絶望と孤独の日々の中で
死の三日前ー
一週間前、ニコに別れを切り出せた。
やっと、言えた。
加奈枝に、信じられないと言われてから、もう心が壊れていた。
「歩と別れたくないよ」
「駄目だよ。こっちにきて」
バリン…
「ニコぉぉぉ」
ニコは、死んだ。
俺の目の前で、窓ガラスを突き破って飛び降りた。
あれから、毎日うなされている。
戻るのに、向こうで借りた家が気がかりだった。
ニコは、最初から別れなくても死ぬつもりだったとニコの母親から聞いた。
歩が日本に帰るのを知ったから、死ぬつもりだったと言われた。
だから、悪くないのよと言ってくれた。
俺は、あの人からもらった白いハンカチを見つめていた。
帰国したら、あの人を探してカールを見せてもらったような事をしてもらおう。
それで、ニコの話を聞こう。
聞いて、聞いて、納得したい。
あの時みたいに、少しだけでも救われたい。
翼を両方失った。
身体だけでも、満たされていたらやっぱり違ったみたいだ。
「歩、ニコとずっと一緒にいて」
「わかってるよ」
「ここがいいねー。ニコも、沢山来たいから」
「そうだな、ここにするよ」
「歩の痛みや孤独が、少しでも楽になるようにしてあげるからね。」
「ありがとう、ニコ」
カチッ…ボゥッ
俺は、窓ガラスを触る。
もう、直されちまうんだよ。
簡単に、こんなものは。
ここと違って
俺は、胸に手を当てる。
昨日、会社をさよならしたから、後は何もやる事がなかった。
「連れていけよ。ニコぉぉ」
俺は、涙を止められなかった。
「死にたいんだよ。こんな、地獄で生きていたくないよ」
煙草を消した。
生きるのって、こんな苦しかったっけ?
カチ…カチ…カチ…カチ…
【宮部さん、少し離します】
私は、宮瀬歩の痛みを感じていた。
死の二日前ー
朝から、身体が重くて堪らなかった。
もう、何もする事がない。
荷物も、もう送った。
俺は、だだっ広い部屋で、酒を飲んでる。
「ニコぉぉ、カール。加奈枝」
俺は、誰の愛もこの手に掴めないのだ。
悲劇のヒロイン、酔いしれてる、自分が一番好きなだけ…
どうとでも、言えばいいさ。
誰にも言われてないのに、俺は頭がおかしくなったか?
自分なんて、好きな時あったのかな?
母親に捨てられて、男と寝た金で育てられて、自分を綺麗な存在だって思った瞬間なんて一度もなかった。
俺は、ハンカチを握りしめる。
あの人は、めちゃくちゃ綺麗だったな
宮瀬歩には、絶望と孤独しかない。
時折激しい苦しみで、涙が流れてくるのだ。
死の一日前ー
「死にたい」
カチッ…
「スー、フー」
もう、宮瀬歩の生きたい気持ちが残っていないのを感じた。
なぜ?なぜ?こうなったの?
宮瀬歩は、独り言を話し出した。
酒に寄って幻覚を見てる。
「なぁ、カール、ニコ知ってるか?人はな、もうその愛がないってわかると絶望しかないらしい。」
煙草を消しては、また火をつけた。
カチッ
「ゴクッ、ゴクッ。明日、帰った所でな。加奈枝が、俺を抱き締めてくれると思うか?信じないって言われたんだぞ。無理に決まってるだろ?」
ビールを飲み干して、新しい缶をあける。
「もう、死にたいって呟いても心が満たされないんだよ。空っぽで、空っぽで、何にもないんだ。」
宮瀬歩の、情緒が不安定だった。
泣き出した。
「どうやって生きていくか考えるより、どうやって死ぬか考える方が幸せなんておかしいだろ?ニコ、カール。俺、どうしちゃったのかな?」
【おかしいと思えるなら、まだ大丈夫だよ。宮瀬さん】
煙草の火をけして、またつけた。
「どうやって、笑ってたかな?」
もう、宮瀬さんは、壊れてる。
「どうやって、生きてきたかな?」
宮瀬さんは、煙草を消した?
「どうやってた?どうやってた?わからない。わからない。助けて、助けて下さい。誰か、お願いします。許して、俺を許して」
痛みと苦しみが流れ込んできて、息ができないのを感じる。
ただ、生きる事の難しさを私も感じている。
カチ…カチ…カチ…カチ
【宮部さん、もう少し離します。】




