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フィジカルつよつよ姉弟




『────ヒナ、聞こえるか!』


「ん!キリヤからだ、房八!」

「師匠さん!?」

『吸血鬼の眷属(けんぞく)が集まってくる。弟を連れてそこから退避しろ。吸血鬼に抗ウイルス薬を打ち込んだ。俺は左腕を失ってしばらく切除できないから、住宅街を出て森に行くぞ』


「えぇっ!?」

「大丈夫なの!?」


 左腕を失ったとかいうとんでもないニュースに二人が揃って声を上げる。キリヤはごく冷静に続けた。なお、この交信はキリヤが魔法で飛ばしている音声であるので、吸血鬼に盗み聞きされる心配はない。


『腕の欠損など魔法使いにとって大した怪我(アクシデント)じゃない』

「マジかよ!?」

「うそだ絶対()せ我慢してるでしょ……」

『痛みには強い方だ』

「かっけぇ……!」

「いや何処(どこ)が?」


 目をきらきらさせる弟に呆れる。房八はまだ子どもなので、忍耐強いオトナの男に憧れているのだ。


麻酔(スタン)が切れたらまた襲ってくるだろう。住宅街にいると他の一般人を捕食するかもしれないから森に誘い込むように退避する。切除(オペ)は左腕を治してから森の中で(おこな)う。お前たちはこの先の森にある湖を目指せ。吸血鬼は水に入れないからな。』

「わ、分かったっす!」

『眷属を躱しながら森へ走れ。姉さんを守れよ』

「ハイっす!!」

「いや何やる気になってんの?……ってうお!」


 房八はヒナを抱き上げると乗ってきた自転車のカゴに彼女を放り込んで自転車のスタンドを蹴りあげた。自転車はただの通学チャリだが、房八が本気で走らせたら自動車よりも早くなる。勘が良く目も耳も冴えているので、今のところ本気で走らせて誰かと衝突したことはない。どこに何がいるか、ある程度距離が近づくと感覚で何となく分かるのである。


「キリヤ!まさかと思うけど房八のこと測ってる?!」

「キリヤさんって言うんすか!俺やるんで見といてくださいね!」

「ちょ、だめだめ!こんな危ないことさせないんだから!」

『────……その話は生き残ってからな。』


 また交信口でやいやい言い合いが始まったので、キリヤは適当に誤魔化して通信を切った。

 房八もまた、ヒナと同じように意思が強く素直な性格で、メンタルもバイタルも強靭なようだ。加えて霊的感覚も鋭い。

 教えれば伸びそうな気もするが、弟子にするにしてもこんな化け物を相手にする自分のような魔法使いでなくてもいいはず。それに、彼が“良い人材であるかどうか”と、“弟子として相応しいかどうか”はイコールではない。運命はまだ彼を選んでいない。今はただ、生きてこの局面を乗り越えてさえくれればいい。


「くそがあ゛〜〜お前なんで左肩をブッ壊してやったのに血が出てねえんだ〜〜??」


「そこらの雑な再生をする三流魔法使いと一緒にするな。俺は医者だ。人体を完全に把握し、適切な処置をするのが俺の仕事。瞬時に止血することも、魔力を譲渡して人体構造を最適化させるのも俺にかかれば一瞬だ」


 左腕は、攻撃を受けると同時に瞬時に傷口を縫合、そして血と骨と筋組織の大部分を糧に抗ウイルス薬注射ロッドを生成したため、肘から下を失ってはいる。

 同時に複数の傷を麻酔なしで縫合する激痛は凄まじいが、それも他のデバイスをつかいバイタルを調整すれば処置に影響が出ないレベルまで抑えられる。


「痛みや傷で怯むほど甘くないぜ俺は」

「くそがあ゛〜クソがクソがクソがああ゛〜〜……」


 魔力で満ち満ちていたはずの肉体は、どんどん冷たさをましていく。ここまで肥大化した本体では、ただ生命維持しているだけでも結構な魔力を消費するのだ。身体中に凄まじい重りを巻きつけたまま歩いているのと同じ。呼吸をするのだけでも苦しくなってくる。


「魔力を用いずただの基礎代謝のみでその巨体を維持するのはキツイだろうな。まあもう少ししたら楽になるさ。腫瘍さえ切除すればお前は灰になる」

「なにぃ゛ぃ゛〜〜???」


 鍵のような形状のロッドを差し込まれた部分から、顔面全体がだんだんと生気を失っていく。死を迎え足を折りたたんでいく虫のように各血管が収縮して自重に負けていくのだろう。感染者にとっては特効薬でも吸血鬼にとっては猛毒だ。ウイルスが機能しなくなれば魔法自体も使えなくなる。


「潮時か」

「ぐおおおぉ……ンガァーーー……!!!」


 (いびき)のような音を立てて吸血鬼がもがく。キリヤはさっと空に浮いて退避した。上手く効いていれば動きは緩慢になっていくはずだ。






(3/15更新分に続く)

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