第4章4話 文化祭1日目終了後①
文化祭1日目より1日目終了後の方が長くなりそう。
もう少しだけ姫乃と一緒に過ごしていたかった。そんな思いで家に帰る前に寄り道をすることにした。
父さんに『少し遅れる』と連絡をしてから、家とは逆方向に歩き出す。すぐに『わかった。あまり遅くならないように』と返信があった。あお姉はもう家に帰った頃だろうか。
「姫、どこか行きたい所ある?」
「んー……カラオケ行ってみたい」
「『行ってみたい』って……姫、カラオケ行ったことなかったの?」
「うん。だから行きたい」
「ん、わかった」
そんなわけで僕たちは家とは逆方向にあるカラオケ店に向かっていた。駅前にもカラオケはあるはずなんだけど、あまり人気がない静かなところがよかったから。今更だけど、これは“放課後デート”になるんじゃないか?
手を繋いで歩いていると、どこかで見たことがあるような人物を2人見つけた。というか、ついさっき別れたばかりのはずだ。姫乃もそれに気づいたようで、小声で「あの2人って……」と呟いていた。
「大悟と……亜美?」
「うん」
「家ってこっちだったのか?」
「違うよ。前に亜美ちゃんの家行ったけど、駅の方だった」
「そっか……」
それならどうして……とか思うところは色々あったけど、それ以上に、からかわれた仕返しをしてやろう、なんて考えが浮かんできた。何か弱みを握れたなら、それはそれで何かあった時の交渉材料になるしね。
「姫、尾行しようか」
「え、えぇ!? 何か悪いよ……」
そんなことを言いながらも、姫乃はノリノリの様子だった。
そして僕たちは2人の跡をつけることにした。
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尾行開始から10数分、どうやら2人は小さな公園で休むようだ。少し離れた自販機の裏から様子を伺っていると、大悟がこっちに向かってきた。ジュースでも買うんだろうか。
息を殺して待っていると、『ピッ ガタンガタン』という音が2回聞こえてきた。2人分買ったのか?
大悟が自販機から離れたことを確認してそっと顔を出すと、亜美の所に戻った大悟が亜美に買った2本のうちの1本を渡しているのが見えた。
「わ、大悟くん男前」
「姫が欲しいなら買うけど?」
謎の対抗心が芽生えた。それに気付かれないように素っ気なくそう言うと、姫乃はくすくすと小さく笑って言った。全てお見通しなんだろうな。その証拠に、意地悪な笑みを浮かべてこう言ったんだから。
「ありがと。でも今は大丈夫」
「ん、そっか。……にしてもここだと声聞こえないな」
「もう少し近づいてみる?」
「そうするか」
足音を立てないように、裏から回って大悟たちの声が聞こえる所まで移動する。何とか気付かれずに2人の裏へ回ったところで、こんな会話が聞こえてきた。
「疲れたね」
「あぁ」
「でも楽しかったかな」
「まだ終わりじゃねーぞ」
「そうだねぇ」
そんな当たり障りのない会話を聞きながら、僕は大悟に違和感を感じた。なんというか、心ここに在らずというか、そんな感じ。でも、その理由は何となく理解できた。だって僕もそうだったから。そして数日前、大悟も恋人を作れと言った時のあの「俺だって……」という言葉。
大悟は、亜美のことが好きなんだろう。
そんな結論に至ったところで、大悟が言った。
「なぁ、亜美」
「んー?」
「その……」
「はっきり言ってよ」
「ん……わかった。亜美、好きだ」
あまりに直球な言い方に、思わず苦笑してしまった。まぁ、人のことは言えないんだけど。
しかし、大悟の告白に対する亜美の反応は非常にあっさりとしたものだった。
「あ、そう」
「『そう』って……」
ダメだったのか、そう思ってこっそり離れようとした時、姫乃が僕の制服の袖をそっと引っ張った。
「姫?」
「あれ、見て」
姫乃に言われるがまま姫乃が指さす方向を見ると、亜美が顔を真っ赤にして慌てている様子が目に映った。一体どういうことなのか、理解が追いつかずに困惑していると、姫乃が説明してくれた。
「亜美ちゃん、何を言われたのかよくわかってなかったんだと思う」
「んで、理解すると同時に急に照れてきた、と?」
「多分、そう」
「亜美も可愛いとこあるんだな」
「浮気?」
「違う違う」
2人に聞こえないようにそんなやり取りをしていると、亜美が恥ずかしそうに大悟に尋ねた。
「……何で、私なの?」
「ずっと一緒にいるうちに、好きになってた」
「私なんかのどこが好きなの?」
「好きになるのに『どこが』なんて要らねーだろ。全部好きなんだから」
こういうシチュエーションで堂々と言い切れる大悟のメンタルが羨ましい。僕だったら絶対途中で何も言えなくなってしまう。
姫乃も小さく「わぁ!」と声を上げてから僕をじっと見つめてきた。その視線に気付かないふりをしながら、亜美の言葉を待つ。
というか、『ずっと』?
「あの2人って……幼なじみなの?」
「小学校の頃から一緒なんだって」
「マジか」
そして亜美が口を開いた。
「その、本当に私なんかで……」
「お前なんかじゃなくて、お前がいいんだよ」
「……っ! 私も──」
「ん?」
「──ずっと好きでした」
「…………てことは?」
「えっと………よろしくお願いします」
まぁ、こんな場面見せられちゃ我慢できなくなるわけで…………
「「おめでとう!」」
「おわ!?」
「きゃ!」
何かを考えるより先に、体が動いてしまった。
そんな僕たちに対する2人の反応は、ずっと前から付き合ってるんじゃないかと思えるほどに、息ぴったりだった。
「「み、見てた……?」」
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そんなこんなで全部説明し終え、大悟から「ちょっと来い」と連れ出された。やって来たのは少し前に僕たちが隠れていた自販機の前。
「最初から見てた……ってことでいいんだよな?」
「うん。ごめん」
「別に謝らなくてもいいんだけど、いざ自分がこうなってみると恥ずかしいもんだな。これからは自重するわ」
「止めるって選択肢はないの?」
「ないな」
即答だった。
ため息をつく僕を見て笑ってから、大悟は言った。
「ちょっと出かけようぜ」
「どこに?」
「カラオケ。ま、ダブルデートってやつだな」
「……何で?」
「元々行くつもりだったんだろ? いいじゃんか」
覗き見していたという罪悪感からか、大悟のその提案を断ることはできなかった。姫乃と亜美に事情を説明してから4人でカラオケに向かう。
その途中で2人に訊かれた。
「そういえば環さ」
「ん?」
「姫乃さんの呼び方変えた?」
「あ! それ私も気になってた」
そう言われて今更ながら気がついた。父さんとのことは全部話したけれど、姫乃との過去のことを何も話していなかったことに。
そんなわけで幼少期のことを2人に話すと、「なるほどねぇ」と納得された。大悟からは「色々あるんだな」と心配もされた。
「それはもういいから。ほら、カラオケ着いたよ」
「俺個人としてはもう少し聞きたいところだけど……ま、歌うか」
「歌お歌お!」
「何か緊張するな」
四者四様のテンションでカラオケに入る。大悟が持ち前のコミュニケーション能力を見せて受付をしてくれた。そのまま指定された部屋に入って漸く落ち着く。
色々見てて思ったけれど、大悟と亜美には付き合ったばかりの初々しさというか、そういったものが皆無だった。それが幼なじみ故のものなのか、それは誰にもわからない。
はーいカップル追加!
思う存分イチャイチャして欲しいものです。




