叶わない想い
私は、案内人に連れられてシャワーを浴びる。
「宝珠さん、やっぱり私の血では足りませんでしたか?」
私は、喜与恵をシャワーの中に引き寄せて、抱き締めた。
ザァー、ザァー。
「私をずっと愛してくれているのを本当は知っていたよ。喜与恵。あの日、押し潰されそうだった私を喜与恵が助けてくれた。私は、喜与恵を好きになりたかった。師匠から言われた言葉のせいで、喜与恵は初めから恋愛対象にはならなかった。」
「宝珠さん、離して下さい」
「喜与恵の痛みを感じていたよ。私は、生きてる人間のビジョンも見たければ見れた。ある日、私は、喜与恵のビジョンを覗いたんだ。」
「それは、見て欲しくなかった。」
喜与恵は、下を向いた。
「私の裸を見たからか?それとも、自分を慰めてるのを見られたからか?」
「宝珠さん」
「喜与恵が、何をしていたか見てしまった。私は、喜与恵にこうして触れたいと思っていたよ」
「宝珠さん、やめて下さい」
「私達が、愛し合う事は許されない。喜与恵、わかるだろう?」
「わかってます。」
「悲しい顔をするな。この目を閉じれば、誰としても同じだろう?」
私は、喜与恵の左目を隠した。
「それでも私が、いいのなら…。お別れ前に、抱いてあげるよ。喜与恵」
「宝珠さん」
「喜与恵も私も、いずれこの粒子になるだろう?だから、そうしよう。喜与恵」
私の真琴への悲しい傷を癒してくれたのは喜与恵だった。
でも、喜与恵の気持ちには答えられない。
「宝珠さん、私は、ずっと宝珠さんを愛していました。40年間、ただひたすらに宝珠さんを…。伝えるつもりなどなかった。宝珠さんが、これ程までになっていなかったら…。言うつもりなどなかった。言ってしまえば、宝珠さんとの関係が終わる気がしたから…。宝珠さんに、嫌われたくない。ただの案内人でいい。これから先も、宝珠さんの力になれる人間でありたいのです。」
喜与恵の痛みと悲しみが、流れ込んでくるのを感じる。
壊れた私を抱き締めてくれた喜与恵を押し倒してやりたかった。
この細い腕で、私を支えてくれた。
「喜与恵、まだお別れじゃないよ。」
私は、喜与恵を抱き締める。
喜与恵の袴が濡れていく。
私は、喜与恵の頬に手をあてる。
「三日月家に産まれなかったら、喜与恵の手を掴んで逃げただろう。あの日、私の傷を癒したのは喜与恵だよ。報われない恋が、人間にはある事を喜与恵に恋した日に知ったのだ。」
私は、喜与恵の耳元に口をあてる。
「私もビジョンを見た日。喜与恵で同じ事をした。」
「宝珠さん」
喜与恵の肌をシャワーが濡らす。
「あげるよ。私のビジョンを…。喜与恵に感じた私を…」
シャワーのお湯を止めて、私は、右の手を喜与恵の後頭部に当てる。
ドクン……
「宝珠さん」
喜与恵の両目に涙が溜まっていく。
「私を、私を、一度は愛してくれていたのですねぇぇー」
喜与恵は、膝からその場に崩れ落ちた。
私の目にも涙が溜まる。
「喜与恵、ごめんね。」
喜与恵は、首を横にふった。
「いつか先の、未来では一緒になろう。喜与恵」
喜与恵の目から、涙がスッーと流れ落ちた。
私は、喜与恵の唇に優しくキスをした。
「宝珠さん」
「これからも、私の役に立って欲しい」
「はい」
「器の破壊を手伝うのですよね。人間と交わるのは、初めてですが、私にうまく出来ますでしょうか?」
グシャグシャな顔で、下手くそな作り笑いを浮かべて喜与恵は笑った。
その顔が、溜まらなく苦しくて
「そんなの必要ない」
私は、喜与恵を強く抱き締めた。
喜与恵は、私にしがみついた。
「半分、化け物の私と交われば、器の破壊が可能かもしれません。そうでしょ?宝珠さん」
「したくない事をしなくていい」
「でも、宝珠さんが言ったんですよ。成木さんとって」
「すまない、喜与恵。忘れてくれ」
喜与恵は、私から離れた。
「私は、三日月宝珠の為ならどんな苦行もやり遂げますよ。だから、大丈夫です」
喜与恵は、私の右手を掴むと頬に当てる。
【愛してます、宝珠さん】
私は、その手で喜与恵の頬をずっと撫でていた。
「用意して下さい。袴をかえてきます。」
喜与恵は、立ち上がって出て行ってしまった。
さよなら、私の三度目の恋
ザァーと、シャワーを流しながら少しの間、私は泣いていた。




