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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
4章 文化祭
99/144

第4章12話 文化祭2日目④

遂に99話ですよ。

次から3桁ですよ!

100話記念のお話をお楽しみに!

 姫乃と手を繋いで3年生の教室がある校舎にやってきた。3年生は受験を控えているということもあり、2クラスで1つの出し物をすることになっている。だから他の学年に比べて規模が大きく、満足感も桁違い──らしい。


「カップルばっかりだね」

「そういう出し物だからね」


 “カップル限定”という名の通り、廊下はカップルで溢れかえっていた。それだけなら別にいい。だが、会場となっている教室から聞こえてくるのは「いや無理だって!」とか「はぁ!?」とか、そんな悲鳴ばかりで、不安が募るばかりだ。


「ねぇ姫、ホントに入るの?」

「うん。どうして?」

「いや、さっきから悲鳴しか聞こえてこないし。怖くないの?」

「だって環くんがいるじゃん」


 平然とそう言ってのける姫乃。僕を頼ってくれること自体は嬉しいんだけど、場所が場所だ。いかにカップルばかりとはいえ、好奇の視線──もとい生暖かい視線を向けられることに変わりはない。平常心でいろ、というのは無理な話だった。


「姫、そういうのはズルい」

「環くんに言われたくないなぁ」

「えぇ……」


 周囲の視線に耐えながら列に並んで待つこと数分。ゆっくりと列は進んでいったのだが、姫乃との会話に夢中になっていたせいで、体感的にはあっという間のできごとだった。


「お待たせしました! ここからは4組ずつのご案内です」

「4組……?」


 そんな僕の疑問は無視された。案内役らしき女子の先輩は、手に持った台本を読みながら言った。


「えーっと、それじゃあ皆さんのお名前を教えてください。あ、終わり次第シュレッダーにかけるので安心してね」


 眩しいほどの笑顔でそう言った先輩。その言葉に嘘が混じっていないことは明白だったので、全員がすぐに渡された紙に記入を開始した。何故か誕生日や好きな食べ物まで書かされたのだが、その疑問は後ほど解決することになる。

 詳しい部分は割愛するとして、4組の名前は次の通り。


小栗(おぐり)(はやて)(2年)・松山(まつやま)加奈(かな)(2年)

②柏木環(1年)・結城姫乃(1年)

稲村(いなむら)(あきら)(3年)・柴山(しばやま)唯月(ゆづき)(2年)

篠田(しのだ)大樹(たいじゅ)(1年)・椎名(しいな)(まい)(1年)


「OKです! それじゃあ説明パート入るので中へどうぞ!」


 何が何だかわからないまま、僕たちは教室の中へと案内された。


△▲△▲△▲△▲△▲


「ようこそお越しくださいました! 私は案内役の茅野(かやの)(ゆき)です。気軽にユキ先輩って呼んでね」


 簡単な自己紹介を済ませてユキ先輩は説明を始めた。堂々とカンペを見ながら。


「えっと、皆さんはよくわからない悪の組織に誘拐されて、このお城に閉じ込められました。ここを脱出するためには、パートナーと協力してでつの試練に打ち勝つ必要があります。ちなみに試練の結果で破局したりしても責任は取らないのでご了承下さい」


 一応世界線というかちゃんとした設定はあるんだなーと思いながら、最後に告げられた注意事項に動揺した。まるで実際に破局したカップルがいたかのような口ぶり。そんなことを笑顔で話すユキ先輩が悪魔のように思えてきた。


「第1のゲームはお互いのことについてのクイズ。第2のゲーム以降はそこの係の人に聞いて下さい。何か質問はありますか?」


 僕たちは首を横に振った。他の3組も質問はないようで、ユキ先輩はにんまりと笑みを深めた。普通に怖い。そのまま「それではご武運をー」と言って僕たちを布で区切られた次のスペースへ案内した。


