第4章5話 文化祭1日目終了後② ──カラオケにて──
まぁ、こんなイチャイチャでも楽しんでください。
短めです。
さて、カラオケにやってきたはいいけれど、僕は歌うのが苦手なんだ。だから姫乃には悪いけど、開始から30分ほど、聞く側に徹していた。まぁ、歌っているのは大悟と亜美だけなんだけど。
「普通に上手いな」
「大悟くん、何かイメージと違うね」
そう、姫乃の言葉通り、僕も大悟の歌のチョイスに驚いていた。何しろ、大悟が歌うのはほとんどが僕でも知っているアニソンだったから。ちなみに亜美が歌っているのは最近話題のラブソングばかりだ。幸いこちらの方も知っていたので、何の問題もなく合いの手を入れることができた。
「隠してたけど、俺結構オタクなんだぜ?」
「そうそう。大悟の家、漫画とかラノベばっかりなんだよ」
「悪いかよ」
「別にー。そんな大悟もいいなーって」
「だろ?」
うん、人前でイチャつくのはやめて欲しいな。というかさっきからこの2人のイチャつき方が尋常ではない。僕たちもこうだったとするなら、もっと控えるべきなんだろうな。さすがにいたたまれなくなってきたので「ちょっとジュース持ってくる」と部屋を抜け出した。姫乃もついてきた。
「すごいね」
「ラブラブだね」
そんなことを話しながらドリンクバーの前に立つ。
「姫、何がいい?」
「うーん……オレンジジュースかな」
「ん、わかった。氷は?」
「いらなーい」
付き合い始めてわかったことだけど、姫乃は結構お子様舌だ。辛いのが苦手、炭酸系は飲めない。1度僕が飲んでいたコーラに興味を示していたので飲ませてみると、1口含んだだけで渋い顔をしていた。まぁ、そんなところが可愛いんだけど。
「何か変なこと考えてるでしょ」
「いや、別に?」
どうやら顔に出てしまっていたようだ。
誤魔化すようにして自分のコップにジンジャーエールを注ぐ。炭酸系の中ではジンジャーエールが一番好きだ。
こぼれないように注意しながら部屋に戻る。姫乃にドアを開けてもらって中に入ると、大悟と亜美が難しい顔をしていた。
「……どうしたの?」
「いやー、お前らの歌聞いてねーなって」
「うぐっ」
「せっかくカラオケに来たのに勿体なくない?」
「………………まぁ」
「姫乃ちゃんもタマッキーが歌ってるとこ見たいよね」
「それは、確かに」
あぁ、神様。これは2人をからかった罰なのでしょうか。
もう逃がしてはもらえないだろう。気がつくと大悟がドア付近に立ち、逃げ道まで塞がれた(物理的にも精神的にも)ことになる。
「……わかったよ」
「やった!」
「その代わり──」
「ん?」
「──後悔、しないでよ?」
顔を青ざめる2人を他所に、リモコンを操作して1番得意なバラードを予約する。比較的最近の曲だから、誰も知らないということはないだろう。
少し長めの前奏が流れる間にマイクを持ち、心の準備をする。
そして……
「──────♪」
歌い終わると、部屋の中は静寂に包まれた。
その静寂を破ったのは、信じられない、というような大悟の呟きだった。
「…………待て」
「ん?」
「待て待て待て。お前、音痴じゃなかったのか?」
「タマッキー、95点って……どういうこと?」
「環くん、すごい上手い!」
そう、歌い終わって採点画面に表示された点数は95点。
誰が音痴だと言った? 確かに僕は歌うのが苦手だと言った。ただし嘘はついていない。だって僕は人前で歌うのが苦手なんだから。
唖然とする2人を放置して、僕は姫乃に言う。
「姫、今度は姫が歌ってくれる?」
「……環くんの後だと何か恥ずかしいな」
「大丈夫だよ」
「うん、わかった」
そして姫乃はぎこちない動作で曲を予約し、マイクを持った。
「笑わないでよ?」
「もちろん」
そして曲が流れだし、姫乃が口を開いた。
「──────♪」
彼氏だから少し贔屓が入っているかもしれない。それでも、姫乃の歌は今まで聞いた歌の中で、1番優しく、それでいて儚い声をしていた。思わず聞き惚れてしまうほどに、姫乃らしい、美しい声だった。
「姫、すごい上手だった」
「えへへ、ありがと」
そしてこの後、更に盛り上がっていくことになるんだけど、それはまた別の話だ。
歌が上手い人って、羨ましい。




