見えない痣
私は、家に帰る。
あの日と同じように日本酒を持ってきた。
有里は、私が眠ると襲いにやってきた。
耳元で、生暖かい息がかかる度に吐き気を押さえた。
幽体と出来る身体などいらなかった。
『三日月先生、飲むなよ。そんなに…。』
手酌で、コップについでは飲む私の手を冴草健斗がとめる。
「何だ?私を抱きたくなったか?」
『何、それ?ふざけてる?』
「ふざけてない。」
愛しき幽体達のお陰で、私はあいつから解放された。
いや、回数が減った。
『三日月先生、また来たの?あの人』
冴草健斗は、正義感の塊だった。
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「やめてくれ」
『結界はっても、俺には意味ないよ。宝珠。』
「やめろー、やめっ」
『嬉しいくせに、何言っちゃってんの』
「ぅぅっ、ぅっ」
『舌噛んじゃうから』
「んんっ、っっ」
『可愛い、宝珠。宝珠』
私は、声を出さないようにする。
『お前さー。三日月先生に何してんの?』
『ああ?』
『離れろ』
ドサッ
『今からなのに邪魔すんじゃねーぞ』
『はぁ?うるせー』
ドカっ、ドカっ、ドカッ
『はぁ、はぁ、はぁ』
『威勢がいいくせによえーな。』
成仏をしてる冴草健斗の力には、どうやら敵わないらしい。
『ふざけんな』
ドカッ
『帰れよ。クソ野郎』
『覚えとけ、くそったれ』
「はぁ、はぁ、はぁ」
『三日月先生、大丈夫?』
「冴草さん、何故?」
『三日月先生、嫌がってたから』
「見てたのか?情けない」
『情けなくないよ。強姦だよ。あれは、強姦』
「罪にならぬけれどね」
冴草健斗は、私の腕を掴んで自分の頬に当てさせた。
『こんなに、震えてるのに罪に問われないなんて不条理な世界だね。』
「そうだな」
冴草健斗の正義感に、私は救われた。
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『三日月先生?大丈夫?』
「冴草さんが、初めて助けてくれた日を思い出していた。」
『そうだったんだな』
「身体中に、あいつがいる。」
『また、やられたの?』
そうか、苛立ちはそれだったのだ。
「昨日だな。たぶん」
『俺が、帰った後?』
「身体が、やけにダルかった。器を修復したからだと思った。」
『霊気いれられたのか?』
「そうだ。だから、喜与恵は…。」
『案内人さんに何か言われたの?』
私は、喜与恵が耳元で囁いた言葉を思い出していた。
壁に押さえつけ、泣き崩れる前にだ。
【宝珠、中を出さねばなりません。】
「中を出さねばならぬと言った」
『見せてくれる?』
「えっ?」
冴草健斗は、私のシャツを脱がした。
『三日月さん』
「やはりか…」
胸の下に、痣があった。
『消せるのは、巫女さんか案内人さんでしょ?』
霊気をいれられた証だ。
「そうだ。結斗か真理亜なら消せたかも知れぬが…。今は、無理だ。」
『怒りのコントロールが出来ないでしょ?これが、あると』
「あぁ、そうだ。」
邪悪な魂の霊気をいれられた肉体は、暴走する。
やがて、人をも殺める事になる。
『俺を殺った奴にもあったんでしょ?これ?結斗が教えてくれた。人には見えない痣。』
「確かにある。殺めた人には大抵この痣がある。」
『もうそれは、人ではない。だから、罪を憎んで人を憎まず。でしょ?三日月先生。俺に何度も言ったよね。分厚い本見てさ』
「そうだな。」
そんな簡単な事も忘れていた。
三日月の書物に書かれていた。
【邪悪な魂に、霊力いれられしもの。人の目に見えぬ赤黒き痣をもつ。赤黒き痣、左の胸より広がりし、いずれ人ならざるものになりけり。身体いっぱいに広がりし頃、人を殺めるものとなりけり。】
『三日月先生の力が弱っているの?』
「いや、そうではない。あいつが、何かを喰らっているのかもしれない。」
『それなら、三日月先生。また、来るな。あの人』
「なんとかなる。気にしないでいい。」
私は、また酒をグラスにいれる。
『俺が、消してみてやるよ。三日月先生』
「やめろ。浜井さんに会えなくなる」
『痣が生まれしもの。愛する人に二度と会えぬだったよな。いいよ。どうせ、霊魂うつし出来ないんだろ?だったら、二度と会えないからいいよ』
「やめなさい」
私は、冴草健斗を力一杯とめる。




