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Act 2 異世界ファンタジー・アーマナイト紀行→ジャンル×変身⁉ scene:6  異世界と魔王と勇者の話

 この辺り一帯はウルゴの森と呼ばれる場所らしい。

 アルカ・デア東の海に浮かぶ島大地トアの西部、『魔王』が言及していたケレストルフの国境外れに位置する美しくも広大な森林で、多種多様な生物や魔物が生息している一般人はまず立ち寄らない秘境だ。

 当然人通りは皆無で、ここから人里へと繋がる通りに出るまでしばらく歩く必要がある。


 そうアクト達に教えてくれたのは、長身痩躯を黒の軍服で包み、背丈に迫る大剣を背負ったクールなお姉さん――ククリカ=フートと名乗る犬耳が眩しい女性だった。


 短く切り揃えられた焦げ茶と黒の入り混じったボブヘアーと切れ長の黒瞳が美しく、他を威圧する美人特有の近寄りがたいオーラめいたものを振りまくシェパードを彷彿とさせるスレンダーな女の人(?)で、この世界に迷い込んだマナトが森の中で偶然出会った協力者。

 件の『魔王』に関連する事件を追っている軍の関係者なのだとか。


 先程『魔王』を撤退させた大軍の足音は、彼女の振動魔法による欺瞞だったらしい。


(魔法……魔法かぁ。竜といい犬耳といい、本当にファンタジー世界そのもの――)


「――ハルト(・・・)?」

「……ん、ああ、すまない。ブレイヴに変身してドラゴンを倒した後の話、だったな?」


 思考が明後日の方向へ飛びかけていたアクトは、『ハルト』と呼ばれて我に返る。


 ――ユウキ=ハルト。


 そう、アクトは今、上代亜空斗演じるブレイヴの主人公、結城晴斗を名乗っていた。

 前回アクトが殺された世界――仮に一周目と呼ぶとしよう。その一周目の世界で目を覚ましたシュナには意識や記憶に混乱のようなものが見受けられた。 

 二周目の今回は義兄であるマナトと早々に合流出来た事もあってか、一周目のような混乱は見られていないが、現状が彼女の心に大きな負担である事に変わりはない。

 そこでアクトは、目を覚ましたシュナに対してユウキ=ハルトを名乗る事にしたのだ。


 ――義理の兄であるイナミ=マナトと、ひょんな事から物語の世界から飛び出してしまったアーマナイトの主人公、ユウキ=ハルト。

 謎の世界へ迷い込んでしまった三人。マナトとハルトはシュナを救うべくアーマナイトへ変身し、元の世界へ戻る為に奮闘する。

 先の見えない不安に偽りの筋書きを与え、心の安定を図る苦肉の策。話の整合性も理屈もめちゃくちゃだが……それでも、大好きなアーマナイトの存在はシュナの支えになるはず。


 とはいえ、何分その場の思い付きによるぶつけ本場。脇が甘い自覚もあった。

 幸いにも、現時点ではシュナはアクトを本物のユウキ=ハルトだと信じてくれているようだが、打ち合わせもなしに咄嗟にアクトの意を汲み取り話を合わせてくれたマナトの好演技がなければ、目も当てられない悲惨な状況になっていた事だろう。


 結果的にとはいえ騙す事になってしまったククリカには申し訳ないが、アクトの嘘でシュナが心の安寧を保てるのなら、それに越したことはない。


 そんな訳で、アクト達は簡単な自己紹介を済ませた後、森を歩きながら互いに情報交換を行う運びとなっていた。

 今はアクトが事情を説明するターンである。


「……なるほどね、そんな事態に巻き込まれていたんだね」


 アクトが最後まで一息に話し終えると、マナトは顎に手を当て思案しながら視線を落とし唸るように頷いた。

 それから一拍の間を置いて顔を上げ、柔らかな微笑を広げる。


「ともあれ、二人が無事で本当に良かったよ。いや、それよりお礼を言わなくちゃだね。ハルト、シュナを守ってくれてありがとう。君が一緒じゃなかったらと思うとゾッとする」

「何を言っている。俺が友人の妹を――シュナを守るのは当然のことだろう。一々感謝される事でもない。それよりも……なあ、マナト。これは一体、どういう事なんだ?」


 言って、二人の視線が向かう先は、アクトの背後。

 その背中にぴたりとくっついて離れようとしない女の子――青みがかった蒼銀白の髪をウサ耳フードで、宝玉の如き蒼眼を伸ばした前髪で隠すマナトの義理の妹、件のシラト=シュナだった。


