第4章10話 文化祭2日目②
短いよー
何となく、他のクラスって入りづらい。まだ友人がいるなら楽だったかもしれないけど、皮肉なことに、僕には同じクラスの友だちしかいない。来年がおもいやられるが、それは今言っても仕方がない。
「凄いね、環くん」
「あ、ああ……これは予想外だったな」
『手作りバザー』と銘打った隣のクラスの出し物。そこにあったのは、高校生が作ったものとは思えないクオリティの小物やアクセサリー。そのクオリティに柄にもなく圧倒されていた。
「ここならお揃いのあるかな」
「絶対あるよー」
そんなことを話しながら色々見て回っていると、店員役らしき女子生徒から「何かお探しですかー?」と声をかけられた。
「あ、えっと…………」
初対面の人と上手く話すことができないという悪い癖が出てしまった。黙ってしまった僕に代わって、姫乃が事情を説明してくれた。ただ、事情が事情だけに、説明されると少し恥ずかしくなる。
「何かお揃いにできるものないかなーなんて」
「お揃いって……あ!」
そう叫んだ女子生徒。首を傾げる僕と姫乃に彼女は言った。
「もしかして、柏木環くんと結城姫乃さん?」
「え、そうだけど……何で?」
「大悟くんから聞いてるんだよ! あ、私男子バスケ部のマネージャーしてるんだ」
つまり、大悟が色々と吹聴しているんだろう。それにしても、彼女が大悟のことを話す時のこのキラキラした目。ひょっとして、そういうことなのか? まぁ、大悟はバスケ部のエースらしいし、アイツは顔も性格もいいし背も高い。当然といえば当然なんだろうけど……昨日のことがあった以上、複雑な心境だった。
「私、梅崎優乃。よろしくね」
「あ、ああ……よろしく」
「よろしく!」
僕がどう対応したらいいのか色々頭を悩ませている間に、他クラスに知り合いができてしまった。とりあえず大悟を後でしばいておこうと、そう決意した。
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「えっと……お揃いかぁ。2人は付き合ってることを周りに隠してるわけじゃないんだよね?」
「まぁ、クラスの皆は知ってる」
「隠すこともないなら…………これとかいいんじゃない?」
「わ、可愛い! これ手作りなの?」
「そだよー」
急に店員らしくなった優乃。ぶっちゃけ僕にはアクセサリーとかの知識は皆無だから、ここは彼女に任せるとしよう。姫乃とも気が合うようで、初対面とは思えないテンションで商品を選んでいた。
「ね、環くん」
「ん?」
「これとか……どうかな?」
10分ほどして姫乃が持ってきたのは、十字架のネックレスだった。そこまで大きくもない邪魔にならない程度の大きさで、シンプルなデザイン。色も金色と銀色が選べるようで、手作りとは思えなかった。
「こういう材料ってどこで集めるんだ?」
「それは企業秘密なんです」
「あ、そう…………」
「環くん、どう?」
「いいと思う。それ、買おうか」
「うん!」
目を輝かせている姫乃が可愛すぎて直視できない。視線を下げてネックレスにつけられている値札を見ると、なんと300円。さすがに安過ぎないか?
「え、安くない?」
「そんなことないよ? ブランドでもなんでもない手作りだし、妥当な値段じゃない?」
「いや、このクオリティでこの値段は……」
「あはは、面と向かって言われるとさすがに照れるね」
「え?」
「それ作ったの私なんだ」
それを聞いた姫乃は目を丸くして「凄い」と呟いた。僕も同意見だ。高校生でこのレベルだったら……
そんなことを思っていると、優乃は少し恥ずかしそうに言った。
「私、将来はそっち系の仕事に就きたいからさ。文化祭だから手を抜くってのはプライドが許さなかったんだ」
「だからって……凄いな」
「えへへ、だから姫乃ちゃんが『これ可愛い!』って言ってくれた時は嬉しかった。ありがとね」
「んーん、ホントにすごいよ」
「も、もういいよ! えっと、2つで600円になります」
照れたように話を切り上げた優乃が少し可笑しくて、笑いながら財布から600円を取り出す。姫乃が「えっ!?」という表情で見上げてきた。
「環くん?」
「ちょっとくらいは彼氏らしいことさせてよ」
「え、でも……」
「いいからいいから」
「………………ありがと」
姫乃のお許しが貰えたところで、600円を優乃に渡す。すると優乃はニマニマ笑みを浮かべて言った。
「せっかくだし、つけてあげたら?」
「え?」
「『彼氏らしいこと』したいんでしょ?」
「ま、まぁ…………」
優乃に聞かれていたことにちょっとだけ顔が熱くなる。でもそれを気にしたら負けだ。
姫乃の方を向き、買ったばかりのネックレスの留め具を外して姫乃の細い首に回す。そのまま留め具をはめて姫乃の顔を見ると、真っ赤だった。
「……姫?」
「な、何で人前でやるかな……」
「え?」
そう言われて周りを見ると、この教室にいる人たちのほとんどの視線が僕たちに集まっていた。焦って優乃の方を向くと、視線を逸らした状態でこう言われた。
「いや、私は『つけてあげたら?』って言っただけで……ここでつけろとか言ってないし」
正論だった。というか、僕が早とちりしただけだった。
「えっと……ごめん」
「ジュース1本」
「はい」
そんな僕たちを見て、優乃が「これは環くんが尻に敷かれるやつだな」と呟いた。大きなお世話だ。
「何にせよ、買ってくれてありがとね」
「ん、大切にするよ」
「私がブランドを立ち上げた際には、是非ご贔屓にして頂けると幸いです」
そう言って笑った優乃につられて僕たちも笑った。
そしてバザーを後にして、次はどこへ行こうかと期待を膨らませた。




