3-3.敵前逃亡は異世界送り
かなり唐突ながらも、北関東が異世界から侵略されるという事実を突きつけられたボロリナたち下館勢。
しかも、その唐突さは「偏差値は高いが変人値はもっと高い」と評判の館三を以てしても青天の霹靂…というより、その自治組織たる生徒会執行部の承認を得ず校長界隈が侵略勢力の迎撃を勝手に請け負ってしまったようだ。
その自治と学園の平和を守るべく、生徒会執行部ではまず校長たちが勝手に請け負った今回の迎撃ミッションを白紙撤回させようと作戦を重ねていた
ーーーーー生徒会室ーーーーー
ゴガミ(五上響):つーわけで、作戦のまとめをすると…まず発表が終わって質疑応答に入ったら船橋と瀬端に校長サイドを理詰めで攻めてもらう。
エレナ(瀬端英令奈):はい。
アマネ(船橋亘):お安い御用です。
イオノ(伊王野眞):船橋さんはどう見たって一方的に攻めるの得意そうだから適役なのすぐに解るけど、まさか瀬端さんも法律とか好きなクラスタだとは思わなかったな…
トコ(早瀬都子):中学のとき通称「アクベン」だった時期ありましたよー。
ゴガミ:アクベン?なんだそりゃ
オリエ(時野谷織絵):悪徳弁護士、略してアクベンです
ゴガミ:はー?…あぁ?
エレナは父親が司法書士ということもあり、小さな頃から「法律学入門」などの本が近くにあったり、小学校高学年〜中学の頃には判例集の事例からストーリーを妄想するなどかなり斜め上な趣味を得たことから自然と法律に詳しくなったようだ。
イオノ:なんか将来ホントに弁護士とかになりそうだな…
ケバリナ(池羽理那):イジられそうになったときは法律知識フル活用でイジってきたヤツ吊るし返したりしてました
ボロリナ(古谷野莉奈):やってたやってた!そのうち怖がられてやってこなくなったよね
エレナ:なに勝手に人の黒歴史晒してんの?
ゴガミ:やべーな…マジモンの悪徳弁護士じゃねーか…
イオノ:知識を蓄えるのはもちろん善行だけど、知識も善行に対して使わないと積み上げたものを失いかねないぞ…。
ゴガミ:館三が館三たる所以がよく解る…まあ、船橋と瀬端は折り紙付きなんだか札付きなんだか解らんがそこまでやれんなら校長一派もケチョンケチョンにできんだろ。
イオノ:確かに。
そして翌日。昼休みももうすぐ終わる頃に校内放送が流れはじめ、その唐突な内容に生徒たちがざわめき始める。
教頭@校内放送:えー、生徒の皆様、突然ではありますが本日6時間目は授業ではなく、全校生徒体育館に集合してください。繰り返します。本日6時間目は…
ボロリナ:ついに来たね
ケバリナ:敵前逃亡しないでよ
オリエ:しっかし、ホントにみんな知らされてないんだね…。
ーーーーーその日の6時間目 体育館ーーーーー
校長:…と、いうわけで。唐突かとは思いますが結論から申し上げますと、都道府県ランキングで下位続きだった結果、北関東三県は異世界からナメられて侵略されることとなりました。そして館三が侵略者対策のために闘う数校に選抜されました。つまり、皆さんに異世界から来るチート野郎たちを撃退してもらいます。…まあ、これギャグ小説だしみんな多分死なないと思うからへーきへーき。気軽にやっつけてやってください。
オリエ:いや軽すぎでしょ校長
ケバリナ:完全に他人事だな・・・。辞任する直前の政治家みたいな表情してるし。
生徒たちの間に更なる動揺が走る。・・・と、そこにゴガミが挙手をする。
校長:はい、五上君。どうぞ。
ゴガミ:質問ですけど、今回校長先生が持ってきたその案件、生徒会執行部の審議すら通ってません。どういうことですか?
生徒たちが再びどよめく。
ましろ(末柄真白子):そうですよー!校長先生!生徒軽視はうちの伝統への挑発です!
あさひ(野堀朝陽):校長!重大な会則違反です!撤回してください!
ゴガミ:末柄!野堀!ちょっと黙ってろ!…校長先生、質問したいことは二つ、なぜ生徒会執行部の審議を待たずして強行採決に踏み切ったか、そして、この撃退を本校の生徒が成し遂げた暁には相応の見返りがあってしかるべきと思いますが、具体的に生徒への恩恵があるならば教えてください。
校長:正直に申し上げます。今回は本校に拒否権はない案件です。確かに、最低でも執行部正副会長の伊王野さん五上さんのお二人にはお話しするべきだったかもしれません。そこは謝罪します。
ゴガミ:(謝罪って…事後報告じゃ意味ねーだろ…)
校長:で、異世界の連中を見事に撃退した暁の見返りはもちろんあります。
オリエ:お、来たぞ。
ケバリナ:粗品程度までグレードダウンしてなきゃいいな…。
ボロリナ:体張らされた見返りがタオル一枚ボールペン一本じゃ泣くぞ
トコ:こないだ聞いちゃったから新鮮味ないけどー。どーせなら海外旅行ならいいのになー。フランスとかスペイン行ってみたーい。
エレナ:異世界から侵略されてんのに旅行すんの?ダメでしょ…。
ゴガミ:全員静かにしろ!…校長先生、続けてください。
校長:撃退において一定以上の実績を挙げた生徒は希望する大学に無試験で入学できます。帝大クラスであろうがFランクであろうがどこでも、です。
生徒たちがざわつく。そのざわつく生徒たちのなかで一人の女子生徒が挙手する。
校長:そこの銀髪の一年生。
アマネ:一年二組の船橋亘です。ここまでの校長先生のご発言をまとめると「異世界からの侵略騒動で突発的に湧いてきた進学実績の大幅アップのチャンスに生徒たちガン無視で便乗して飛びついてみました。あとは生徒たちが傷つこうが五体不満足になろうが最悪鬼籍に入ろうがそんなの知ったことではありません。」という風に取れるのですが、校長先生の責任の所在ならびに先ほどの進学先の確約といった見返りではなく、一種の労災のようなものはあるのかどうかをお示しいただきたく存じます。船橋からの質問は以上です。
校長:古橋君!質問ありがとう…!
