反撃する意思
「まさか……君とは想定外だよ」
どこからか、あの凛とした少女の声が聞こえる。
「ボクもうっかりしていてね。君たちに大切なこと伝えた後、ほとんど力を失って……そのう、なんだ、逃げ遅れてしまったよ」
自嘲気味にいった。
「急いで飛び降りたのが失敗だったかな?。三階から、こう、窓枠に足をかけたところまでは良かったのだけど、着地に失敗してね。この小さな体じゃ無理があったようだ。おでこをぶつけてしまって…………痛くて泣いていたんだ……とはいえ、おっと、あまり時間はないな……ついうっかりしていた。ただ、君に感謝の意を伝えたくてね。イレギュラーとはいえ、結果的にこういう形に落ち着いたのはボクにとって幸運だったよ」
自分語りの少女はさらに言葉を重ねる。
「ボクは君を選ぶことに………………ごめんなさい、身勝手で独善的な考えだけどどうしても君の力が必要なんだ。出来うる限り、君の願いを叶えるよう努力するよ。そうだな……今はこれを進呈させていただこう。"八咫烏"という魔刀さ。これなら魔物"灰妖犬"ならじゅうぶん対処できるよ。といってとても厄介な魔犬でね、目に見えている頭の他にもう二つ頭があるのさ。少なくとも三回は首を切り落とさないと倒せないよ。地道に生首を狩っていくか、それとも懐の心臓を貫くか、あの体毛が邪魔だけど、この刀なら問題ないよ」
話の半分も理解できない。僕が助けたはずの少女が、逆に助けてくれるといっているよう聞こえる。
「大丈夫、ボクも加勢するから死ぬことはないさ。君が心配しないよう、あいつらに殺された人間もすべて生き返らせた。君の友達……いや…………知り合い程度の間柄かな?。他の子たちもあの場所に逃げ切ったようだし、神の洗礼を受けていることだろう」
少女はすこしだけ沈黙した。
僕はなにか言い返そうとするが、なにも口から出ない。ただ少女の言葉に耳をかたむけることしかできなかった。
「……さあ、行こう………………神の栄光は……いや、ボクたちの明日のために!!」
少女は心強い言葉は言い放った。
ゆっくりと僕は目を覚ます。
「……生きてる?。夢の中の声は本当だったのか……」
にわかには信じられないが少女のいう通りになった。あの瞬間、魔物に殺されたかと観念していたが、懐にかかえた温もりにあの世にいっていないことを実感した。すぐさま周囲を警戒して魔物の動向を伺う。
僕たちに襲いかかった魔物"灰妖犬"はすでに囲むように集まっていた。視界に入っているだけで二十頭はいる。まじまじと観察していなかったが、相対すると自分の背丈よりもずっと大きい。犬というよりも狼の方がしっくりくる。
「……万事休すってやつじゃないか?。いや……あの言葉信じるなら!!」
「うぅぅぅ………」
「……君があの少女だよね?。信じられないけど……舌足らずのような…………ごめんね、すこしのあいだ立っていてくれるかな?」
「だぁ……あぃぃ……」
幼い女の子を丁寧におろした。すこし寂しい顔をされたが、両手を塞がれてはなにもできない。
「借りるよ、これを……いいかな?」
「あぁ……うぅぅぅ…………」
「ありがとう……」
僕はお礼をいった。
幼い女の子が大事そうに抱えている──刀を受け取った。小さい子には不釣り合いで無骨な年季の入った代物だ。僕は金属製の鞘を掴み、もう片方の手で柄を握った。
「どこまでやれるかわからない…………けど、精一杯やってやる!!」
大きく啖呵をきり、むくりと立ち上がる。鞘から刀を抜いた。刀身は波状の刃文になっており、曇り一つない。素人目でもわかるほど美しかった。
切っ先を敵に向けて、大きく深呼吸した。




