ラピスラズリの夏の夜
『レインボーボンズ』シリーズ第一作目『将軍王のココロザシ』の外伝作品第二弾です。
本編『将軍王のココロザシ』の影のある主要キャラ、『戦の申し子ベム』に焦点を当てた外伝です。
『戦の申し子』ベムがラピス山脈で女性騎士から訓練を受けて一年近く経過していた。ベムはいつも通り手合いの訓練で女性騎士にまだまだ勝てないばかりでなく、気を失っては山荘に運ばれて…の日々を送っていた。今のミドルガルドは夏の為、雪の多いラピス山脈には雪は降っておらず、雪は山頂に僅か程度しか残っていない。そんなある夜の事だった。
女性騎士は一人夏の夜空を眺めていた。夏の夜空はラピスラズリの如く星々が輝きを放っていた。
(今宵の夜空も美しい限りだな…。戦の申し子よ…、お前はこの夏の夜空の美しさを感じた事があるか…?いや、彼奴の事だ…。古巣でもここでも戦い三昧の日々を送ってきたのだ…。せめて彼奴にこの美しい夜空を見せてやりたいものだな…。)
女性騎士はベムに想いを馳せながら夏の夜空を一晩中眺め続けた。
一夜明け、女性騎士はいつも通りベムを山荘から連れ出した。
「今日は手合いの訓練はなしだ!しっかり身体をほぐしておけ!但し、今日の日暮れまでにあの山頂に来い!お前に見せたい物がある!」
女性騎士はベムに今日の手合いの訓練はない代わりにやや遠くの山頂を指さして日暮れまでに来るよう言い放った。
「…ああ…。」
ベムは度重なる手合いの訓練で疼く身体をおして山頂目指して駆けていった。
「はぁっ…、はぁっ…、はぁっ…。」
ベムが息切らしながら何とか山頂に辿り着いた頃には夕陽が地平線に沈み切っていた。そしてベムはしゃがみ込んで一息ついた。
「ご苦労だな、戦の申し子よ。」
女性騎士はしゃがみ込んだベムを立たせた。
「…なあ…、あんたが俺に見せたい物って何だ?…どっかの宝物か?」
ベムは今朝自分に見せたい物が何なのか女性騎士に尋ねた。
「この空だ。」
女性騎士は夜空を指さして答えた。
「この空!?あんたが見せたい物が!?冗談だろ!?」
ベムは自分に見せたい物が夜空と聞いて訳が分からなく感じた。
「ああ、とにかく寝そべってしっかり見ておけ!(ふっ…、やはり戦に明け暮れてきただけあって夜空の美しさすら知らぬか…。)」
「…ああ…。(何故たかが空ぐらいで…)」
女性騎士に促されたベムは半信半疑で寝そべって夜空を眺めた。彼に続いて彼女も一緒に寝そべって夜空を眺めた。
「ベムよ…。お前はこの夜空が美しいと思わぬか?」
女性騎士はベムに夜空が美しく感じるかどうか尋ねた。
「いや…、俺には何も感じないな…。」
ベムは夜空に対して何も感じないと答えた。
「何も感じぬか…。私も初めは何も感じなかった。」
「!…」
「私も故郷にいた頃はかような美しい夜空に出逢う事等夢にも思わなかった。故郷を離れて出逢ったさる英雄に夜空の美しさを教えて貰って、自分があの時までいかに戦に明け暮れてきたのか知ったのだ…。今のお前のようにな…。」
「!!…確かに俺も戦いの毎日だった…。親父が殺されたあの日から…。」
ベムは自分の人生を振り返ってみて戦三昧だったと感じた。
「お前は今まで戦いだけしか教えて貰って来なかった筈だ。ならば、私はお前に戦い以外の事も教えてやりたいのだ。戦いだけでは魂を育めないからな。」
女性騎士はベムに魂を育むのは戦いだけではない事を伝えた。
「ああ…、あんたの意図を知ったら…、この夜空も綺麗に感じたよ…。故郷の妹にも見せてやりたいくらいにな…。」
女性騎士の意図を理解したベムは夜空に美しさを感じるようになった。そして、妹にも見せてあげたいと思うようになった。
「『妹にも見せてやりたい』か…。ここまで感じるなら上出来だな。」
女性騎士はベムの魂の成長を実感した。
「…ありがとよ。俺に初めて綺麗な物見せてくれて。」
ベムは美しい夜空を見せてくれた女性騎士に感謝した。
「礼には及ばぬ。さて、今日はここで一夜明かそう。陽が昇ったら山荘に戻るぞ。」
二人は起ち上がり、野営の準備を始めた。
「しかし…、ここで休むと獣共に襲われるんじゃ…。」
ベムは野営に不安だった。
「大丈夫だ。お前が寝てる間、私が護ってやる。安心して休め。」
女性騎士はベムに自分が護るから安心して休むよう伝えた。
「だがあんたはいいのか?一睡もしないでよ。」
「私を誰だと思っている!?この『戦女帝』の事を見くびらずに今はその好意に甘えておけ。」
「ああ…。」
二人は野営で一夜を明かし、山荘に戻っていった。
その後、ベムは戦女帝との手合いの訓練で一度も気絶する事なく押され気味ながらも最後まで持ちこたえられるようになった。
魂の成長は戦いだけではないという事を知ったベム。果たして彼は今後どのように成長していくのでしょうか。
本編である『将軍王のココロザシ』もご愛顧頂けたら嬉しい限りです。