 シュナは話題の矛先が自分に向いた事に気付くと、しゅばばっと機敏な動きでより深くアクトの背中に隠れてしまう。まるでマナトの視線から逃れるような動作だった。

 次いで、強い意志を秘めた鈴の音のような声が響く。


「……な、なにわよ。わ、私みたいな可愛い子が壁に使ってあげてるのよ? えいこう? に思いこそすれ、何か文句でもあるって言うなら言ってみなさい」

「なにわよ」


 若干日本語がおかしかった。

 多分、『光栄』と言いたかったのだろうが……。


 手癖なのか、シュナはこうしている今もフードのウサ耳を右手で握り梳くように撫でつけて弄び、頑なにマナトと目を合わせようとしない。

 不機嫌げに頬を膨らませて、時折前髪の隙間からアクトを睨みつけてくる。そんな彼女にふむ、とアクトは少し思案して、


「何故壁が必要なんだ? 大好きな兄様なんだろ」

「に、兄様の視線は尊すぎて直視に絶えないの。あ、あなたみたいなノーコン主人公――」

「適合手術受けてないのに変身できる理由を皆が知ってそうだな」

「じゃ、じゃなくてノーカンしゅ――ノーカン……?」


 そうだね、気付けて偉い。だから今のはノーカンって事にしてコンティニューしような。


「……あー、ノー筋?」

「そうそれよ! あなたみたいなノー筋主人公より全然カッコイイのだわ、兄様と兄様のレムナントホープは!」


 居丈高に胸を張り、大好きなお兄様を自慢するシュナ。

 妙に馴れ馴れしいし何やら尊大なご様子ではあったが、相変わらず日本語が若干残念なのが可愛らしくて憎めなくはある。あるのだが……。


「……なあ、おいマナト。この子、未だに人が怖くて学校いけてないんだよな?」

「そうだね。初対面の人が相手だと、まず目も合わせられないからね」

「……まあ、確かに目を合わせようとしないな。壁に隠れているし」


 壁ではなくアクトだけど。

 初対面どうこうというより、兄様とだけど。


「ひ、人なんて怖くないわよ。あ、あんな人生夏休み気分の有象無象と過ごすより、兄様と密室で二十四時間耐久密着勉強会をするはちみつの日々の方が有意義なのよ!」

「通年夏休みのヤツが凄い言い草」


 アクトの背中に隠れながら言ってる時点で何の説得力もなかった。


「蜜月をはちみつか……日本語が若干残念なのはデフォなの?」

「うーん、単に緊張してるんじゃないかな? ボクが家で勉強を見てるのだし、少なくとも君より頭の出来はイイと思うけど」

「あー、なるほど完全に理解したわ。俺に対するこの失礼さはお前譲りだな?」


 的確なツッコミをしつつ、アクトはマナトの脇腹を肘で小突き、シュナに聞こえないような小声で耳打ちする。


「(……なあ、おい。これは一体、どうなっているんだ)」

「ん? 何がだい?」

「(……すっとぼけるな。俺とはほぼ初対面のはずだろう? なのに何故こんなにもガツガツ来るんだこの子。人が怖いとか言う割には俺に対して全く物怖じしてる様子がないぞ)」

「うーん、ハルトの事は日頃からテレビで見てるからじゃないかな? ブレイブが調子に乗ってドジ踏んだり、無鉄砲に気合いだけで突っ込んでいってやられる度に、他の先輩ナイトを引き合いに出してテレビに向かって説教していたし……」

「子供のアーマナイトの見方と違くない?」

「子供は時々、ボクらじゃ見逃してしまうような本質を突くからね。根本的に親しみやすい君のポンコツ具合を見抜いているんだろう」

「この世の真理を語るとみせかけてただ俺を罵倒するのは辞めろ」


 こんな状況でも何ら変わらないいつものやり取りにアクトはため息を吐く。


「……まあいい。それよりも、壁って何だ壁って。お前ら義理とはいえ兄妹だろう? 何故こんな事になっている。これではコミュニケーションも碌に取れないだろうが」


 そんなアクトの心配をよそに、マナトは慣れた様子で苦笑して肩を竦めるだけだった。


「たまにあるんだよ。目を合わせてくれない、話しかけても答えてくれない時期が」


 大好きな兄の視線を避け、碌に会話も出来ないこの状態が普通だとは思えないのだが……家族として共に暮らしているマナトがそう言うのであればそうなのだろう……か?


