放課後のドラゴン
足を引きずるように歩を進める。
「……ここまで来れば、みんなに迷惑かけないかな?」
霧の中をさまよいながら僕はいった。
叩き続けた拳が痛い。閉ざされた扉は二度と開くことはなかった。せめてこの幼い女の子だけでもと思ったが、首を必死に横に振り、懇願する様にため息しか出ない。こんなことならば助けなければよかったと、嫌な考えがよぎった。
両ひざを地面につき、ただ執拗に魔物の攻めを耐え忍ぶ。
「……ドMか、確かに……痛いのは慣れてる」
「いぃぃぃ……だぅぅぅぅ…………」
「……助けられない……のか?。この刀であいつらを微塵切りにするんじゃなかったのか?。英雄になるんじゃなかったのか?」
「はぅぅ……」
「ムリ………………か?」
「ううぅぅ……」
「チッ……」
「あぃ……」
「クショ……」
「ぃ……」
「チクショォ……」
僕は力なくうめく。もう成すすべもない、永劫ともいえる苦痛をただ終わるその時まで待つしかない。この子だけは絶対に守りとおしてみせる。
──グォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛──
突然、空から大地を震わすほどの強烈な雄叫びが轟き、巨大な火炎が魔物灰妖犬にふりそそいだ。
火に飲みこまれた魔物灰妖犬は声をあげる暇を与えずに消し炭になった。
「す、す、す、すごごっ!?」
驚きを隠せず僕はいった。呆気にとられたまま敵はきれいさっぱり消え去った。手品をみているのか、幼い女の子の頬を軽くつねってみたところ、めちゃくちゃ泣き出した。
濃霧はあとかたもなく散って、夕闇間近の空が顔を出す。
僕は切っ先を大地に突き刺して踏ん張りながら立つ。
ただ一点を凝視して──。
「ああ、かい……竜?」
嘆息がもれる。刀を支えにしなければ腰を抜かしそうだ。
竜の両翼は、校庭をすっぽりと覆うほどだった。口のまわりにはいまだ炎が燻ぶり、切れ長の双眸がこちらをとらえてはなさない。
魔物を葬った炎の熱気は軽く二三度羽ばたくとすぐさま消えた。軽い砂塵が舞うなか、夕陽よりも赤い竜は大地に降りた。
一番星よりもきらめく眼光が僕を突き刺す。あまりの迫力に失禁寸前、膀胱が赤信号を灯す。表情は読み取れず、どうすれば良いかのわからないまま、幼い女の子の泣き声だけが校庭に響いた。
冷や汗が止まらず、張りついた下着がやけに気持ち悪い。