△▲△▲△▲△▲△▲


「我は第1の試練のGM(ゲームマスター)。楽しんでいくが良い」


 そこにいたのはお祭りでよくありそうな狐の面を被った男子だった。顔がバレていないからか、その演技はなかなか迫力があった。そんな彼にユキ先輩は僕たちの自己紹介の紙を渡していた。なるほど、あれをクイズにするのか。


「早速試練を始めよう。まずはこれを受け取れ」


 渡されたのは先程記入したばかりの自己紹介用紙。ただし全て空欄の新しいものだ。この後に何をすることになるのか予想しながらGMの言葉を待った。


「これより諸君にはその用紙の空欄を埋めてもらう。ただし書くのはお互いのパートナーについてだ。制限時間は3分、質問は受け付けない。では始めろ」


 一方的な物言いだったが、やるべきことは伝わった。僕はすぐにペンを走らせた──のだが、十数秒後、頭を抱えることになった。


①名前

②誕生日

③年齢


 この3つまではまだいい。余裕で答えることができた。問題は④以降だ。


④好きな食べ物

⑤彼氏・彼女の好きなところ

⑥住所


 幸い僕と姫乃は同じマンションに住んでいるため⑥については簡単にクリアできた。ただし家の場所は知っていても、その住所まで知っていることはほぼありえないだろう。もしそんなことがあったらストーカーと言って差支えがない。

 ④の好きな食べ物について。これもご飯を作り始めてからだんだんわかるようになった。“1番”と書かれていないことから、とりあえず思いつくものを全て書いておいた。

 そして問題の⑤、好きなところ。こんなの無茶振りにも程がある。GMの「残り30秒」のカウントを聞きながら必死に頭を回転させる。そして「ゼロ」のカウントと同時にどうにか書き終えた。


「答えを確認する。暫し待たれよ」


 GMが答え合わせに入るや否や、他の3組それぞれから「間違ってたらごめん」とか「難しすぎ」とか声が上がる。激しく同意だ。

 約1分後、採点が終了したようだ。


「この試練はカップルの得点の合計で順位が決定する、つまり12点満点だ。ちなみにこの4組の最低点は6点。まずはその組から発表するとしよう」


 どこからか小さくドラムロールが聞こえてきた。ジャン! という音と同時に、第4位のカップルが発表された。そこからは途切れることなく次々と発表されていった。


「第4位、稲村明・柴山唯月ペア。第3位、篠田大樹・椎名舞ペア、7点。第2位、小栗颯・松山加奈ペア、8点。そして栄えある第1位は……柏木環・結城姫乃ペア! 何と満点だ!」


 第1位、そして満点という言葉に僕たちは呆然とするしかなかった。周りから「何で住所答えられるんだよ……」という声が聞こえてきたけれど、同じ建物に住んでいるんだからそればかりは仕方がない。

 そして僕はこのクイズの恐ろしい点に気がついてしまった。得点が偶数なら関係はない。ただし奇数、つまりどちらか片方しか正解しなかった問題がある場合に険悪な空気になってしまうことに。


「ちょ、GM(ゲームマスター)先輩。私たちの得点配分って……」


 そう尋ねたのは唯一の奇数得点ペアの椎名舞。彼女だけでなく、篠田大樹の顔までも蒼白になっていた。というかGM先輩って…………。


「本当に知りたいのか?」


 演技ではなく、1人の人間として心配するようにGM役の生徒が言った。きっと得点配分を聞いて破局したカップルがいたんだろうな。その心配する声に諭されたのか、椎名は大人しく引き下がった。


「コホン、ではこれを持って次の試練へ旅立つが良い」


 気を取り直したように、GMが数字が書かれた紙を僕たちに渡した。順位が高いカップルから順に4、3、2、1と書かれている。何かしらのポイントということだろう。


「その札が汝らの危機を助けるであろう。くれぐれも気をつけることだな」


 すると裏からユキ先輩が飛び出してきて、「次はこっちだよー」と吊るされた布を捲って手招きをした。今までどこに隠れていたんだろう。僕たちが先輩に続いて布の先へ行き、布が下ろされたところで、GM先輩の「やっぱこの役恥ずいって!」という声が聞こえてきた。色々大変なんだなぁ。


△▲△▲△▲△▲△▲


 僕たちは次のゲーム会場へ目を向けた。そこにはどこから手に入れたのか、ライオンの仮面を被った男子生徒がいた。


「よう、よく来たな。ここでの試練は力比べだ。お前らの世界の言葉で言うなら、“お姫様抱っこ”てやつだな」


 そう言って「ガハハ」と豪快に笑ったライオン先輩。というか、今彼は何て言った?

