三日月宝珠
私は、宮部さんを送り届けて家に帰った。
ガチャ…。
「まだ、いましたか」
私は、部屋のソファーに座ってる五木結斗に話しかけた。
「帰ってくるのがわかったから、きたんだよ」
妙な色気と息をのむ程の美しさを五木結斗から感じていた。
「そう、暇なんだね」
私は、手袋を外した。
500mlのビールと煎餅を持って、ソファーに座る。
「三日月先生、ありがとうね」
「私は、先生ではないよ」
「三日月先生は、向こうで有名だよ。」
「そうか」
私は、煎餅の袋を開ける。
「三日月先生、また来るから」
「ああ、気をつけて」
冴草健斗が、現れて帰っていった。
私は、ビールを飲む。
私を三日月先生と呼ぶのは、あの子しかいなかった。
あれは、25年前の出来事だった。
「あー。三日月君。遅くまでごめんね」
「はい、お疲れさまでした。」
私は、当時22歳だった。
スナックのボーイとして働いていた。
帰宅は、深夜2時を回っていた。
いつもは、通らないその道に引き寄せられるように行ってしまった。
【半年前、この場所で靴だけを残し、小笠原亜由羽さんが行方不明になりました。】
あー。
確か、この道で消えたんだった。
私は、何故ここに来たのかわからなかった。
道路脇に手向けられた彼女への花。
私は、手を合わせて家に帰った。
翌日、日曜日。
店は、休みだった。
私は、夜の七時から小笠原亜由羽さんを霊能者が探すという特集番組を見ていた。
いや、見せられていたのか?
暫くするとあらゆる人が出てくる。
【彼女は、まだ生きています】
そう全員が、口ずさむ。
『死んでるのにね』
あー。またか…
私の隣に彼女は、座っていた。
「暴行されたのか?」
「そうね」
身体中傷だらけだ。
「山に埋まってるの」
彼女は、砂のついた手を払った。
「で、どこの山?」
「さあ、わからない。死んでるから」
「見てきてくれなきゃ、俺は嘘つきだよ」
「ねぇー。三日月先生」
「俺は、先生じゃないから」
私は、マグカップに日本酒を注いだ。
この頃の、私は見えざるものたちのせいでイライラしていた。
勝手に近づいては、成仏させてくれ、助けてくれ、家族に伝えてくれ…。正直うんざりだった。
毎夜、毎夜、やってくる幽霊に眠れなくて、日本酒を一升瓶の半分飲み終わってやっと眠れたのだ。
「三日月さん、お願い。三日月さんが、家族にビジョンを見せて欲しいの。三日月さんの、その手には能力があるでしょ?」
私は、この頃は小指が黒い爪なだけだった。
「俺に、そんなものはない」
「お願いです。お母さんは、変な占いのようなものにハマって大金をつぎ込んでる、お父さんは、不倫してるし、兄は、廃人になって、妹も引きこもりなの。お願い私のビジョンを家族に見せて欲しいの」
そう言って、彼女が私の右手を掴んだ瞬間。
全部が流れ込んできた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
痛みや苦しみや悔しさや悲しみで、死ぬかと思った。
「ねぇ、お願い」
私は、19歳の女の子の望みを叶えてあげた。
そして、私はこの件から霊能者MOONとして活動させられてしまう。
しかし、幽霊を呼び出すわけではない。
そもそも、私には呼び出し方がわからない。
必要な時期が、やってきたら向こうから勝手に現れて、私が頼んでもいないビジョンを見せたり、長々と話してくるのだ。
霊能者MOONとして、TVを通しての活躍は、約7年を迎えた。
「MOON先生、この方の家族がビジョンを見せてくれと言ってましてね。大々的に、特集をくみたいのですよ」
それは、かつての婦女暴行事件の被害者遺族だった。
呼び出して欲しいのは、笹木葉子さんだった。
しかし、彼女から私に対してのコンタクトはなかった。
「赤羽さん、私にはこちらはできません」
そう断った私を、赤羽さんは怒鳴り付けた。




