第1話 孤独な研究者
初めまして、佐藤 綾音です。
今回は、長期連載を頑張っていきたいと思います。この作品は、6年前に考えていたものですが、完成させることを諦めていました。ですが、せっかく作ったのに、埋もれていては可哀想だと思ったので投稿することになりました。
良い作品を作るために、暖かいコメントで、矛盾している点や誤字脱字等を指摘していただければ嬉しいです。
「こんな無謀な研究を続けられるわけないだろうが」
桐林琉威は、テーブルを叩いて理不尽な問題に対して嘆いていた。
そこは、未来的なデザインの部屋だった。白を基調としている壁やデスクがあり、巨大なコンピュータのブルーライトが周囲を照らしている。まるで、SF映画の宇宙船の中にいるような構造だった。
その研究室の中央に、眉間にシワを寄せて書面を見ている。彼の胸横には、金色に輝くネームにはプロジェクトリーダーと書かれていた。
「だいたい、『赤い霧』なんて本当にあるのか疑わしいものだ。こんな研究に、貴重な時間と金をかけるなど正気ではない」
周囲の研究員は、すでに帰っている。夜遅くまで、残業している琉威が独白している。
もし、他の研究員が彼を目撃したら自身の目を疑ったに違いない。これでも、彼は大声で叫んだり、机を叩いたりするなどの醜態を人前に晒したことがない。
誰もいないときだからこそ、日頃から考えていた意見を吐き出していた。
「そろそろ、上層部に具申するべきだろう。俺が貴様らの妄執に付き合う必要はないとな」
テーブルに置かれていた論文を振り払った。
まとめていた留め具が外れて、紙たちが宙を舞い落ちていく。
琉威は、自身のストレスを声に、態度に、行動に表現した。きっと、上層部の連中の前でこんな台詞を吐けたら、さぞ気分がいいだろう。
散乱した貴重な論文を見下していた。琉威を苛立たせるのは、研究のテーマだけではない。
この論文の内容にも、作成したリーダーにも怒りを向けていた。
論文を踏みつけるほどの、行動には移さなかった。彼は、感情的な行動をしているが頭の中は論理的な思考に支配されている。この貴重な論文は、上層部に返さなければならない。
上層部の一人である自身の父の顔がチラついている。
「ッチ。俺よりも先に帰る部下も、理解できない論文も、ふざけた研究テーマを突きつける上司も。馬鹿ばっかりだな」
自分で散らかした論文を拾い上げていく。『赤い霧』を最初に研究したものが書いた論文だった。その論文を一言で表すなら、『空想』である。
一時期、話題になっていた。
世界三大の謎の一つである『赤い霧』を研究して、論文を書き上げた研究者がいるという。その研究者の名前は、桐林 麗華。
琉威の母親である。
『赤い霧』の存在を初めて確認できたのは、動物園での猟奇的殺人事件である。
動物園の内で、男女のカップルが身体の半分以上が切断された。その切り口は、噛み傷であり。獰猛な肉食獣に食べられたような噛み跡だった。
その事件での真相は、肉食動物による事故死だった。しかし、実際に動物園から脱走していたのはシマウマであり、草食動物であることが判明。
シマウマが、異形の怪物となり人々を喰らい始めたという目撃情報もあった。
さらに、シマウマはハンターにより射殺されて、頭が割れて裏返しとなり、鋭い牙が何本も羅列していたらしく、我々が認識する姿ではなくなっていた。その歯並びは、肉食動物特有のものとなっている死体を発見したという。
胴体が白黒の縞模様になっており、獣医は間違いなくそれはシマウマであるということだった。
目撃者の証言では『赤い霧がシマウマを変えちまった』という話もある。
そこから、世界中で『赤い霧』の目撃が相次いで報告された。恐ろしいことに、その報告には必ず人が惨殺されており、異形な怪物が殺されている。
それは、ハトであり、猫であり、犬であり、ネズミであった。つまり、この情報から推測されるのは『赤い霧』が動物たちの姿形を変えてしまい、
事件を引き起こしているという。
「こんな馬鹿げた話は、どうせ誰かの作り話に決まっているが、なぜ、こんなにも写真や動画があるのか」
ネット上に、拡散されている動画や写真が、人々を恐怖に陥れるのに十分だった。
さらに、マスコミではどの写真や動画も本物であるという大騒ぎをしている。
ーーー『赤い霧』が動物を化物に変える。それだけだったら、俺がこんな研究をしなくてもよかったのだが
床から拾い上げていく書類たちに目を向ける、自分が研究しようとしているものについて再び思考する。
ここは、多国籍企業ミスチヴァス製薬会社の所有している研究所の一つである。その企業は、国家と同等の力を持つと言われるほど影響力があると有名であった。
その企業の研究所は、ワクチン開発や薬の製造をしている。厄介なことに『赤い霧』が世界中に振りまいたのは、怪物だけではない。
『赤い霧』に触れた人が、正体不明の病に犯されてしまったのだ。幸い、感染性ではなかったが、確実に死亡してしまう死の病だった。
死の病ーー退化病と、言われた。
その名の通り、身体全体が退化していく病だ。
『赤い霧』により、世界に放たれたこの厄介な病は、治療法が確立されていない。そのため、製薬会社もなんとか、この病を止めるための治療法を確立しなければならなかった。
そのため、再び母と同じ研究することになった。
母は、天才科学者だった。しかし、この研究論文により、夢想家という烙印を押されてしまうほど荒唐無稽なことが書かれている。あまりにも、非科学的な論文であり、支離滅裂な文章だった。
もはや、これは論文ではなく。聖書のようなものだった。
ただし、彼女の論文が破棄されずにいたのは。彼女が、世界で初めて人為的に『赤い霧』を発生させたからに他ならない。
決定的な証拠として、彼女は退化病を患い死亡したからだ。
この論文の研究方法。
天空より見下ろせし、快楽の園の表現者より異界の扉を開く導きとならん。
などと短く書かれていた。
考察には、快楽の園について3つの世界が存在することが書かれている。どれも、科学的に意味不明であるが。有名な絵画のことであると指し示していることは理解できた。
ヒエロニムス・ボスの作品である。『快楽の園』。
世界的に有名な画家の作品と『赤い霧』に、何の関係があるのか不明。
「何を考えているのかわからない」
自分の母について、脳裏に描く。
不思議だが、母のことは覚えていない。ただ、不思議な魅力を持つ女性だったことは、霞がかかる思い出があるのみ。
今では、頭がおかしい研究者だと罵声されていた。
他人から言われるのは、琉威自身でも怒りを感じるが。この論文を見て、罵声も理解できる。
このような論文を遺して逝くのはあまりに無責任だと思ってしまう。
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