 どうやらさっきのクイズ、あれはまだまだ序章に過ぎなかったようだ。


「んじゃルールの説明だ。つっても至ってシンプル、1番長くお姫様抱っこを続けられたカップルの勝利! 質問はあるか?」


 その言葉に「はい」と手を挙げたのは稲村先輩。ライオン先輩は「明か。何だ?」と面倒くさそうに対応した。この2人は知り合いなんだろうか。


「お前の正体はどうでもいいや。とりあえず、さっき渡されたこの紙は何なんだ?」


 そう言って先輩が示したのは狐面の先輩に渡された数字が書かれた紙。それを見たライオン先輩は「いっけね、忘れてた」と呟いてから説明してくれた。


「あんたらがさっき狐に渡された札、簡単に言うならボーナスチケットだな。書かれた数字が1なら3秒、2なら5秒、3なら7秒、4なら10秒のアドバンテージがつく。それじゃあ早速、始めようぜ?」


 ライオン先輩はその仮面の下で、ニヤッと笑みを浮かべた。そんな気がした。


「よし、あんたらはそこの台の上に乗れ! 一斉にタイム計測するからな」

「華のJKの皆さん、心配だったらジャージ貸し出すよー」


 時間も惜しいので巻いていこう、とユキ先輩がライオン先輩に囁いていた。それを聞いたライオン先輩は少し早口になって言った。そういうことじゃないはずなんだけどな。

 そんなことを考えながら姫乃の後ろで少し腰を落とす。


「ジャージ、履かなくていいの?」

「うん、大丈夫」

「ん、わかった」

「よーし、準備できたみてーだな。持ち上げろ!」


 ライオン先輩の号令に従って姫乃を抱え上げる。羽のように──とは言わないけど軽い。ちゃんと食べてるのか心配になるくらいには。


「よーい…………スタート!」


△▲△▲△▲△▲△▲


 ゲーム、じゃなくて試練自体はあっという間に終わった。1分が経過したあたりで小栗先輩がギブアップ。そこから約30秒後に篠田がギブアップして、最終的に僕と稲村先輩の一騎打ちになった。しかし大勢の視線に耐えられたくなったのか、「恥ずかしいよ……」と姫乃が体を揺らしたことで僕がバランスを崩してゲームセット。姫乃にひたすら謝られたけど別に気にしてない。驚くことに稲村先輩は残り1組になった後も少しも動じることなく、ユキ先輩が「そろそろ時間も押してるのでその辺で……」と言ったことで漸く柴山先輩を下ろした。


「結果発表するぜー。タイムはボーナス含めてあるからな」


 ライオン先輩は紙に書いた順位表を僕たちに見せた。


1位 稲村・柴山ペア(215秒)……総合順位2位(5ポイント)

2位 柏木・結城ペア(132秒)……総合順位1位(7ポイント)

3位 篠田・椎名ペア(100秒)……総合順位3位(4ポイント)

4位 小栗・松山ペア(69秒)……総合順位3位(4ポイント)


 総合順位というのが気になったけれど、それはまた後で説明があるそうだ。ちなみに稲村先輩の記録は今までで最高らしい。やっぱり3年生は違うな、そう思わされた。


「そんなわけで第2の試練も合格だ。言っとくが、最終試練はこんなに甘くねーぞ?」


 そんな不安になるセリフを聞かされて、僕たちは第2の試練会場を後にした。というか設定が崩れないのはさすがだな。


 そして、ライオン先輩のその言葉が真実であったということを思い知らされることになる。

狐→ライオンときて、次の仮面は何にしようか悩み中。

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