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千尋の気持ち

次の日、起きた瞬間から体の重さは、何倍にもなっていた。


重たくて、重たくて、ゆっくりと体を起こした。


そうだ。


ジョーは、お昼から来る。


ジョー、愛してるよ


割れた鏡の破片の一部を掴んだ。


涙が、ずっと流れている。


きっと、ジョーが私を見つける。


前に来た時に、鍵を渡したから…


ジョー、もう私生きたくない


ジョー、体が重くて、重くて、耐えられない


ザァー、ザァー


シャワーで、湯船に水を流し続ける。


【やめて】


千尋さんが、見てる景色は、ボヤけていて


シャワーの音は、遥か遠くに聞こえていて


破片を握りしめた手から血が出てるのに、気づかなかった。


【駄目、やめて、生きて、生きるの、生きて】


ザクッと手首から、切りつけた。


痛みがないのは、何故?


「ジョー、愛してる」


この時の千尋さんの気持ちが流れてきた。


ジョー、愛してる


私は、ジョーと共にいる


これから先も、ジョーの傍にいる


だから、悲しまないで


私が、ジョーを愛し過ぎていただけなの


だから、ジョーを失ったら生きてなどいけないの



ズキンズキン、ズキンズキン


「ぁぁあぁあああああ。ジョー、さようなら」


【無理、無理。この痛みは、無理耐えられない。耐えられない】


千尋さんは、さらに腕を刺す


その痛みなんか非じゃない程の苦しみが流れ込んでくる。


息ができない



カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…


「宮部さん」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「お帰りなさい」


「三日月さん」


私は、どうやらあの痛みに耐えられなかったようだった。


「あの…」


「桂木丈助さんに、渡せる記憶はありましたか?」


「最後まで、見届けられなかったです」


「こちらをどうぞ」


三日月さんに、ハンカチを渡された。


「三日月さん、これ?」


「ああ、いずれ消えます。」


私が見た千尋さんの傷と同じものが、左手の手にくっきりと現れていた。


「その先を見たいです」


「その先とは?」


「彼女が、死ぬとこに戻して下さい。彼女の最後を見届けてあげたい。一人ぼっちで、死なせたくないんです。」


「やれやれ、困りましたね」


三日月さんは、首を横にふって笑った。


「では、私と一緒に行きましょうか」


「はい」


三日月さんは、私に手の傷の場所を握らせる。


「行きますよ。」


そう言って、また後頭部に手をあてられる。


ドクン……


心臓の大きな鼓動が、聞こえて帰ってきた。


「千尋さん」


私は、千尋さんの横に居た。


「誰?幻覚?」


「貴女の桂木丈助さんへの最後の気持ちを教えていただけますか?」


「はぁー、はぁー。私は…ジョーを…」


私は、彼女の気持ちを頭に刻み込む。


「ジョーの……未来を……」


「必ず、伝えます。私が、必ず伝えますから」


「あ…り…が……とう」


彼女が、死に行く姿をジッーと見つめていた。


「最後は、寂しくなかったですね」


「三日月さん」


三日月さんが、隣に立っていた。


「幽霊が現れて、私は死んだのみたいな事は?」


「ありません」


「えっ?」


「そんな事は、ありません」


「どうして?」


「もう、成仏をされているからです。」


「いつ?いつしたの?」


「彼女が、手首を切った時に痛みを感じましたか?」


「いえ」


「そうでしょう。それが、答えです。幽体は、痛みも苦痛もありません。」


「でも、心の痛みはあったわ」


桂木丈助さんが、入ってきた。


「その痛みだけは、何故かあるんですよ。不思議ですね。私の師匠の話ですがね。師匠が、私に言ったんです。幽体は、肉体の痛みは消えるが、精神の痛みは覚えていると…。」


桂木丈助さんの姿に音声はない。


ただ、桂木丈助さんが泣き叫んでいるのはわかる。


「伝えてあげたい」


「最後の言葉ですか?」


「あれは、真実ですか?私が、聞いた言葉は…」


「真実ですよ。宮部さんは、彼女の最後を見届けたのです。」


「それは、おかしいですよね?」


「おかしくありませんよ。私は、その能力を持っていますから」


そう言って、三日月さんが笑った。


ドクン…


強い心臓の鼓動音が、耳元で響いた。

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