人間への好意
「宝珠君、起きれますか?」
私は、二条さんにゆっくりと起こされた。
二条さんは、私の涎や涙を拭ってくれる。
ものを言わなくても、私の右手を痣のうえにのせて、ビジョンを読み取った。
「強姦殺人の被害者でしたか。」
私は、涙を流しながら二条さんを見た。
「柊真琴、愛していたのですね」
頭を優しく撫でられた。
「ううぅぉぉぉぉぉぉ」
私は、この日愛する者が、死んでいくビジョンを初めて見たのだ。
「一度だけ、肌を重ねたのですね。それも、殺される前日に…。」
二条さんは、私の涙を拭った。
「一年の片想いが実って、お付き合いできた。彼女に、愛されて幸せでしたね」
「ぅっ、うう」
「だけど、彼女は殺されてしまった。会いに来たのですか?それとも、死体に触れにいったのですか?」
私は、二条さんを見つめた。
「死体に触れにいったのですね。」
私は、真琴の亡骸に会いに行った。
そして、そのビジョンを頭の中の引き出しに閉まって持って帰ってきたのだった。
「一人で、見ようと思ったのですね?」
私は、二条さんの言葉に頷いた。
「でも、彼女の痛みが流れ込んできて死にそうだったのですね。」
私は、さらに頷いた。
「その痛みを忘れてはなりませんよ」
二条さんは、私の顔を見つめる。
「三日月の家を背負うと言うことは、そういう事なのです。救われたい魂が、あなたの前にやってきてビジョンを見せる。それは、まるで一本の映画のようで。貴方は、苦痛も痛みも悲しみも喜びも楽しさも幸せも、その人の人生を全て感じとるのです。」
二条さんは、私の涙を拭ってくれる。
「その度に、のたうち回っていてはいけませんよ。宝珠君、強くなるのです。全ての感情に揺さぶられない自分を作り上げるのです。わかりましたか?」
私は、二条さんの言葉に首を縦にふった。
同じ力を持つ二条さんの言葉は、この胸にずっしりと響いた。
私は、人間を愛する事をこの日やめた。
三日月と言えば、許されると思っている。
鬼畜な師匠。
私は、師匠からの暴言、暴力に毎日耐えていた。
それに耐えれたのは、全て二条さんが居たからだった。
三日月家という檻の中に閉じ込められる人生だった。
私の人生は、報われないと思っていた。
人ならざるものを愛し、人ならざるものに愛され、私は、鍵となって死ぬ。
私に人間としての価値は、ゼロだった。
幽体としての価値だけだった。
それさえも、師匠にとっては虫ケラ以下だった。
「宝珠、お前は素晴らしい」
そういつも褒め称えたのに…。
「僕は、もう真理亜としました」
「この色キチがぁー。」
ガン…ガン…ガン
柱に何度も頭をぶつけられる。
「愛してる人としたかったのです。」
「クソガキが、お前をここまで育てたのは私だぞ。歯向かうつもりか」
トガッ、ドン、ドン
腹を蹴りあげられ続けた。
「すぐに、抹消しろ。真理亜というやからを呼び出せ。糸埜」
「それは、出来ません」
「ふざけるな。お前まで、私を侮辱するのかぁぁぁ」
「本当に、出来ないのです」
「宝珠、もう鍵になって死んでしまえ、出来ぬなら私が殺してやる」
「師匠、やめて下さい」
二条さんが、止めてくれた。
「三日月と言う名の呪縛ですね」
「宝珠君、師匠は君を虐待している。私が、出来ることなら君を守ってあげたい。だけど、力が君の方が上すぎる。真理亜さんとの交わりのお陰か、より強くなった気がする。」
「そうですか…。それは、よかったです。三日月の血を絶やす人間の私は、最強の力を手に入れないといけないでしょ?」
「宝珠君、苦しんでいるんだね。私にもっと力があり。子供を授かれればよかった。」
「二条さん、黒きものは子孫を残せないのですよね」
「ああ、そうだ。」
「仕方ないですね。師匠も子孫を残せなかったわけですから」
「宝珠君、私には辛いと言っていいんだよ」
そう言って、二条さんに抱き締められた。
私は、二条さんの胸で泣いた。




