れない私などいらないと思った。昨日、ジョーがラブホテルに行ったのを見たの。そしたら、何故か暗闇で…。もう、前など見えなかった」


私の目から涙がスッーと流れてきた。


「ジョーが、悪い訳じゃないの。私が、もう暗闇にいたってだけなの…。ジョー、私はジョーの未来にはいれない。けど、ジョーの未来を応援してる。」


桂木丈助さんが、近づいてきた。


「なぜ?千尋の声を出せるのだ」


「まだ、覚えていたのですか?」


三日月さんと、千尋さんは肩から手を離した。


「忘れるはずありません。」


「信じて、もらえましたか?」


私は、手紙を差し出した。


「ああぁ、ありがとう」


そう言って、桂木丈助さんは泣き出した。


「千尋を忘れて幸せになろうとしてるなんて、俺は、最低だ。」


千尋さんは、首を横にふってる。


「そんな事、千尋さんは思ってません。」


「千尋を幸せに出来なかったのに、誰かを幸せにしようとしてる。俺は、駄目なんだよ。」


三日月さんが、桂木丈助さんに近づいた。


「亡くなった人は、愛をずっと贈っているんです。何故?受け取ろうとしないのですか?受け取れば、謝罪や怒りなど無意味な事を知るのですよ。」


桂木丈助さんは、顔を上げて三日月さんを見つめている。


三日月さんは、右手の手袋を取ってポケットに入れた。


千尋さんが、三日月さんの左手を握りしめた。


「少しだけ、失礼します」


そう言って、後頭部に手をあてた。


その瞬間、桂木丈助さんの目から涙がポタポタと流れてくるのを見た。


一体、何が起こってるのだろうか?


三日月さんは、後頭部からゆっくり手を離した。


「桂木丈助さん、幸せになるべきですよ。行こうか、宮部さん」


「あっ、はい」


私は、桂木丈助さんに頭を下げた。


「あの、また千尋に会わせてもらえるのですか?」


三日月さんは、振り返った。


「いえ、これが最後です。ですが、桂木丈助さんをいつでも見守っています。それは、そうですね。寄り添うとは、違います。粒子のような感じです。桂木丈助さんの近くを漂っている感じです。これからは、桂木丈助さんが幸せになる事が三笠千尋さんの供養だと思って下さい」


三日月さんの言葉に、桂木丈助さんは、頭を下げた。


「ありがとうございました。」


そう言って、顔を上げる。


ずっと、涙が流れていた。


「あの、三日月さん」


「はい」


「何を見せたのですか?」


「内緒です」


気づくと千尋さんは、いなくなっていた。


「千尋さんは?」


「あちらに帰りましたよ」


「そこは、幸せですか?」


「どうでしょうか?こちらの世界と変わらないと聞きますが…」


「街並みが同じなのですか?」


「はい、同じですよ。前に、小さな女の子が私にビジョンを見せてくれましたから」


そう言って、三日月さんは笑って車に乗り込んだ。

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