プロローグ
朝焼けが南宇治上区の住宅街を白く照らしていく。朝日の輝きが銀色の光の筋をいくつも描きながら街の果てまで照らしていく。もう雛衣も房八も居ない薄赤の屋根の上も、同じように白い輝きで染まっていく。
キリヤは、ヒナと房八の両方の部屋に魔法の鍵をかけたあと、家の前の道路にバイクを停めて、ヒナが戻ってくるのを待っていた。
「……………キリヤ」
はじめて陽の光の下で見る雛衣の顔は、7歳とは思えないほど強い決心を目の奥に宿した、きつね色の髪に群青色の瞳をしたごく普通の女の子だった。すごく泣き疲れた顔をしているけれど、その表情を見れば、彼女に大人の心が宿っていることが分かるだろう。
「………済んだか?」
金色の月色のキリヤの瞳。夜色だと思った彼の目は、陽の光の下で見る方が遥かに鮮やかな瞳に見える。この男が、これからヒナの師匠になる。医者であり魔法使い。吸血鬼とたった一人で闘う男。こんな地獄のような夜を、ずっと一人で過ごし続けてきた男。
雛衣は心に固く決めた。この先どれほど恐ろしいことが起こっても、どれほど悲しくて辛い、過酷な運命が待ち受けていても、命が燃え尽きるその瞬間まで、この男を師匠として信じてついていくことを。
「うん。行こう」
キリヤは小さく頷き、魔法で織ったヘルメットをヒナに投げて渡した。
バイクが発進し、誰にも知られることなく星の残った明るい夜空へと上がっていく。
もう帰れない我が家が遠ざかっていく。また新しいいつもの朝を迎える家の中に思い出を全部閉じ込めて。魔法使いとその弟子は朝焼けの中に旅立ち、二度と振り返ることは無かった。
今度修作することにしました。
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