犯人
「わぁぁぁぁあああああ」
犯人の体を使って、叫んでいた。
実際には、叫んでいなかったけれど…。
体を八つ裂きにされたかと思った。
「愛梨、愛梨ー」
犯人の意識に集中する。
【ずっと抱きたかった。いつだったっけ?愛梨があの日、このハンカチを拾ってくれた日。絶対にこの体を犯すと決めたんだ。身体中に、俺を刻み付けてやる。あんなスマートな彼氏より俺の方がいいだろ?愛梨。感じろよ。愛梨】
旭川愛梨さんは、いつの間にか殴られている。
【愛梨、何で泣くんだよ。俺の方がいいだろ?何度も女を殴ってやったけど、初めてだよ。やりたいと思った女は、愛梨。マジでいい女だ】
気分が悪くなってきた。
ただ、旭川愛梨さんに狙いを定めていたのだけはわかった。
思考に集中するのをやめたら、こいつの快感が流れてくる。
私は、戻りたいのを強く念じた。
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「うわぁあぁぁぁぁ」
「三日月さん、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、すみません」
三日月さんの口から、血が流れている。
「休憩しましょうか?」
三日月さんは、首を横に振る
「どうして?」
「一度取り出したビジョンは、最後まで見なければ、旭川愛梨さんが一人で死ぬ事になります。」
「そんな、傷だらけなのに」
「構いません」
三日月さんの顔が腫れはじめている。
「もしかして、三日月さんも襲われてるのですか?」
私は、三日月さんの口の中を覗き込んだ。
「お気になさらずに」
この人は、ビジョンを見せ、誰かを体にいれる能力を持ったかわりに、代償で被害者がされた全てを引き受けているのだ。
「それじゃあ、全身が犯人に」
「気にしないで下さい。時間がありません。旭川愛梨の元に行きましょう。最後の言葉を届けなければ、ねっ?」
「はい、三日月さん」
三日月さんは、私の後頭部に手を当てる。
カチ…カチ…カチ…
私は、旭川愛梨さんの横に座る。
犯人は、いなかった。
「誰?」
さっきの痛みを思い出した。
「私が、一ノ瀬倫さんに愛梨さんの気持ちを伝えにいきます。」
「あ…あ…りが…と」
愛梨さんは、ゆっくりと話す。
「倫…を………さよならは……愛してる……」
「はい」
「未来……倫と……」
「はい」
「よ…ろ…し…く」
「はい」
旭川愛梨さんの意識が、薄れていく。
誰かが、愛梨さんを見つけた。
「もう、彼女は運ばれる前からこの肉体に少ししかいませんでした。」
三日月さんが、近づいてきた。
「三日月さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。魂の私は、無傷です。」
「何回見たのですか?この場面を…。」
「ご家族にビジョンを見せる前に、痛みを取り除く必要がありましたので、100回以上は見ました。」
私は、その言葉に驚いていた。
「戻りましょう。一ノ瀬倫さんに渡す言葉を忘れないうちに」
カチ…カチ…カチ…カチ
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「お帰りなさい」
顔が、腫れ上がった三日月さんがいた。
「手紙を書きます。」
「はい」
三日月さんは、しんどそうにしながら手紙を持ってきてくれた。
私が、手紙を書いている間、三日月さんは鏡で顔を見ていた。
「終わりました」
「よかったです」
ゆっくりではあるが、三日月さんの腫れがひいていた。
「三日月さんも犯人に襲われてるのですか?」
「合計、13回でしたかね」
「えっ?」
「旭川愛梨が、犯人にされた回数です。」
「そんな出来ませんよ」
「出来なくても、あいつはしてましたよ。」
「そんな…」
「化け物だったんですかね?それとも、旭川愛梨への愛だったのでしょうかね?」
たった一人で、そんなにできるはずはない。
だけど、犯人はした。
その証拠が、三日月さんの体についている。
「不思議ですよね。この体液も血も、私のではないのです。だから、消えていく。ただ、これは、始めてでした」
三日月さんは、シャツのボタンを外した。
獣にでも、引っ掛かれたような痕が浮かんでいる。
「生きてる人間に、はいった代償でしょうか?」
そう言って、三日月さんは笑った。
「では、行きましょう」
腫れが、完全にひいたのを感じた三日月さんは立ち上がった。




