会いに行く
私は、三日月さんと車に乗り込んだ。
「一ノ瀬倫さんですよね」
「はい」
「素敵な人でした。」
「そうですね。優しい方でしたね。今は、桂木丈助さんといらっしゃいます。」
「愛し始めたのですね」
「そうなりますね」
三日月さんは、信号で止まると眉間に皺を寄せた。
「明日の魂の事で、お話があります。」
「何でしょうか?」
「明日、宮部さんが会う魂は、五木結斗です。」
「はい」
「こないだ、宮部さんに見せたビジョンでもわかる通り、彼は全く癒されていません」
「えっ?」
「勿論、ご家族にも会わせました。ご家族は、癒せましたが…。本人は、全くです。」
「それって…。」
「五木結斗の痛みは、今までの二人とは別格です。それでも、やりますか?」
「勿論です。でも、五木結斗さんを最後ではいけなかったのですか?」
「私としては、最後にしたかったのですが、どうやら上條陸の精神が壊れかけているそうなのです。だから、早くして欲しいようです。」
「五木結斗さんは、今回で癒されますか?」
三日月さんは、首を横に振った。
「わかりません。ただ、宮部さんに犯人が接触してきた。そして、五木結斗はまた私の前に現れた。そして再会しても、五木結斗は、まだあの日のままでした。上條陸に、会うことで癒されればいいのですが…。もしかすると、綺麗にされるのを望んでいるのかもしれません。」
「って、事は浜井さんを使うって事ですか?」
「器の入れかえは、した事がありません。ですが、五木結斗の為には、考える必要がありますね。つきました。」
そう言って、三日月さんは車から降りた。
パン、パンと軽く手を叩くと、旭川愛梨が現れた。
『もう、そろそろ来ます』
「わかりました。」
愛しいものが、現れるのを待っている。
(一ノ瀬さん、お疲れ様)
(これ、唐揚げのおかず忘れてたよ)
(ありがとうございます)
『あー。倫だわ。触れたい。』
そうなのは、わかる。
私が、旭川愛梨の立場でも触れたい。
「こんにちは」
「こんにちは」
私は、通りすぎる一ノ瀬倫に頭を下げる。
「あの」
「はい」
「旭川愛梨さんの手紙を渡しにきました。」
「手紙ですか?」
「はい」
私は、一ノ瀬倫さんに手紙を差し出す。
「あの、こんな話を信じてもらえるかわかりませんが…。これは、私が旭川愛梨さんが意識を失う瞬間に聞いた言葉です。」
「あの私は、元医者です。そんな非科学的なものは信じられないです。何かの勧誘で、多額のお金を請求されるやつですよね。失礼します」
そう言って、一ノ瀬倫さんは去って行こうとした。
三日月さんが、私の肩に手を置く。
頷いたのを見て私は、手紙を広げる。
【倫へ】
倫をちゃんと待っていたのよ。だけど、連れて行ってと言われて案内するしかなかった。
さよならは、嫌なの。
でもね、もう体がね。無理なの
ずっと、倫を愛してる。
倫の未来に私は、いれないのね。
それでも、生きていたくて。
犯人の言うことを聞いたの
倫の未来が、幸せであるのを祈っています。
【愛梨】
一ノ瀬倫は、止まった。
「本当なんですか」
「はい」
「紛れもない、愛梨の声だ」
「はい」
一ノ瀬倫は、涙を流し続けている。
「私は、愛梨を救えなかった。医者としても、恋人としても…。」
旭川愛梨は、首を横に振った。
「そんな事は、ないです。彼女は、そう思っていません。」
「そんな事はないよ。私は、愛梨に何もしてやれなかった。何も出来なかった。あの日、もっと早く行けてたら」
三日月さんは、その言葉にこう言った。
「亡くなった人は、愛を贈っているんです。何故?受け取ろうとしないのですか?受け取れば、謝罪や怒りなど無意味な事を知るのですよ。」
「どう言う意味ですか?」
「少し失礼しますよ」
そう言って、三日月さんは両方の手袋を外した。
左手で、私の手を掴んで右手で一ノ瀬倫さんの後頭部に手を当てた。