アマネ:船橋です。
校長:…校長先生も断腸の思いでこの話を受けました。上に立つものとして、もちろん何の責任も取らないことはあってはなりません。先生も大学を出て教員生活一筋、ずっとここまでやってきました。…今回、校長先生は責任を取って校長の職を辞します。ただのおじさんになります。
アマネ:質問の返答になっていません。傷病の保証の有無についてお聞きしているのですが。
教頭:船橋さん。校長先生はみんなのためを思って決断したんです。先生は前任の土浦の学校でも校長先生と一緒に仕事していました。校長先生はいつでも生徒のことを考える教育者です。今回も断腸の思いでの英断をなされたと確信しています。
アマネ:…はあ。
校長と教頭の息の合った話回し、いや、まるで予定調和のような展開に憮然とするアマネ。その様子に生徒たちがまたもざわつき始める。…しかし、そこでエレナが笑いを押し殺しつつ手を挙げた。
校長:はい、今挙手した一年生。
エレナ:笑っちゃってすみません。さきほど質問してた船橋さんと同じクラスの瀬端です。校長先生、感動シーンの演出お疲れ様でした。あまりの白々しさに思わず笑っちゃってごめんなさい。
教頭:瀬端君!なんだねその無礼な言いぐさは!
エレナ:校長先生、あなた本当なら前年度つまりこの間の三月いっぱいで退官だったそうですね。それなのになぜか再任用で校長先生を続投している。フツー、再任用だとそういう役職持ちで続投するってことはよっぽどじゃない限りないじゃないですか。今回はまさにその「よっぽど」で、このお芝居、この学校を侵略者討伐勢力にするための既成事実を作るためですよね?違いますか?
校長:うっ…。
不意討ちをうけた校長に追い討ちをかけるかのごとく、生徒会長のイオノが挙手をする。
教頭:え、えっと…伊王野君、どうぞ。
イオノ:伊王野です。館三以外にも県内で侵略者討伐担当校に指定された学校は予算が大幅に増額されているそうですね。…もとい、今年度に予算が増額されている県立高校はすべて討伐担当校です。本当ならかなり前からこの話あったんじゃなかろうかと思われます。それなのにこんな風に年度が明けるまで話を伏せていたのは入学志願者の減少を抑え、より多くの生徒を戦闘に投入しようとする恣意的な意図があったと思われても致し方ないですよね。最初から説明責任を逃れる筋書きでことを進め、更に自分も被害者ぶった振舞いをしてお茶を濁そうとしていたのなら、あなたもこの学校の生徒、つまり善良な市民を欺瞞していたといえますが、その責任はどのようにお考えですか。
校長:あーもう!!!もういい!!!!君たちは!そんなに私の晩節を汚したいのか!!!!!俺は今からただの一般市民だ!ただの笠間市民だ!!!!!!!!帰る!!!!!
校長は教頭に向かい辞表を投げつけ、やけっぱちな歩き方で下手側の出口へと向かう。
ゴガミ:おい待て!逃げんな校長!!!
生徒:ざけんなハゲ大島!
生徒:そうだよふざけんな!
体育館中が校長、いや、既に「元校長」となった大島氏への怒号で埋め尽くされる。
ボロリナ:え?ええ?なにこの展開?ちょっと耳を●ませば的な青春は…
アマネ:恋愛にのめり込みすぎて成績下がりヶ丘じゃ笑えないわよ古谷野スチーマーさん
ボロリナ:やかましいわ
アマネ:で、なんで青春したい子が進学校の女子高に入ってくるのかしら。あなたちょっと無計画過ぎじゃない?
ボロリナ:別にいいでしょそんぐらいー。
ボロリナ、ふくれる。
アマネ:そんなことより古谷野さん、招かれざるお客様が来てるわね。
ボロリナ:…は?
ゴガミ:みんな下がれ!魔物が!
「ハゲ大島」だのと言った怒号や罵詈雑言を浴びながら体育館の出口へ向かう元校長の大島氏。しかし、その行く手に異形のものが立ちふさがる。その姿は縦に伸びたスライムが縦長の裂けたような犬歯ばかりの口を開け、口の中は宇宙のような空間が広がっていた。
元校長:・・・え?
オリエ:えっ…?
ボロリナ:!?
元校長:ちょ…ま、え…?…あ、たす
元校長が何かを言おうとした瞬間、異形のものの口に吸い込まれて消えていった。