推しの夢をもっと見たい。
今朝、夢に推しが出てきた。
凛とした姿、華麗なる棍捌き。強敵を前にしても怯まない果敢さ。
作品本編に勝るとも劣らない活躍を、惜しげも無く披露してくれた推し⋯⋯。
そんな夢は、無情にもアラームの音で消えてしまう。自分の目覚めによって、推しが消えてしまう。
いい夢だったと思いつつ、悲しみを抱えて一日が始まってしまう⋯⋯。
「夢の続きを見る方法って、ないかな」
「今度はどうしたの?」
大学での昼休み。
食堂で、英斗とセットでお弁当を食べる陸別を見付け、目の前に陣取って打ち明けた。
隣で英斗。
「え、なになに、なんの話?」
「えっと⋯⋯」
陸別が言いにくそうにしている。カウンセラーはクライアントの情報に対して守秘義務があると聞いたことがあった。
夢見の相談をしていただけの自分がクライアント足るのか微妙なところだが、おそらく陸別はその配慮があって、口ごもっているのだろう。
だけどそれだと相談が進まないので、もう自分から教えることにする。
「⋯⋯え、夢に推し出るの? めっちゃいいじゃん」
英斗は馬鹿にしたりはしなかった。それどころか羨ましがってくれるし、陸別にやり方を聞いて「はいはい後でね」といなされている。
「で、続きが見たいと⋯⋯」
「そうそう、推しの活躍を最後まで見届けたい⋯⋯!」
夢が脳の記憶整理だとしても、どうにかコントロールできないだろうか。
「夢は専門外なんだけど⋯⋯」
陸別は小首を傾げる。両手に持つおにぎりのおかげもあって、リスでも見ている気分だ。
今気付いたのだが、陸別と英斗は、お弁当がお揃いである。ラップにくるんだおにぎり二個と、小さめのタッパーにおかずが詰まっている。
⋯⋯一緒のお弁当って、どういうことなんだろう? 以前、陸別ひとりのときに、こんなお弁当を食べていたので、もしかして陸別が英斗の分も作っているのだろうか。
そう考えると、なんだろう、この平和なコンビは⋯⋯。
「効果があるかはわからないけど、夢日記をつけると、夢をコントロールできるかもよ」
「夢日記?」
陸別によると、見た夢を詳細に記録することによって、次第に鮮明な夢を見たり、夢の続きを見られるようになる可能性があるという。
善は急げというので、帰りに早速ノートを買って、いつものルーティンをこなして眠りに就いた。
ただひとつ違ったのは、陸別と英斗のお弁当を思い出したことだった。
寝る前に友人を思い出したのがいけなかったのか、推しの夢は見られなかった。
「⋯⋯なんで陸別と英斗が出てきちゃうかなあ」
ぼやき、机の上に置いたノートを開き、ふたりがおにぎりをもぐもぐしている夢だった、と書き付けて閉じた。
2021/02/26
キリのいい夢なんて存在するのでしょうか?