結斗の想い
ガチャ
三日月先生が、鍵を開けた。
僕も一緒に入った。
「律儀に、玄関からはいらなくてもいいのに」
三日月先生は、そう言って笑って本棚の本を取り出した。
「浜井さんに、入る方法ねー。」
『三日月先生』
「なに?」
『ちょっとだけ話したいんだ』
三日月先生は、本を閉じた。
ソファーに座ってと指を差した。
「結斗君、どうした?」
『三日月先生、僕ね。先生には生きて欲しいんだよ』
「あらたまって、どうしたんだ?」
『三日月先生は、桜木さんと桜宮さんとあの神社を封印するんでしょ?』
「巫女から、聞いたのか?」
『うん』
三日月先生は、手袋をはずした。
「それは、私に与えられた能力だから。だから、心配しなくていい。」
『三日月先生、僕ね。巫女から聞いたんだ。8体の魂を抹消する事を条件に封印出来るんだって。』
「どういう意味だ?」
『愛を知ってる魂を8体。三日月先生が、巫女からその数珠の玉の色を聞いたでしょ?その色の数があれば、封印できて、二度と解かれることはないんだって。三日月先生が、死ぬ条件と変わらないでしょ?』
「ふざけるな」
三日月先生は、やっぱり怒った。
僕は、この15年、三日月宝珠を見ていたから知っている。
三日月先生は、自分より見えざるものを大切にしてきた。
僕達の傷を癒し、心を癒し、その結果、自分をおざなりにした。
そして、恋愛も結婚も諦め、三日月先生は一生を幽体に捧げたのだ。
『三日月先生、宮部さんと幸せになって欲しいんだよ。宮部さんに会わせたのは、僕だったでしょ?』
「そんなの必要ない。魂の抹消なんてされたら、愛する人に、もう二度と会えないんだ。そんなの、駄目だ。私、一人の命で充分だ。」
『三日月先生、自分をもっと大事にしてよ。三日月先生怒らないでよ。僕達は、三日月先生の力になりたいんだよ』
「私は、自分を大切にしている。今、僕達と言ったか?僕達とは、どういう意味だ?」
『もう、8体の魂に約束をとってるんだよ。ただ、皆、消えるなら愛する人を魂に刻み付けたいんだ。』
「誰が、そんな馬鹿げた約束をしたんだ。」
『小笠原亜由羽さん、笹木葉子さん、冴草健斗さん、早乙女加奈枝さん、宮瀬歩さん、前野友作さん、荻野美花さん、そして僕。五木結斗』
三日月先生は、涙を流している。
「ふざけるな、抹消などさせない。」
『三日月先生が、自分達をどれだけ癒してくれたか知っています。皆さん、三日月先生と出会ったでしょ?小笠原さんと笹木さん以外は、僕と出会った後に、三日月先生が何度も癒したでしょ?』
「覚えている。私は、この中に皆の事を…」
『抹消されても、三日月先生の中には、残り続ける。三日月先生の頭の中は、図書室みたいで。僕達一人、一人の人生の一冊を持ってる。それだけで、いいんだよ。三日月先生。』
「そんな事は、させない。不条理に奪われた命達を、抹消なんてさせない。私の命より、君達の方が大切だ。」
三日月先生の目から、止めどなく涙が流れてくる。
僕は、三日月先生の頬の涙を拭ってあげる。
『三日月先生、僕達はね。皆、三日月先生に愛される事を知って欲しいんだよ。たくさん、幽体を愛したんだ。今度は、三日月先生が愛される番だよ。宮部さんならきっと、三日月先生を愛してくれるよ。だから、大丈夫だよ』
「結斗君、私は、しないよ。君達を抹消などさせない。愛する人を待つんだよ。君達は、そっちで」
『三日月先生、どれだけ待たなきゃいけないと思ってるの?一瞬じゃないんだよ。三日月先生だってわかるでしょ?例えば、陸が後40年生きたら。僕は、向こうで4年待つんだ。たかが、4年じゃないかそう笑うかもしれない。でもね、愛する人に触れられない4年は地獄だよ。皆、その気持ちに賛同してくれたんだ。早乙女さんと宮瀬さんは、二人でいるからもう何もいらないって言ってくれた。三日月先生、少しは僕達の気持ちも汲み取ってよ。ねっ?三日月先生。』
三日月先生は、首を横に静かに振った。




