勇者伝説
――かつて、『審蛇』様の創られたアルカ・デアの地で大きな争いがあった。
尾を持ち、豊かな毛皮に身を包んだヒトと、尾も毛皮も持たない裸のヒトの争い。
裸の人々――俗に『尾人無』と呼ばれる彼らは、魔法も操れず数も少なかったが悪魔のような旧世界の力を振るい、我ら『獣の民』を苦しめた。
鋼翼の凶獣を繰り空を犯し大地を焼き尽くす雨を降らせ、海を干上がらせる超破壊を齎す。凶悪な古の力を操り数多くの獣の民を虐殺し尽くしたビジンナも、しかし圧倒的な数の差を覆す事は出来ず、やがて戦争は獣の民の勝利によって幕を閉じる。
生き残ったほんの一握りのビジンナは辺境の『遺跡』へと身を隠し、世界は平和を取り戻したかに思えたが――しかし、その平穏も長くは続かなかった。
戦争終結からおよそ一世紀半の時を経て、生き残ったビジンナの子孫たちが突如として獣の民への逆襲を開始したのだ。
突如として現れた鋼の鎧を纏いし五人の戦士たち。彼らは個人で戦争を体現し、たった五人でありながら多くの軍を打ち破り国を滅ぼし、世界を恐怖に陥れた。
まさしく一騎当千。万夫不当にして鎧袖一触の強さを誇る彼らは『魔王』と呼ばれ、獣の民を恐怖と絶望に震え上がらせた。
僅か五人の『魔王』によって獣の民が滅ぼされる。
終わらない『魔王』との戦争に、誰もが最悪の未来を予感した時、一人の英雄が現れた。
地獄の戦争に終止符を打ったのは五人の『魔王』の一人、『恐怖』を司る『魔王』だった。
他の『魔王』を裏切り獣の民を救った裏切りの『魔王』は、いつしか『勇気』の『勇者』と讃えられるようになる。
『勇者』となった彼は世界を救った報酬として、生き残ったビジンナの生存権とビジンナが生きていく為の土地を獣の民の王に求めたと言う。
王は『勇者』の求めを快諾し、『勇者』は獣の民の王妃の求婚を丁重に断って、生き残った僅かなビジンナを引き連れて与えられたビジンナの地へ去っていったという。
以来、ビジンナは獣の民の前に姿を現すことはなくなり、世界は平和を取り戻した。
善きビジンナの手によって悪しきビジンナは討たれ、アルカ・デアの地は救われたのだ。
そうして晩年、『勇者』は永い眠りに就く前に『勇者』と『魔王』それぞれの鎧を破壊するのではなく、『遺跡』の奥深くへ封印したと言われている。
――悪しき『魔王』が復活を遂げ再びアルカ・デアへと滅びを齎さんとした時、想いを受け継ぐ次なる『勇者』は再臨し、再び世界を救うだろう。
そんな予言を最後に残して。