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あの場所でもう一度君と  作者: ましゅ
4章 文化祭
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第4章1話 文化祭1日目①

今日も3話目投稿。

長い文化祭開幕です。

 僕たちの学校の文化祭について説明しよう。

 期間は3日間、生徒会役員(会長・副会長・初期・会計・庶務)と学年主任、校長、教頭の計8人が審査員となって各クラスの出し物を10点満点で審査。得点が多かった上位3クラスが表彰される。

 また、保護者や地域の人なども参加可能である。ただし事前に生徒会に申請した上で制作した招待状が必要となっている。ちなみに僕は3枚(あお姉・修さん・和正さん)招待状を作成した。


 そんな感じであっという間に文化祭当日。

 色んな事情があって、屋台は中止。教室内で焼きそばを提供する形になった。教室に用意されたホットプレートは2台、1日目に用意した材料はとりあえず100食分(外装・内装の手間が省けた分、焼きそばに使える費用が増えた)で、1日目(午前)の調理担当は大悟と亜美と桔梗。僕と姫乃のシフトは今日の午後と明日の午前中。つまり明日の午後以降は完全にフリーになる。

 とにかく今日の午前中も遊ばなければ損、ということで、伊織、瑞希、姫乃と一緒に気になったクラスを回ることにした。


『それじゃあカウントダウン開始!』


 急に紗夜の声が聞こえてきて驚いた。彼女、放送委員だったのか。


『10 9 8 7 6 5 4 3! 2! 1! 文化祭、スタート!』

「「「うおーーーーーー!」」」


 開始のアナウンスと共にそんな雄叫びが聞こえてきて、思わず耳を塞いでしまった。さすがは文化祭、空気そのものが違う。


「びっくりしたー……」

「うん」

「じゃあどこ行こうか。姫、行きたい所ある?」

「ある! ここ!」


 そう言って姫乃がパンフレットを指さした。そこにあったのは……


「『お化け屋敷』か。伊織たちは大丈夫?」

「あぁ、俺は楽しめれば別にそれでいいし」

「そっか。瑞希は?」

「私も平気ー」

「だって。行こっか」

「うん!」


 あっさりと、最初に行く所が決定した。


△▲△▲△▲△▲△▲


 やって来ましたお化け屋敷。

 早めに来れたと思っていたけれど、思ってた以上に人が並んでいた。


「結構保護者もいるんだね」

「確かに。それくらいクオリティ高いんじゃない?」


 そんなことを話しながら待つこと数分、僕たちの番になった。


「お待たせしましたー。ここから先は2人1組でご案内させていただきまーす」

「2人1組か……。姫、行こっか」

「うん」

「お? 彼氏さんですか?」

「あ、はい」

「しっかり()()()()()()()()()()()

「……? わかりました」


 それだけ怖いのかと思って足を踏み入れると、案内役の人が「カップル1組入りました!」と叫んだ。たかがお化け屋敷にカップル用とかあるのだろうか。

 中に入ると、急に真っ暗になった。午前中なのにここまで暗くするのはなかなか難しいんじゃないだろうか、なんて内装に感心していると、二の腕に柔らかい感触が押し付けられた。


「姫、怖いの?」


 極力柔らかさを意識しないようにしてそう聞くと、姫乃は頭をふるふると横に振って答えた。


「こ、怖くないし」

「そっか。じゃあ腕離してみ?」

「それはやだ!」

「じゃあせめて手を繋いでくれないかな。さすがにこれは……」


 漸く自分が何をしているのか理解した姫乃は、「あ、ごめん」と言って腕を解いた。そしてすぐに指を絡めてきゅっと握った。怖いのを必死に我慢している姫乃は初めて見る。うん、すごい可愛い。

 そんなことを考えながら歩いていると、急に姫乃が「にゃーーーー!?」と叫んだ。やっぱり猫みたいだ。


「ど、どうしたの?」

「あ、あ、あ……」

「あ?」

「足首掴まれてるぅ……」


 目線を下げると、確かに姫乃の足首を誰かの手が掴んでいた。

 ここで僕にからかってやろうという変な感情が芽生えた。


「怖くないんじゃなかったっけ?」

「ごめんなさい嘘つきました怖いです助けてください!」

「よろしい」


 もう一度姫乃の足首を見ると、既に手は離されていた。姫乃はそれに気づいた途端、へなへなと座り込んでしまった。


「ちょ、姫?」

「腰抜けた……おんぶ」

「仰せのままに」


 そして僕は震える姫乃をおんぶしてまた歩き出した。


△▲△▲△▲△▲△▲


 ところが、普通に歩いているはずなのに叫ぶのは姫乃ばかり。僕には何の仕掛けもない。


「きゃ! 何これ雑巾!?」

「うわ、姫、暴れないで」

「下ろして、下ろして!」

「いいの?」

「じゃ、じゃあ抱っこ!」

「抱っこ……?」

「うん、早く……後ろやだ」

「わかったから暴れないで」


 そんなやり取りがあって、途中からお姫様抱っこに移動するハプニングもあったりして、僕たちはだいぶゆっくり進んでいた。そのせいかどうかは知らないけど、後ろを歩いていた2人に追いつかれてしまった。


「あれ、環じゃん」

「あ、あぁ……伊織か」

「ゆっくり進んでるんだな」

「ま、まぁね」


お姫様抱っこをしているところなんて見られたらからかわれるに決まっている。なのに姫乃はそれどころではない。どうしようかと硬直してしまったのが間違いだった。


「あれ、もしかして……お姫様抱っこ?」

「学校でやるとか……勇者かよ」

「大胆だね」

「いや、あのー。これには深い事情が……」


 そんな言い訳をしても無駄だった。勝手に2人で盛り上がっている。

 そして姫乃は僕の腕の中で縮こまって震えている。この場に僕の味方はいなかった。

 だが、これを大悟たちに言われるわけにはいかない。それだけは何としてでも阻止しなければ。


「あの……」

「んー?」

「どうか、このことはご内密に」

「どうしよっかなー」


 瑞希はそんなことを言いながら僕ををちらちら見てきた。何を求めているのか、とても分かりやすかった。


「何でも奢るので、どうか」

「よろしい」

「なぁ環、俺は?」

「伊織にも奢るから」

「やりぃ!」


 どうにか丸め込むことに成功した。

 そしてちょうど出口に辿り着いた。


「姫、出口だから下りて」

「も、もうお化けいない?」

「いないいない」


 そして4人揃って外に出た。


△▲△▲△▲△▲△▲


「そう言えば」

「ん?」

「これってカップルかそうじゃないかで違いってあるの?」


 ふと疑問に思ってそう伊織に尋ねると、伊織は呆れたように笑って答えてくれた。


「環、お前何か驚かされたりした?」

「いや、されてない」

「俺はめっちゃ驚かされた。それこそ瑞希以上に」

「……それが?」

「どれだけ鈍いんだよ……」


 やれやれと首を振る伊織に代わって瑞希が教えてくれた。


「つまりね、ここのクラスのお化け屋敷は彼氏にいいカッコさせるための場所だったんだよ」

「……え?」

「その証拠に驚かされたのは姫乃ちゃんばっかりだったでしょ?」

「え、マジで?」

「マジで。ていうかパンフにも書いてあったじゃん」

「嘘!」


 慌ててパンフレットを確認すると、確かに小さな文字で『リア充向けのお化け屋敷です』と書かれていた。リア充向けって、そういう意味だったのか。

 震える姫乃を残して、お化け屋敷はクリアした。

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