「……けど、そうだね。今のシュナが不安定なのは確かみたいだし、ボクにはこの有様だ。すまないけど、しばらくの間、ボクの代わりにシュナの面倒を見て貰っても構わないかな?」


 この世界に飛ばされる直前、道端で出会った際の彼女の様子は、もうマナトに伝えてある。

 落ち着いた今、改めて当時の事を確認してみたが、シュナは何も覚えていないと言う。


 シュナは六年前の事故で記憶を失っている。

 その彼女の記憶に再び混乱が見られるという状況は、決して楽観視していいものではないはずだが……。


「……あ、ああ。それは別に構わないが……」


 それなのに、マナトはそれだけ言うとあっさりとシュナに関する話を切り上げてしまう。


「じゃあ、次はボクらが話す番だね」


 言って、マナトは懐から一本のベルトと鍵を取り出す。


「マナト、そのベルトはやはり……」


 幼馴染の手の中で輝きを放つ神々しく神秘的な宝の匣、もしくは壺を模したそのアイテムは、マナトが作中でレムナント・ホープに変身する為に用いるアーマベルト。

 そして、ベルトと統一デザインの大きな鍵は秘めた感情の力を解放するアンロックキーだった。


「この森で目が覚めた時、ボクもこれを身に付けていたんだ。装着した覚えのないこのベルトとアンロックキーをね。……これでボクも君と同じ本物のアーマナイトって訳だ」


 どこか嬉しそうにそう言ってから、マナトは流すような視線を隣に向ける。


「それで、ボクがベルトの確認作業を行っていた所――つまりはアーマナイトに変身した瞬間をククリカさんに目撃されて……最終的に、彼女と共闘関係を結ぶ事になった」


 魔王討伐の任に着くククリカにとって、レムナント・ホープに変身するマナトの協力は是が非にでも欲しいものだった。

 同時に、この世界の事を何も知らないマナトにとっても、何故かアーマナイトを知っている現地住民の協力は喉から手が出る程に欲しい。


 そうして互いの事情を説明しあったマナトとククリカは、付近にいると思われる『魔王』と戦闘状態にあるアーマナイト、つまりはもう一人の『勇者』と思しき人物に接触し戦力を確保する事を第一の目的として早速行動を開始して――


「――後はハルトも知っての通り。『魔王』とブレイヴの戦闘にボクが介入し、彼女の機転で魔王を撤退させ、こうして無事合流出来たって訳さ」

「そういう訳だ。ユウキ=ハルト、私も全てを理解しているという訳ではないが……」


 と、話題に出た件の女軍人――ククリカが真剣な眼差しでマナトから言葉を継ぐ。


「貴方達の予想通り、このアルカ・デアは貴方達の居た世界とは異なる世界――つまり、貴方達にとって異世界に該当する場所だと考えるべきだろう」


 彼女は鋭く細めた黒瞳で射抜くようにアクトを捉え、ここが異世界である事を断言する。


「そして、貴方達が異世界からこの地に召喚された理由についてだが……『魔王』に対抗する『勇者』として召喚された可能性が最も高い。というか、現状ではそれしか考えられん」


 『魔王』と『勇者』。

 この世界へ来て何度か耳にした単語に、アクトは露骨に眉を顰める。


「魔王を名乗るあの男もそんな事を言っていたが……結局、どういう意味なんだ? 俺やマナトが勇者だなどと言われても、全くピンと来ないんだが……」


 アクトの問いかけに、ククリカは片目を瞑り一つ息を吸って、


「貴方達二人が装着している『アーマベルト』は、このアルカ・デアの地においては極めて重要で莫大な価値を誇る最上位のオーパーツなんだ」 

「オーパーツ? ……まさか、このベルトが、伝説の宝物だとでも?」


 まさかと口にしたアクトの言葉を、しかしククリカは一切の遊びがない表情で肯定した。


「――『勇者伝説』。かつて世界を滅ぼさんとした『魔王』とその野望を打ち砕いた『勇者』の史実を元にした物語、語り継がれる伝説の救世譚。貴方達がアーマナイトと呼ぶ鎧の戦士たちは、この世界の太古の神話に登場する『魔王』であり『勇者』そのものなんだ」

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