美しさは罪
灰妖犬の猛攻をたくみかわし、魔刀"八咫烏"が華麗に敵を切り裂く。
幼い女の子の熱い眼差しを一身に、縦横無尽に僕は余裕の笑みをみせる。
外の様子を伺う、避難した生徒たちも、その雄姿を一目みて色めきだつ。女生徒の上気した表情に軽いウィンクで僕は返す。
そんな風に考えていた時期も僕にはありました。
しかし、現実は非情、小生こと青海蓮太郎は無力です。
慣れない武器を振りまわし、敵を威嚇するどころか、挑発しているだけ。接近して斬りかかろうにも、幼い女の子が体にがっちり抱きついて身動きがとれない。
夢なら覚めて欲しい、ここはいつもの現実だと痛感させられる。
「イタタッ、ま、また頭を噛みつかれた!!」
僕は何度目かの噛みつきで悲痛な声をあげた。
「せ、背中に爪が食い込むぅぅぅ!?」
反撃の意思すら挫けた。魔物がいっせいに襲いかかってくるので袋叩きの状態だ。
「くぅぅ……いぁぁぁ……」
「も、もう離れて……わ、そ、そうだよなぁ……魔物がこんなにたくさんいればそうなるよね。離れ離れは寂しいよね。うんうん、わかる、わかるよ………………けど……これじゃあなにもできないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
僕は叫ぶ。痛みに耐えながら、女の子をかばいながら、何度も叫ぶ。このままだと走馬灯が見えてきそうだ。
圧倒的数で優位なの波状攻撃。引っ掻きと噛みつきが永遠に続くのかと思えてくる。着ている衣服は裂け、剥き出しの肌に切り傷が刻まれていく。
「……どうして…………おかしい……まだ生きてる?。魔物の攻撃ってこんなものなのか?。痛いことは痛いが、我慢できる。……呉妻聖菜の腹パンチの方がよっぽど痛い」
訝しい面持ちでつぶやく。本来なら一撃で致命傷になるほど凄まじい。
試しにおそるおそる前進してみた。 灰妖犬は咄嗟に距離をとる。これには僕も驚く。
「……いける!?。相手がタフすぎて怯んでいる?。そうでしょう、そうでしょう、まるで不死者と戦っているような気分だろうな。クククッ……なら、これはどうだ!!」
刀を振りまわしながら一直線に走り出す。といっても余計な重りを担いでいるため、速さは残念レベル。
敵は狂人を相手に怯み攻撃を手を緩めた。
「このまま体育館に行くぞ!!」
「……ぬぅぅぅ」
幼い女の子は気のない返事をした。泣き止んでくれたが、マイペースで調子が狂う。無表情で万力のようにお腹を絞めつけてくるのでかなり息苦しい。
「あ、開けてくれー!?」
これ以上のない大声でいった。
「……青海君?」
「その声は山田さん!!」
「心配だったから……こっち、こっちだよ!!」
声を頼りに霧の中をかきわけていく。さすがは小学生からの付き合い、僕のことを想って待っていてくれたに違いない。あなた様は御釈迦様のような慈愛にあふれた方です。
「……や、やま……はぁはぁ……さん…………お、おまた……せ……」
「こ、ここだ……か……………ら?」
「は、はやく……あけ……」
「……キ」
扉の隙間からおそるおそる顔を覗かせる。表情がサッと強張り顔面蒼白になった。
「キョエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」
人間の域を越えた高周波を発した。親の仇といわんばかりに扉を閉めた。
「あ……開けてよ、ヤマダサン?」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ムリー!!」
山田日向は錯乱した。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いのよぉ!!」
「え、なにが?」
「あんたの顔、見た目、それに裸じゃない!?」
「…………え……あぁぁ、まあ、それなりに……ありまして」
「裸族、変態裸族なの!?。前から思ってたけど、虐められてもニヤニヤしていたのはドMだったから。痛い痛いが気持ちいい、最低最悪露出狂の変態サイコパスなのね!!」
「話しを……山田様?」
「オマケに小さい女の子まで手を出してどこまで卑劣な異常者なの!!。その子だけなら入れてあげるからさっさと死になさい。いいえ、死んで、死んでよ!!」
「ぬぅぅぅ……やぁぁぁ…………」
「……そのう、しがみつかれて……た、頼む、ここを、ここを開けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
山田日向は叫ぶ。扉一枚隔てて僕も叫ぶ。つられて幼い女の子も泣きわめく、地獄絵図の様相を呈した。
僕は得心した。傷だらけの裸体、血まみれの顔はうら若き乙女には刺激が強すぎたようだ。誰が好きこのんでこんな野性味あふれる姿になったわけでない。逃走の途中で制服は脱げ落ちてしまい、下着もパンツ一丁、奮闘している。
焦心は最高潮に達する。お釈迦様は落胆して蜘蛛の糸を断ってしまった。
露出狂の変質者はなおも扉を叩き続けた。




