【漫才】帰郷
ボケ「は~い、どうも~皆さんこんにちわんこそば!もう食べられない許してください!」
ツッコミ「……」
ボケ「な~んて言ってますけども!それでも食べちゃうのが人の常!な~んて、言ってますけどもっ!皆さんどうか、腹の具合にはご注意を! 腹はいつでも10分目!って!いつでも満腹じゃねぇか! もう、何にも食えねぇよ!ランニングしないと、食えねぇよ!でもわき腹痛くなるのやだよ、ランニングはいやだよーーー!で、おなじみの!(ボケの名前)でございます!そしてこちらが……! 火星人からやってきた―――」
ツッコミ「来てない!」
ボケ「あー、すいません、間違えました。地球から五億光年と三ヵ月ほど離れております、タピオッカ星からやってきました―――」
ツッコミ「来てない! そんな星はまだ発見されていません! 僕は、(ツッコミの所在地)から来ました! 電車乗り継いで! 来ました!」
ボケ「そんですかーんっ……」
ボケ、その場で小躍り。
ツッコミ「……あのー、楽しそうなとこ悪いんだけど……」
ボケ「う~ん?」
ツッコミ「俺、お前の笑い、わからない」
ボケ「ズバ――ッ! は~い、ズバッと一刀両断! あ~れ~! どうか、おゆるしをぉおうう……」
ツッコミ「……」
ボケ「おうおうおうぅ……だっけっど! 自分で縫っちゃう! ちょちょいいのちょ~いだ、オーウ、ヤッフ! 治った治ったヤッフッフー!」
ボケ「(ツッコミの肩を掴み)あのさ!」
ボケ「フッ?」
ツッコミ「もう、帰らない? 田舎帰ってさ、うどん屋でもやらない?」
ボケ「え~? どうせやるならわんこうど~ん、次から次へとうどんがうどんが! ひぃっ! ヤアアああああっ!」
ツッコミ「……」
ボケ「わんこわんこでわんこうど~ん、あ~じ~つけはっ! お湯だけ! あ~じ~つけはっ! お湯だけっ!」
ツッコミ「(目頭を押さえている)」
ボケ「『おい、店主!』『はいっ! なんでございやしょ!』『ここのうどん、ちっとも味がしねぇじゃねえか! 一体どうなってんだ!』『あ~、すまねぇ、旦那! すぐ、代わりのもんを持ってきますよって!』『頼むぜ? んっとによぉ…!』」
ツッコミ「すみません、ごめんなさい。何かが急に始まりました」
ボケ「『ん? いい匂いがしてきたな。やっと来たのか、代わりのもんが? え?』『お待たせしました、旦那ァ!』『おおおおお! な、なんだそりゃ! そのでっけぇ桶は、一体なんなんでぇ!』『味がないとおっしゃいましたので? 出汁の風呂を持ってきたんでございます』『はぁ? どういうこってぇ?』『これに浸かれば、旦那から出汁が、出るようになりますよ……』」
ボケ、深々とお辞儀をする。
ツッコミ「終わったー! 突然の小噺が終わったー! でもわかんないっ! 面白さ、全っ然、わかんない! 笑いって、なんだろう! あー、帰りたい! もう、帰りたあぁーい!」
ボケ「(ツッコミの名前)……」
ツッコミ「な、なんだよ?」
ボケ「ドントシンクフィー……」
ツッコミ「俺は感じるよりも考えたい」
ボケ「ぬぅおおおお! じゃ、じゃあさ! 砂のお城、作る?」
ツッコミ「作らない!」
ボケ「じゃあ、一緒に孔雀、とりにいく?」
ツッコミ「行かない! どこにいるか知らない!」
ボケ「じゃあじゃあ、歯ブラシ素材から作る?」
ツッコミ「作らない! プラスチックの原材料、知らない!」
ボケ「じゃあじゃあ……うどん粉、買いに行く……?」
ツッコミ「え」
ボケ「うどん粉と出汁の材料買って、田舎かえって、不動産屋行って、手ごろな物件探す……?」
ツッコミ「(ボケの名前)……」
ボケ「安易に繁華街にオープンするのではなく、『知る人ぞ知る』というイメージを持ってもらえるよう、あえてアクセスしにくいところにかまえる?」
ツッコミ「すげぇ、具体的」
ボケ「そしてメニューは三つだけ。肉うどんとかま玉と、素うどん。毎日7時から15時までの営業。水・日・祝日休み」
ツッコミ「おぉ……。休む時はしっかり休むタイプのお店……!」
ボケ「無論、麺は自家製。出汁は厳選した鰹節だけを使った、あっさり出汁。でも、何度でも食べたくなる、コクと旨味を感じられる、味わい深いスープになっています」
ツッコミ「あー、食べたい! それ、今すぐ食べたい!」
ボケ「店主の名は(ツッコミのフルネーム)。かつてはお笑い芸人を目指していたが、ボケの笑いについていけず解散。一人でお店を切り盛りしています」
ツッコミ「え、一人……?」
ボケ「店主に元相方さんの所在を訊ねたところ、『誰もあいつの居場所がわからない、コンビを組んでいたことすら、今となっては、わからない……』とのことでした」
ツッコミ「急。急に、ドキュメント調の怖い話になった。なんでそうコロコロ世界観変えるのよ」
ボケ「だって……俺は、諦めたくないから……」
ツッコミ「(相方の名前)……」
ボケ「わんこうどんの経営、諦めたくないから……!」
ツッコミ「うーん、まさかのわんこうどん! もう、いいよ。どうもありがとうございましたー」